第19話 報告するんです

 せっかくの食事なのになんででしょう、とっても疲れています。

 レイドリークス様は普段接する人ではないご新規の知り合いが作れる事が嬉しいようで、和気藹々と令息方とおしゃべりに興じています。


 言い出しっぺのようなものなのに、なんだかずるいです!


 その後も何くれと皆様にお世話をしながら、私はなんとかこの食事会を乗り切ったのでした。


 片付けがあるので皆さんで先に戻ってもらい、一人残って人心地つきます。


「緊張、しました……!」


 学校に通うようになってから、一番たくさんの人と接したような気がします。

 大変でしたが、なんだか充実感もあってくすぐったい気持ちが湧き上がっています。


「また、やれたらいいな……」


 余韻に浸っているところ、ピンと空気が張り詰めたのを感じその場から瞬時に離れます。


 トストスッ!!


 元いた場所に短剣が刺さる音がして背後に気配を感じました。

 かわそうとしてかわしきれず背後から右腕で首を絞められます。

 慌てず右足で相手の足の甲を思いっきり踏み、それと同時に背後へ体重移動させ相手ごと倒れかけました。

 一瞬手の力が緩んだ隙に体を縮こまらせ後ろに向けて宙返りをし、着地をした反動を利用して力一杯踏み込むと同時に前方にいる相手に回し蹴りをし。

 よろけながらもかわされるのは予測がついていたので、回し蹴りの反動を利用した手刀を、首筋にお見舞いしました。

 うまく入ったようで、一撃で気絶させることができ人形のように倒れていきます。

 やれやれです。


 ビビビビビビ


「わわ、チャイムがなってしまいました!」


 片付けはまだ終わっていません。

 来るなら片付けきってからにして欲しいです! だなんて我儘をぶつぶつ言いながら、慌てて片付けて校舎へと向かいました。




 あれから授業に遅刻はしたもののなんとか午後の日程をこなし、今。

 家路につく馬車の中で、私はこれまでに襲われたこと、またその内容を思い返していました。


 水を落としたり、池にテキストを捨てたりは、学生にもできます。

 命を取りに来るというよりかは、子供なりの警告、排除して自分が優位に立ちたいという可愛い我儘の部類です。

 主犯は多分、コケット侯爵令嬢あたりでしょうか。

 大穴で、最近謹慎きんしんのとけたアリアータ=ドムンスク公爵令嬢……けどこの筋はちょっと無理かもしれません、彼女はなんだか生気のない状態で復学しています。

 ですが今日のは違います、トイレでの一件といい、こちらを確実にあやめに来ている。

 殺めないまでも、何がしかを失わせようとしている気配がします。


「私、何に巻き込まれてるんでしょうかね……」


 本当は、巻き込まれてるだなんてとっくに言えなくなっていることに気付きながら、でも認めたら苦しく、なる――私は勝手だと知っていて、呟きながら馬車の窓に額をつけます。


 窓の外は嫌になるくらい、春の日差しに緑が青々ときらめいていました。




 帰宅してすぐ、私は当主としてのお父様に報告をあげるべく、セルマンに予定を尋ね時間を作ってもらえるよう頼みました。

 するとちょうど今時間があるようで、すぐに執務室に来るよう言われます。


 トントン


「ルルーシアが参りました」

「ん、入りなさい」

「失礼します」


 入室して片膝を突き言葉をかけられるのを待ちます。


「報告を聞こう」

「はい。現在皇子殿下との間柄は膠着こうちゃく状態にあります。悪戯は相変わらずですが一つ、気になることがありまして……何処からかは不明ですが刺客が私向けに放たれているようです」

「……刺客?」

「はい。時間がなく取り押さえその目的を吐かすまでにはいきませんでしたが……既に二度程」

「ふむ……ご令嬢のたわむれにしては度が過ぎる、か」


 当主として思案しながら、何事かの情報を張り巡らせているお父様の次の言葉を静かに待ちます。


「もしかしたら、シェリーナが追っている件と関係があるやもしれんな。……影を一人つける、無力化だけしてあとは任せなさい、こちらで調べよう」

「ありがとうございます」

「報告は以上かね?」

「はい」

「それなら今すぐ平時に戻るように」

「わかりました」


 お父様に言われて、立ち上がります。

 するとすぐさま抱きつかれました。

 ペタペタ触って何やら確認もしています。


「お、お父様?」

「どこも怪我していないな? ……はぁーっ、頼むから、一件目ですぐにお父様を頼っておくれ。可愛い一人きりの娘に何かあったらシェリーナに怒られてしまうし、私もどうにかなってしまう」


 確認して満足したのか、お父様は私から離れました。

 本当は当主だってしきたりさえなければ男連中に任せるとこだったんだ、とか言っちゃってます。

 待ってくださいお父様、弟達だって可愛い可愛いうちの家族ですよ。


「いや、息子達だって可愛いんだよ? けど男っていうものはいつか試練を超えて大きくならなくてはならないからね、少し厳しいくらいで丁度いいんだ、我が家は特にね」


 私が考えたことが伝わったのか、お父様の弟達への思いを初めて知ります。


「では、お母様は?」

「……シェリーのあれは、うん、趣味を兼ねてて、ね。付き合いたての頃は家にいる条件で婚約したんだよ? その方が危なく無いし、私が動けばいいと思っていたから。けど、彼女に押し切られてしまって……」


 お父様はなんだか遠い目をしました。

 知りませんでした、家業だから従事している、そんな風にしか思っていなかったので少し驚きです。

 そう言われてみれば、いつも自分で見つけてきては動いているような気がします……趣味と実益を兼ねていたのですね。


「お母様が楽しく過ごされてるなら、良かった? です」

「……そうだね」


 お父様がとろけるように笑います。

 なんだかんだ言ってとっても仲のいい両親なのです。

 私は胸があったかくなったそのままに、執務室を後にしました。

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