第35話 噂は色々のようです
さて、皆さんの食べ物と飲み物が揃いましたので、食事の時間です。
「それでは、今日も大地の恵みと手掛けた全ての人々に、感謝を」
「「「「「感謝を」」」」」
レイドリークス様の号令で祈りを捧げ、各々一口目を頬張ります。
今日のお食事はお魚メインです。
程よく脂がのったお魚が蒸してありちょうど良い弾力、身にソースが絡んで、旨味が口一杯に広がります。
さらに、つけ合わせのお野菜の優しい甘みといったら……!!
美味しくて、思わず調子良く食べすすめます。
……いけません、皆さんと一緒に食べているのだから、ペースを合わせなくては。
そのうちに、ララがレイドリークス様に向けて話し始めました。
「単刀直入で申し訳ありませんが、殿下はルルをどうするおつもりで?」
「どう、とは?」
ぶふっ
思ってもみなかった話の内容に、思わず私の口にあった飲み物が出かけます。
危なかったです、美味しい紅茶勿体無……じゃありません。
出会って間もないララが、私の為に危険を冒してまで殿下に聞いてくれています。
私は思わず、呆けてしまいました。
なおも彼女は続けます。
「ご自身のお噂は知っておいでですか」
「ああ、ある程度までは把握しているよ」
「好意的な物が多いのも事実ですけれど。……口汚い者はルルのことを、婚約を滅茶苦茶にした
これは、呆けている場合じゃありません。
「ら、ララ、私は」
「私殿下にお聞きしているのよ、ルル」
「……その噂は、俺も聞いた。ルルにはとても申し訳なく思っている。近く婚約解消の手続きが終わり発表できる手筈になっているし都度そのような事実はないとの話も、すると誓おう。全ては俺の至らなさで、やけっぱちになってしまった自分の責任だ、と考えているよ」
「事態の収束、考えてらっしゃるようで安心いたしましたわ。まだ浅いお付き合いですけれど、私ルルのこと気に入っておりますの。――泣かせたら、許しませんわ」
「肝に銘じておく」
レイドリークス様は、ララに言葉をかけながらも私の方を真剣に見つめてくださいました。
そのまっすぐな瞳に吸い込まれるように、私の瞳も彼の方へと向いてしまいます。
「ごほん」
不意にマシュカ伯爵令息が咳をし、はっと夢からさめたように殿下から目を離します。
み、見つめすぎですね……自分の
ちらりとだけ、彼の方を見ると、瞳に驚きと――嬉しさのようなものが宿り始めているのが見て取れます。
私は慌てて理性を総動員して表情を消しました。
間に合ったかどうかはわかりません、もうレイドリークス様の方は見れませんので。
うう……、下手をうってしまいました。
状況がよく飲み込めていなさそうながらも、マシュカ伯爵令息が言葉を発します。
「俺は噂などについてはよく知らんが、ジュラルタ嬢のことはカシューから聞いて知っている。愛しい者の大切は俺も守りたい。噂の打ち消しが必要ならば協力したいところだが、迷惑にならないだろうか」
「……事情はよくわからないけれど、僕も、ララの友達のことは
ガンレール侯爵令息も、後に続いて協力を申し出てくれます。
お優しい、素敵な方達です。
レイドリークス様が感謝とお願いを述べ、また今度ある大規模演習などの雑談へと戻りながら、その日の昼食は時間が来てお開きとなりました。
レイドリークス様達に別れの挨拶をし、私とカシュー達は教室へと向かう廊下をまた小説談義や最近流行りのお菓子屋さんについて話しながら歩いていると、視界の端に見慣れぬ組み合わせの男女が見えた気がしました。
あれは、ローゼリア様のような?
他からはちょうどよくは見えないだろう場所で、誰かと親しそうに話していらっしゃいます。
お相手は物陰に隠れてしまっているので、わかりません。
「ルル、どうかして?」
ぼーっとしていたので、心配したカシューが顔を覗き込んできました。
伺い知ろうという気持ちが見てとれて、慌ててカシュー達の方へ意識を向けます。
「知った方がいらした気がしたのですが、気のせいでした」
「そうなの? 何か心配事があったら相談してくださいましね、解決しなくても、心は軽くなりましてよ」
「ありがとうございます、何かあったらカシューに相談しますね」
「私も忘れないでくださいな。三人寄れば文殊の知恵とも申しますから、遠慮なくお願いしますわね」
「ララまで……嬉しいです」
少し微妙な顔をしていたのでしょう、心遣いが嬉しくなって、照れたばっかりに次の言葉は明後日の方向へとずれていきました。
「えっとですね、今度、お二人のお勧めの小説を貸していただきたいです。お友達との貸し借りとか、今までしたことがなかったので」
「それでは、私とっておきの小説を貸してルルを感動の涙で埋めて差し上げますわ」
「ふふふ、それは面白そうね。ではわたくしはルルのお腹を、抱腹絶倒の末筋肉もりもりにしてみようかしら?」
「え。あの、いっぺんにされてしまうと私、目の腫れた筋肉もりもり魔獣みたいな出で立ちになりませんか?!」
自分で言ってみて、想像してしまい思わず吹き出しながらお二人に話しかけます。
カシューもララもそれぞれ姿形を思い描いてしまったらしく、くすくすふふふと、笑いが漏れ出した後それが止まらなくなったようで。
「そ、その魔獣きっと、ち、ちまっとして手のひらに乗るサイズではなくて?」
「尻尾、ふっさふさ、だと可愛らしいのではないかしら」
笑いながらも、外見を固定化させるお話が続きます。
何か一匹生まれ出ましたよ。
私達はそのお話をさらに膨らませながら、午後の授業に間に合うよう廊下を少し早足で歩ききったのでした。
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