第34話 仕掛けは上々のようです
今日の授業は座学に実技にと移動の多い組み合わせでした。
あっちこっちに向かったり戻ったりしながら、やはりぱったりと
一人にならないようにしなくては、と気を引き締めました。
今日の昼食は外がどんよりしているのもあり、知り合いの皆さんで食堂に集まって食べる約束をしています。
現地集合なのでカシュー様と一緒にララジニア様を迎えに行ってから向かいました。
「そういえば噂になっていてよルル」
「なんの噂でしょうか?」
「私も聞きましてよ、結構な噂になっているそうですわ」
食堂までの道中、意外にも話題の中心が私になります。
というか、噂のまわりが凄いです……皇子っていう肩書の力というか、厄介さというか……を垣間見た気がしました。
「噂、否定的な感じなんでしょうか」
「そうね……なんでもまるで『家名に引き裂かれた二人』とかいう大衆小説のようなことが、学校で起こるなんて、とわたくしの知り合いは言ってらしたわね」
「私は『皇子殿下の想い、なんてロマンティックなんでしょう、きゃっ』って言うお友達がいましたわ」
どうやら、仕掛けは上々のようです。
「……家名に引き裂かれた二人、ってなんですか??」
「あら、ルルはしりませんでしたの? 今子女の間でその名の大衆小説が流行ってましてよ」
し、知りませんでした!
恋愛小説好きとして由々しきことです。
忙しかったので、メリーアンに新刊一覧表を作ってもらうのを忘れてました。
今日帰ったら、早速頼まなくては。
「忙しくて、一覧表を作ってもらえるよう伝え損ねてました……」
「ルルは小説がすきなんですのね。私も好きですわ、『
ララジニア様が会話にあわせて、ルルって呼んでも良いかしら、とはにかみながら尋ねてきました。
否があるでしょうか、いいえこんな可愛く聞かれたら答えはお願いします! しかないですよ私には。
前のめりにならないように気をつけながら、ララジニア様とお互いに愛称で呼ぶことを了承しあいました。
ふふふ、二人目のお友達です。
少しうきうきとした足取りでララとカシューと小説談義に花咲かせ、私達は目的地へとたどり着いたのでした。
食堂に着くと、まず人だかりを何ヵ所か見つけました。
その中からレイドリークス様のいるであろう群に見当をつけます。
じっと観察していると、いくつかの人だかりの中で一つ、キラキラとしたまるで金糸のような特徴ある頭髪が目に入ったので、そちらへと歩みを進めました。
「殿下、お待たせしました」
「ルル! 今日も君は花のようだね。席は確保しておいたから、さ、座って」
私が声をかけるとレイドリークス様がすかさず自分の隣をすすめてきましたが、もちろん座るわけにはいきません。
すると空気で察したのかカシューが助け舟を出してくれました。
「殿下、わたくし達は空いている向かいの席に三人して座りとうございますの、よろしくて?」
「あ、ああ。勿論だよ、君たちの友情を邪魔だてするつもりはないんだ。どうも駄目だね、ルルを想う気持ちが未だ強すぎて、前のめりになってしまう」
「そのお気持ちわかりましてよ。ルルはなんというかこう、お可愛らしくてらっしゃるから、かまいたくなりますもの」
「! わかってくれるかい? そうなんだよ。もちろん、周りを気にかけているその心根とかそれ以外にもいっぱい」
「殿下。申し訳ありませんが、まず席につかせていただかせてもよろしくて?」
白熱する私という題目の議論を、ララが一旦止めてくれました。
助かります、もう頬が熱すぎて私では到底口を挟めなかったので。
言われて私達がまだ立っていることに気づいたのか、殿下が席を勧めてくれました。
遠慮なく向かいに座ります。
そう、今日は前回食事会をした皆さんとのお食事です。
レイドリークス様がごねたので。
というのは冗談で婚約者同士でたまには、という会に私と彼が相乗りした感じです。
私もレイドリークス様も知り合いが少ないという今回の計画での難点をカバーする、という目的と。
彼が単純に友達が欲しかった、という目的とがあって本人が頑張ってお声がけされたみたいです。
こういうことさらっと頑張れるって、単純にすごいなと思います。
私ちょっと、苦手なので。
感心している合間にも、レイドリークス様とカシューは馬があったらしく熱弁を奮いあっています。
何についてかは――聞かないでください、私耳に入れないことにしましたので。
そうしているうちに給仕の方が、食事を運んできてくださいました。
今日は皇子がいる事と人数が多いということで特別仕様です。
普段は受取口まで行って各自持ってくる、ということになっていますよ。
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