第18話 食事会なんです

 それから暫くは、穏やかな日々が続きました。

 あ、もちろん物が無くなるのは変わりありませんよ?

 結構めげないお方のようで、細々こまごま無くなっています。

 この前は鉢植えが落ちてきたので、植えてあったお花はちゃんと花壇に植え直しておきました。

 あのお花、枯れずに済んでいるといいのですが…。


 さておき。

 流石に何度も買い直しは家族にいぶかしがられるので、きちんとお父様に報告しました。


「……というわけなのです。しばらく私の方に注意を向けておきたいので、諸々もろもろ少し目をつぶっていただけませんか? お父様」

「普通の子女ではないとはいえ、お前は可愛い可愛い娘なんだよ? ルルーシア」

「お願いします、お父様」

「……はぁ……仕方がない、許可しよう。危ないと思ったらすぐに幕引きを図ること、これが条件だからね?」

「約束します、お父様ありがとう」


 私は思わずお父様に抱きつきました。

 気持ちを伝えるのに、たまにはこういうスキンシップも大事です!

 お父様はやれやれといった雰囲気ながらも、優しく背中をポンポンとしてくれました。


「それにしても、いつの時代も女子の間柄というのは、大変なものなのだね」


 ため息をつきながらお父様が呟きます。

 女子の間の揉め事は、どうもお母様とお父様にも経験があるらしく、少し遠い目をしていらっしゃいます。

 何があったんでしょう?

 聞きたいような、怖いような……何はともあれ、心置きなくされるがままになれることに私はホッとしました。


 お父様にはまだ内緒にしていますが、今、可愛い悪戯だけでは済まないことも、時々起こるようになっているんです。

 併せて第四皇子のイヤーカフが、慕う女子の間に密かに流行していたりもしていて。

 私がこの件から手を引いてしまうと、以前のようにただ慕うだけだったり片想いをしていただけのご令嬢が危ない目にあうのではないか。

 そう考えしばらくは矢面やおもてに立とうと決めました。


 なので実は私も既にイヤーカフを常に身につけていたりします。

 つけた途端、瞬間風速的にあれやこれやの嫌がらせが増えに増えて、ちょっとびっくりしました。

 なんでかなと思いましたが、そういえば皇族の中で未婚だったり婚約が決まってないのは春まではただ一人、その第三皇子は正直……根暗、と影で言われている人物です。

 四月の断罪劇で夢を見た子が結構いたんだなぁ、と今更ながらにあそこでキッパリ断れなかったことが……悔やみたいのに、以前のようには思えない、です。

 っといけません、お父様の前ですから知られるわけにはいきません。

 再度、ありがとうございました、と言ってお父様の前を辞することにしたのでした。




「まぁ、なんて可愛らしいのでしょう! わたくしこのような形の細工飴、初めて見ましたわ」

「以前頂いた私の細工飴は、動物の形をしていましたのよ。このお魚も優雅でキラキラしていて、とっても綺麗ですわね」


 ほぅ、と頬に手を当て溜息をついている亜麻色あまいろの髪に青い目をした方が、以前着替えを貸していただいたララジニア=クレケット男爵令嬢。

 初めて見るものに興味津々で、勝ち気そうな瞳をまんまるにして色々な角度から飴を見ているのが、カシューリア=エンペルテ男爵令嬢です。


 今日は私がお二人に声を掛け、昼食会を開いています。

 先日クレケット様を紹介していただいたり、魔法のコツなんかを教えていただきとても助かったので、お礼を渡したかったのと……あわよくばお友達に! だなんていう計略も兼ねていたり、いたり……。


 六年何してたんだなんて私が一番思ってますよ!


 十二までサボっていたので、友達を作れる強さを身につけるまで時間がかかったんです。

 スタートが遅かったのもあって、お父様に許可をいただけた際には時すでに遅し……皆さんグループが出来上がってました。

 見事なぼっち爆誕ばくたんです。


 荒れて二年、すっかり普通から遠ざかっていたので、声の掛け方すら覚束おぼつかなかったのは――どうにか笑い話にできるかも、と思いました。


「うちの料理長が、趣味でお菓子作りをしていまして。いろんな地域に行ってはその土地の食べ物を勉強してるんです」


 気に入っていただけたならとても嬉しいです、と続けながら、お茶のお代わりもついでに尋ねます。


「じゃあ、俺のもお願いできるか?」

「あ、僕のもお願いします」

「はい、わかりました!」


 男子二名の声に、それぞれお茶をカップへと注ぎ込みます。

 食事会、実は女子だけというわけではありません。

 最初皇子との食事は断ったのですが、どうしてもどうしても一緒に食べたいとのことで、駄々をこねられてしまいました。

 あそこまでお願いされてしまうと、今現在の私の心境的に無下むげにもできず……苦肉の策としてお二人の婚約者も交えての食事会へと発展したのでした。

 女子三人に皇子一人とか、勘違いされるの必至ですからね!


 カシューリア様の婚約者の方は、黒髪黒目で体格の良い、少しいかつい感じがするダンデリオ=マシュカ伯爵令息。

 クレケット様の婚約者の方は、向日葵ひまわり色の髪に茶色い目をして、ひょろっと背の高い糸目が優しげな雰囲気の、イクスディー=ガンレール侯爵令息。

 どちらも私達と同じ歳だそうです。

 我が家の料理長が張り切って作った食事の数々へ、口々に感想を言い合うのを見るにとっても仲が良いことがわかります。

 そこに物語があるような心地がして思わず心の中で、眼福、とか言っちゃってるのは内緒ですよ?


「ルルの家の料理長は研究熱心なのだな、食事も美味しいし引き抜きたいくらいだよ」

「ダメですよレイドリークス様! 美味しい料理長のご飯は我が家のものです、あげません!」


 ははは、冗談だよ、と彼は言っていますが、少し本気が混じっていたような気がします。


「ルルーシア様は殿下と仲がよろしいのね」


 ニコニコとカシューリア様がおっしゃいますが、仲良くありません困ってます! とも言えず笑って誤魔化ごまかしました。

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