第33話 調べるんです
最近の本の型のものから、紐で閉じられた文字通り書物とでも言った方がいいようなものまで、多種の先人達の息遣いがそこにあるようです。
「結構数がありますね、これは」
「ジュラルタ家は古くからある名家でございますから」
「案内ありがとう。後は私がきちんと鍵を閉めるから、セルマンは自分の仕事に戻ってください」
「畏まりました。あまり根を詰められませぬよう」
「わかりました、ありがとう」
セルマンが下がった後で、私は
「よし、始めましょうか!」
なるべく一番古い文献にあたりたいので、一枚紙を閉じたような部類から五、六冊選んで、一つ一つぱらぱらと
どれくらい経ったでしょうか。
何十冊も出して確認し収めを繰り返し、次を出そうとしたその時、ふっと視界の端に気になる書物を見つけます。
吸い込まれるように近づいて書架から取り出すと、ぱらりとページを捲りました。
「……日記?」
どうやら、ご先祖様のどなたかが書いた日記のようです。
お父様に許可をもらっていることもあり、あったあたりの似たような書物をごっそり引き抜き、腰を据えて読み込むため自室へと持ち出すことにしました。
食後の寝る前に、早速目を通し始めます。
なにぶん古い物ですので、傷んで損なってしまわないよう慎重に気を付けて読み進めていきました。
その夜、
「……それでは、君はずっと俺を好いてくれていた、と?」
「はい、ずっとお慕いしておりましたの。どうぞ、身も心も貴方様のものにしてくださいませ」
「俺もずっと前から愛している。家のことで君には辛い思いをさせてしまってすまなかった」
「いいえ、いいえっ。貴方様は何もっ……どうか、あの方のおぞましい記憶を貴方様で塗り替えてくださいまし」
「……!!」
不穏な男女の会話がなされているともつゆ知らず、私は小さな小さな希望を胸に、ベッドへと入ったのでした。
「ふぁ〜っ」
朝です。
昨日少し
六月になって
今日もあの茶番をするのかなと思いながら、ガリューシュと共に馬車に乗り込みました。
たどり着いた学校では、敷地に入った途端幾人かに視線をもらいます。
どうやら、昨日蒔いた種は上手いこと芽吹き始めているようです。
初動に満足していると、遠くから早足でやってくる人がいました。
レイドリークス様です。
「おーい! ルル、おはよう」
どんよりとした天気に似合わず爽やかな笑顔。
今日もお元気そうで何よりです。
ですが最大限
朝から油断も隙もないです。
「おはようございます、殿下」
「ちっ、ルルを堪能できる貴重なひと時だったのに」
「私を紅茶か何かのように言わないでください殿下」
「相変わらず素っ気無いな、少し寂しい」
「お戯れを」
「俺は本気だ」
「本気はもっと嫌です」
「ルルが冷たい、ガリューシュ」
「巻き込まないでよレイド」
「親友も冷たい」
「誰がいつ親友になった?!」
弟に言われてレイドリークス様は泣き真似をしました。
……というか、少し本気で泣いていらっしゃる??
私は、どうする? といった視線をガリューシュに投げます。
それを受け弟は、視線を上や横にやった後目を閉じ頭をガシガシとかきながら口を開きました。
「……どっちかっていや、幼馴染じゃね?」
「幼馴染……!」
弟が言うなりレイドリークス様はよほど嬉しかったのか、ぱぁぁぁぁと表情が輝きました。
もしかして、
「殿下は、ご友人が少なくていらっしゃいます?」
うっかり口にすると、彼の表情は途端今日の空模様のようにどんよりとしてしまいます。
「え、マジで?! おむごぶっ」
ガリューシュが追い討ちをしかけたので、私は姉として慌てて弟の口を掌で押さえました。
ギリギリ間に合いましたかね?
「自慢に聞こえるだろうけど、入学した途端女子に囲まれてね……男子生徒に近寄ろうにも鉄壁過ぎるのと、一部の男子からは当然だけどいけすかないやつだって毛嫌いされてしまって……」
「そういや、そんな感じだったなお前」
弟の目がもののあわれといった風になりました。
私も食事会での彼の嬉しそうな様子を思い出して合点がいきます。
もてる人にもそれなりの苦労があるのだなと、思いました。
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