第46話 本を読むんです

 ある日の放課後、私は改めて建国の伝承が知りたくて学校の図書室へと、カシューと共に赴きました。

 初めて入ったその場所は、紙とインクと時代の匂いがします。

 今読んでいる日記と通ずるものがあり、感慨深く辺りを見渡すと、書架へと足を向けました。


「ルルは建国のことが知りたいんでしたわね、でしたらこちらだと思いますわ」


  彼女はそう言うと、確かな足取りで書架の間をすいすいと目的地へと向かいます。

 聞けば、たまにララとここで勉強会を開いてるのだとか。

 次に私も参加させてもらう約束を取り付けている間に、お目当ての場所へと着きました。

 すると該当図書のあるあたりで、見知った人物が本を片手に思案しているのを見つけます。


「……殿下?」

「……ルル。どうしてここに?」


 殿下が目当ての書架にいるので、自然私達の方から近付く形になりました。

 カシューが殿下の手の中をちらりと見遣りながら尋ねます。


「わたくしたちは建国時のことを調べに。殿下はどうしてこちらに?」

「俺も似たようなもの、かな? 建国記についてなら、この本とこの本が割と詳しく書かれていたよ」


 彼はそう言うと、私に書架から本を取り出し手渡してくれました。


「あ、ありがとうございます。殿下の探している情報は見つかったんですか?」

「残念ながら。あとは城にある文献くらいかな。父上にお願いしようと思ってるんだが、閲覧できるかどうか」

「何故調べているのか、お聞きしても?」


 カシューが興味深く、というよりも好奇心いっぱいに尋ねます。


「ん? ああ、ルルに求婚しようと思って」

「でっ、殿下何おっしゃってるんですか?!」


 私はカシューの前なのにとか、他にも人がいるのにと慌てましたが、障害を乗り越える努力をするとそう誓ったのを思い出しました。

 けど何も友人の前で……とレイドリークス様を少し睨みつけます。

 にもかかわらず、彼はこちらを見ながら頬を染めるとほわほわとでも形容するのが似合う面持ちで言葉を続けました。


「ちょっと違ったかな。前と同じように、求婚できる立場になりたくて。今だとまだ好きは言えるけどお嫁さんになっては言えないからね」

「そうなんですのね。わたくし応援しておりますわ、頑張ってくださいましね」

「ありがとう、エンペルテ嬢。俺はあらかた終わったからもう帰るよ、君達もあまり遅くならずにね」


 別れの挨拶をし終わると、レイドリークス様は善は急げとでもいうように、足早にその場を去っていったのでした。


「殿下ったら、慌ただしいこと。よっぽどルルの事が大事ですのね」

「……!! そっそんなことは」

「あるでしょうあのお顔。わたくし達気をつけなくては……女生徒達の嫉妬がきては大変だわ。ルル、わたくしから離れては駄目よ?」


 カシューが私をみながら、右手で握り拳を作って熱意を伝えてくれます。


「! はいっ、わかりました」


 友人が身を案じてくれる、とても、貴重な体験です。


 私はじーんとしながらこくこくと頷き返事をしました。

 その後は彼が手渡してくれた本と一緒に、いくつか建国について記述のある本を借り、カシューとは別れて弟と帰路についたのでした。




 帰宅後早速私は借りてきた本を読み進めていきます。

 絵本まで借りてきてしまいましたが、余分だったでしょうか? けど絵が綺麗だったので、これはこれでよし。

 と、自分を肯定しつつ、それらに目を通していきました。


「……首都の名前の由来は、建国皇の友人に由来する」


 一通り読み終えると、私は一つ息を吐き出しました。

 結構な文章量でしたので、メリーアンを呼ぶと飲み物を頼みます。

 音読していた訳ではないのですが、集中して読み過ぎていたせいか時間が経ち喉が乾いていました。

 持ってきてもらった紅茶を口に含むと、ほ、と息が出ます。


 図書室で借りた本には、大して私が必要な情報はのっていませんでした。

 いて言えば、首都が建国皇の友人の名前だったということくらいでしょうか。


 実は日記を療養の間にだいぶ読み進めていて、どうやら日記は建国の頃の話であることがわかってきていました。

 そして日記の書き手のお婆様がどうも、建国皇の友人を知っているらしき記述が出てきたのです。

 糸口になるかもしれない、と思い建国記などを読み漁ってみたものの……肝心の友人の名前がわからないので照らし合わせができません。


「もう少し、日記を読み進めなければですね……」


 日記の方を読むことにするかどうか迷ったところで、夕食に呼ばれ。

 まだ無理をすることの叶わない体をまずは休ませることにし、その日はそれ以上のことはせず就寝することにしたのでした。

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