第30話 家族会議です

 彼はウィンクをしながら内緒ね、とでもいうように人差し指を唇に当てています。

 ……無詠唱での魔法……その底知れなさに、この学校ってやっぱりすごい、そう思いながらカップを覗き込みました。


 気遣いに感謝して口にしたホットチョコレートは、甘すぎず、とろりと喉へ消えていったのでした。


 帰宅には、先生が早馬を出してくれ、すぐ下の弟が迎えにきてくれました。

 一緒に馬車に乗り込んで家へと帰ります。


「とんぼ帰りさせてしまってごめんね」

「姉上が謝ることじゃないだろ? というか、どうして俺に言わなかったんだよ、いくらでも協力してやったのに。これでも俺だって修行積んでんだぜ?」

「うん、お姉様が頭でっかちでしたね。なんというか、自分の問題だから、まず自分でって、思ってしまったのかも」


 明日からがっつり頼りますね! と言うと、少し嬉しそうな顔をガリューシュがします。


「にしたって、兄弟喧嘩に姉上巻き込むとか、皇族ってめんどくさいのな」


 迎えに来てくれたガリューシュには、包み隠さず全てを話しました。

 家に帰ったら、家族にもきちんと報告するつもりです。

 権力に逆らう気も国家転覆する気もありませんが、おもねる気だってありません。

 今回の失敗は、根回し不足と危機管理不足ですから、今度はしっかり情報共有をしようと思っています。


「というか、兄弟喧嘩、なんでしょうか?」

「だろ? 多分、情報が古いけど姉上が第四皇子の想い人だと思い込んで、襲ってきたんじゃないかって気がする」

「その根拠は?」

「んー……俺第四皇子と同級生じゃん? クラス違うけど、階は同じだからたまにかちあうんだよ。そしたらさ、どっかからすごい怨念みたいなの感じるんだ。んで大抵“根暗“がいるっていう」


 根暗というのは、第三皇子のことです。


「そうだったんですね、それは知りませんでした」

「ま、今日父上にも報告して指示仰ぐし、学校では姉上は俺が守るし、心配すんなよな。あ、マークスには、あんま今日のことしゃべんない方がいいよ、あいつブチ切れるから」

「え?」

「忠告、しといたからな?」


 言うなり家に着いた馬車からさっさと降りて、ガリューシュは家の中へと入っていきました。


 家には、珍らしくお母様以下家族全員揃っていました。

 今は夕食の後にテーブルへ残って、セルマンの給仕したお茶を思い思いにたしなんでいます。

 内容が内容なので団欒、とはいきませんが久しぶりに皆でのお話、もとい家族会議が始まりました。


「……シェリーナ、フェルナンテスのくそったれを今すぐ燃やしにいってもいいかい?」

「駄目よブルークス、仮にも皇子殿下ですわよ? 命まで取ったら流石に陛下と血で血を争ってしまいますわ」

「くそっ、あの餓鬼私が陛下と話し合いの内容詰める前に仕掛けてきやがって! 埋めたい」

「もう、あなたったら。わたくしも同感ですけれど、少し落ち着いてくださいな」


 両親が早速物騒なことを言い出します。


「それよりも、わたくしは社会的に抹殺した方がプライドの高いクソッテスの致命傷になるのではないか、と思いましてよ」

「それ、賛成! 僕、煮え湯を飲ませないと気が済まない」


 隣に座って抱きついてきているマークスまで、とんでもないことを言っています。

 あ、ちなみに襲ってきた内容の詳細までは、この場で話していませんよ?

 忠告の意味は分かりませんでしたが、マークスの心に衝撃を与えるわけには行かないですし。

 けど害されかけたというだけで十分だったらしく、この通り、引っ付いて離れなくなってしまっています。

 もう少しは、お姉様っ子でいてくれるようなのが嬉しくて、私も一回ぎゅっとしました。


「姉貴大好きだからって、皆ちょっと興奮しすぎじゃね? 一旦落ち着こーぜ」

「具体的にどうすんのか決めないと、だと俺も思う」


 上の弟二人が、なかなかにあっちこっちに飛んでいく会話を、引き戻してくれます。

 頼もしくなったんだな、と感慨深いです。


「うむ。証言と証拠は揃っているから、まずは裏で陛下にそれを突きつけて婚約の打診は無かったことにしてもらおう。向こうも無理は言うまい。後は護衛の入れ替えも進言だな、抱き込まれている護衛では話にならん」

「わたくしは、どうしてもまた仕事ですけれど、配下を二名、クソッテスにつけておきますわ。近づいてきそうなら逐一ルルに連絡を入れさせましょう」

「俺は姉上と一緒に必ず登下校するよ」

「んじゃ俺はクソッテスの噂街に流すの担当すっぜー、どんなんがいいかなぁ」

「……僕も、学校早くいきたいな」

「後十ヶ月したら、マークスも通えるようになりますよ?」

「姉様と一緒に行きたかったんだよ、そうじゃなきゃやだ」

「ふふ、ありがとうマークス。私がいなくても、学校はとても学びがいのあるところですから、心配要りませんよ」

「いや、それが心配なわけじゃねーからソレ」


 エルレードに謎の突っ込みをされますが、では他の心配とは、と考えてもいまいちしっくりくる答えがみつかりません。

 そのうちにお母様達に声をかけられます。


「ルル、もしまた襲ってきたならわざと一撃もらえるようどんどん失言なさい。傷ひとつこさえておけば、いくらでも正当防衛できてよ。怒りは人を見誤らせますわ、魔法にも綻びが出るでしょう」

「当主として許可しよう。後でなんとでもするし何とかならなくても良いから、魔法使用も含めて持てる手全部でもって身を守りなさい」

「お母様、お父様」


 家の存続をかけても、身を案じてもらえる。

 私はその気持ちに、少し泣きそうになります。


「ありがとう、みんな。私、頑張って排除します!」


 方針は決まりました、乙女の恨みは怖いんだってこと、思い知らせてやります!

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