第39話 足早に歩くんです
先生の合図があり、早速方々で自己紹介が始まりました。
全員で集まれるのは当日のみと決まっていますので、知り合いでない限りはほぼお互いを知りません。
何ができて何ができないのかもわからない。
世に出ていく上でいくらでもあるそういったシチュエーションで、どう相互理解を深めるか。
この演習はそういったことも見られる、なかなかに実践的なもの。
年長者としてリードしなくては、と意気込んだところで、私の隣にいたカシューがさらりと話し始めました。
「皆様はじめましての方もいらっしゃいますわね。今回は一年生がいないようですので、手短に。わたくしはカシューリアですわ。六年、剣技は未履修、体術は護身術まで、魔法の操作は針に糸を通すが如く。魔法での前衛ができるかと」
艶やかに微笑みながら、カシューがお手本のような自己紹介をしました。
学年から、次は私だろうと思い終わると同時に口を開きます。
「私はルルーシアです。六年生、剣技は基礎まで、体術も基礎まで、魔法の操作は枯れ葉の山を燃やすくらいまでなら。あ、手当ての基礎を修めてます。後方支援希望、です」
剣術体術については、本当のことは言えませんのでいつも基礎までと伝えるのを忘れません。
……魔法については、事実です、情けないことに操作がとっても苦手で匙加減ができなくいつも弱すぎたり強過ぎたりそも顕現しなかったり、散々です。
これだとただの使えない人員なので、いつも手当てのことは言うようにしています。
せめて怪我とかきちんとフォローできるアピールしておかなくては!
私の自己紹介が終わったのを受け、今度は私の知らない男子生徒がボソボソと話し始めます。
「ぼ、ぼぼ僕はコッツオ、です。五年で、す。剣術は未履修、体術も、で。えっと、魔法は、えっと、操作はビーズをつなげるくらい、には。後方、希望です」
おどおどしたコッツオ様の自己紹介すぐ、今度はレイドリークス様が引き継ぎ口を開きました。
「レイドリークスだ。四年。剣術と体術は学校で習う全てを習得済み、魔法は小麦粉一粒を操るが如く。このメンバーだと前衛が手薄そうだから、俺が担おう」
言い終わると、彼がふわりと微笑みます。
それを横目に見ながら、今度はぐーパンチをしていたトーモリエ様が自己紹介をしました。
「トーモリエです! 三年生ですよろしくお願いします。剣術は未履修、体術は三年の今筋がいいと言われています。魔法操作は霧を漂わすが如く、です。前衛希望です!」
ペコリと勢いよくお辞儀をして、彼女は言い切りました。
皆さんの自己紹介を総合すると配置に難はないようで、調整不要みたいです。
カシューの方を見やると同じ意見のようで、私の視線に頷くと陣形の相談を始めました。
「希望配置のばらつきがないようですので、希望のままいく、ということで皆さんよろしくて? 問題ないようならあとは開始の合図を待ちましょう。何かあったら報連相、瞬時に言葉がけするのを忘れないこと」
メンバー皆、否はないようでそれぞれが頷きます。
それが終わったちょうどその時、校長先生の打ち上げる魔法光が眩く桃色、黄色、水色、黄緑色、といった色とりどりの色を振り撒き散りました。
いよいよ、スタートです!
合図と共に一斉に輪が裏山目掛けて突進とも言えるべき速度で駆けっていきます。
「焦らず先頭の跡をしっかりと行くでいいかな?」
とレイドリークス様が言ったので、私達は第一陣が行ったくらいから陣形を組みつつ鬱蒼と生い茂る雑草の直中へと、向かって行くことにしました。
見ると前方左側の人気が比較的少ない様子です。
彼も気付いたらしく、後方の私とコッツオ様に振り向き様、
「向かって左側が手薄のようだ。そこから探そうと思う。他に案があれば言ってほしい」
と、聞いてきました。
私に否はありませんのでそう答えます。
「そ、そそそれで、いい、です」
コッツオ様も異論はないようで了承なさいました。
前衛お二人はレイドリークス様と視線でやり取りしていたらしく、否もなくお二人で何だかキャッキャとおしゃべりをしているようです。
え、そんなに余裕なんですか?!?!
これまでそんな光景を見たことがなかったので、思わずびっくりしてそっちを凝視してしまいました。
ってレイドリークス様まで会話に参加してらっしゃいますか?!?!
しかも恐ろしいことに、周りへの警戒も一切解いていらっしゃいません。
「……す、すすすごすぎ……」
足早に歩きながら、コッツオ様が思わずといった感じで呟きました。
私も、同感です。
レベルの高さに思わず唸っています。
私も、実力を出し切るわけにはいきませんが、無様な真似はできません。
改めてそう思い、気合を入れ直しました。
そうこうしているうちに、私達は演習場の最初のエリアである雑草生い茂る場所を抜け、いよいよ木々の鬱蒼と生い茂るエリアへと差し掛かったちょうどその時。
奥の方で「きゃー!!」という悲鳴が上がりました。
それと同時に、先生への救援信号である赤い魔法光がどんよりとした空に輝きます。
暫くすると今度は青色の魔法光、先生が救援に訪れた合図です。
一グループ脱落したのを知り、改めてこの大規模演習一筋縄ではいかない、と感じました。
私達はなおも周りを警戒しつつ、探索しながら歩を進めていきます。
「諸先輩方! ここぬかるみどころか少し沈むかもしれません、迂回を提案します!」
突然、トーモリエ様が声を上げました。
足元を見ると、確かに、少し沈んでいるような感じがします。
周りを見渡すとそれぞれの足も少し取られているようでした。
慌ててきた道――とはいえ獣道ですらないと追ってきた場所、という意味ですが――へと戻ります。
「あ、わわっ」
と、コッツオ様が思いっきり足を取られてしまったようで、見るとくるぶし近くまで埋まってしまっていました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます