第44話 ぺろっとされるんです

 真剣な心には、真剣な心を。


「…………私が何を言ったかは、すみません。覚えていないんです。けど、気持ちだけを言えば、私もレイドリークス様が……好き、です。一緒に、努力がしたい。私少し前からその準備をしていたんです、続けても…………、っ続けても、良い、ですかっ?」




 最後の方は、涙声になってしまいました。

 届いたでしょうか?

 私の声は、気持ちは、彼に――




 少し不安に思うと、おもむろにレイドリークス様の顔が近づいてきて額に額を当ててきます。

 その表情は、何だか苦しそうで。


「俺の立場に巻き込んで、ごめん。少しやけっぱちになったのと、ルルが俺のことを気にしているようだったから、嫉妬してくれやしないか、ってローゼリア嬢とのことは……ちょっと意地悪した。そのせいでいらぬ小細工をする状況にもしてしまって……。もっとちゃんと正攻法で立場を手に入れて、それから君に申し込む努力をするべきだった。本当にごめん」

「良い、っです。私も、途中まで自分の気持ちなんてわかってませんでした、から……」


 お互いきっと、すごくみっともない顔を、至近距離で見せてしまっています。


 恥ずかしい。


 と、いきなりもっと彼の顔が近づいてきて、


 ぺろっ


 と、私の涙を舐めて離れていきました。


「??!!!!」


「あ、しょっぱい」


 今、ななな、な、なめ……


「何してるんですか!」

「や、泣いている顔も可愛いけれど、泣き止んでほしいかな、と」


 確かに、びっくりし過ぎて涙なんて引っ込みましたが、やりすぎじゃないですか?!?!


「役得だし」


 しれっとにこやかに、よくわからないことを言われます。


「早く問題を解決しないとね。大手を振ってルルとイチャイチャしたい。こうやってこっそりも良いけれど」


 良く、無い、です!!

 心臓持たないからやめてください。


 言いたいのに、言えなくて、口がはくはくしています。

 顔はきっと真っ赤です。

 さっき真っ赤になっていたレイドリークス様はどこ行ったんですか……まさか幻?

 自分で自分のほっぺたをつねってみますが、普通に痛いです。

 彼に慌てて、つねっていた手を外されました。

 私の膝で、手はその両手に包まれたままになります。


「ちょ、ルル何してるの? 駄目じゃないか、怪我したばかりなのだから体を大事にしなくては。あ、そうだ。次から君は俺の事を守らないように」


 包まれた手につい意識も視線も集中していた私は、その言葉にばっと彼の方を見やると声を荒げました。


「嫌です!」

「駄目」

「どうしてっ!」

「ルルこそ、どうして?」

「だって、守るなら私が良いんです!」

「その気持ちは、嬉しいけど。俺も君を守りたい」

「守らなくて結構です」

「なんで」

「私は私が守ります」

「ずるい、じゃあ俺のことは守ったら駄目」

「ずるくないです。だって、私こそがレイドリークス様を守りたい!」

「それはずるい! 俺だってルル一人を傷つけさせたりしたくない!」


 白熱する口喧嘩は、どちらかが我に返った後に吹き出した笑い声で、おあいこになりました。


 その頃合いで、衝立をトントンと叩く音がして先生が顔を出します。


「人払いしてるとはいえ、イチャイチャは程々にしてよ〜先生あてられて寂しくなっちゃうぞ。さて。そろそろ良いかな? スープ用意できたから、どーぞ」

「ありがとう、ございます」


 私がお礼を言うと、レイドリークス様もお礼を言いながら受け取って机の上に置いてくれました。


 イチャイチャって、第三者から言われてしまうと、気恥ずかしさがとてつもないです。

 少し羞恥を感じて身の置き場に迷う感じになり、先生の顔をあまり見れませんでした。

 親身になっていただいてるのに、申し訳ないです、でも、恥ずかしい……。

 我に返って反省です。

 ここは医務室なのに、ちょっと場を弁え忘れました。

 先生は、なんてことのないように手をひらひらとさせて去っていかれましたが……自重、しないといけませんね。


「人払いをされたんですか?」


 私は、先程言われて気になった点をレイドリークス様に尋ねました。


「誰かから聞いてるとは思うけど、ルル、結構怪我が酷かったんだ。動かせなかったし、君も生徒も気遣いすぎないようにってことで君の父上がね。あ、もちろん臨時の医務室は空き教室に開設してるから安心して」

「そうなんですね、学校には迷惑をかけてしまいました」

「毎年ちょっとの怪我人が出るのは想定内だから、ルルは気にしなくて大丈夫だよ」

「私が寝ている間に、何か進展は?」

「残念ながらこの件に関しては特には。君の父上は何か知ってるみたいだけれど、詳しいことは何も」

「そう、ですか」

「俺には護衛がきっちりとつくようになったから、命に関しては安心して欲しい。ルルは体、まず治そう?」

「はい」


 今度は素直に頷きました。

 動けるようにならなくては、自分のことも彼も守れません。

 例えそうではなくとも、痴話喧嘩のようになるのは二度目を避けたいので、まだ守る気でいるのは口に出しませんでした。


「今日の夕方には家から迎えが来るそうだから、それまでゆっくりしていて。くれぐれも、無茶はしないこと、良いね?」


 レイドリークス様はそう言いながら私の頭をぽんぽんと撫でると、じゃあ俺はこれから授業だから、と言って医務室から出ていきました。

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