第38話 演習が始まるんです
翌日は雨でした。
しとしとと振る雫が、街中を少しきらきらと装飾しています。
ガリューシュと一緒に学校へ着くと、レイドリークス様が待ち構えていました。
「おはよう、ルル。今時間はあるかい?」
「殿下、おはようございます。はい、大丈夫ですよ。昨日の件ですか?」
「そうなんだ、昨日早速話をしに行ってね。驚かせてしまったようだったけれど、許可はもらったよ。その時他の男子生徒からも声がかかってね、俺は特に否はなかったから、勝手だけれどメンバーに入ってもらうことにしたから、その報告をね」
「そうですか、他に誘うあてもなかったので私も問題ないですよ。カシューには昨日返事をもらいました、ぜひ入れてほしいそうです」
「そうか、では五人揃ったから先生に申請しておくよ。顔合わせはまた日程を決めてから伝えるけど、いいかい?」
「わかりました」
早速書類を作らなくては、と彼は言うなりたったか走っていってしまいました。
なんだか忙しないです。
しょうがないですね、メンバーは時に途中でかっ攫われることもあるとか。
時間との戦い、根回しの練習でもあるので私も特に何も言わずその背中を見送りました。
もう少しお話ししたかったな。
っていう私の我儘な気持ちは内緒、です。
「そういえば、ガリューシュはもう誰かのグループに入りましたか?」
「おう、俺はもうダチんとこ入り済みだぜ。後もう一人入れば申請出せる感じ」
「そうですか」
グループ決めは後半になると難儀するので、今日明日が勝負です。
「私、人脈はないですけど友人には恵まれましたから、決まらなくて困ったら相談してくださいね?」
「姉上ありがと。ま、ダチが有能だから大丈夫だよ」
ガリューシュは頭の後ろで両手を組みながら、晴れ晴れとした笑顔を見せました。
弟は良い友人を持ったようです。
私も、しっかりと今ある縁を大切にしなくては。
そう思いました。
雨が降ったりやんだりが続いた先週。
やはり週の後半は一部の方がメンバー集めに四苦八苦し、大乱闘が起こっていました。
奪い合われた方の顔色は、購入したての紙のように真っ白けだったそうです。
強く、生きてください、と願うばかりでした。
そしてその明けの今日、いよいよ大規模演習です。
地面は連日の雨で少しぬかるんでいるよう。
演習場は、裏山一帯を結界が覆い、木々が鬱蒼と生い茂り動植物豊かなフィールドとなっています。
その入り口となっている校舎裏すぐには、病気などの理由のある欠席者以外の全生徒がグループごとに輪になって集まっていました。
毎年行われるこの授業は、魔法省も協力のもと有力貴族のうち手の空いた方までボランティアで見守りをしてくださる、一大イベントです。
何せ生徒も相当数いますので、毎年関わる人数が半端ないと聞きます。
街のお医者様にも協力を仰ぎ待機していただいていたり、皇宮騎士団の一部と街の自警団の中で腕に覚えのある方も、有事に備え待機していただけるのは感謝しかありません。
終わった後に慰労会も開かれ屋台も出るので、出店する街のお店も潤う、私たちの胃袋も潤うお祭りのような側面も担っていたりして。
成績のために張り切る人以外にも、その後のご褒美のような慰労会目当ての人もいると聞いています。
さて、その大規模演習ですが、ルールはたった一つ。
毎年一時間の制限の中、野生で生息する小型の魔獣と、それでは足りないので先生方が魔法で生み出した幻影魔獣、そのどちらかを一体倒すこと。
たったこれだけなのですが、メンバーによってはとても難しい課題となります。
私はぼっちだったので、四年生までは組む相手が選べず散々な目に遭いました……。
当時のことは話したくない覚えていたくない記憶です。
流石に大怪我は困ると思った私は、昨年は頑張って程々のグループに食い込むのになんとか成功しました。
誰と組むかって、ことを成し遂げるのにとても大事、それを知った昨年です。
昔語はさておき。
演習はもうすぐ始まります。
最初の十分で簡単な自己紹介をした後、残り五十分で魔獣を探して倒さなくてはならないので、私は毎年使っている自己紹介を頭の中でそらんじました。
すぐに、先生の魔法によって拡大された声が辺りに響き渡ります。
「皆さん、本日は健やかにこの場に集まっていただき、ありがとうございます。本日の演習、どうかこの先の未来の糧となるよう、精一杯取り組んでください。十分後に魔法光で合図を送ります。それでは、始め!!」
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