第16話 頂くんです

「ルル。その――」

「はい、何ですか?」

「えっと、だね」

「?」

「〜〜〜〜っ、誕生日、おめで、とう」


 レイドリークス様はこちらを見ないまま、四角い、キラキラした包装紙に包まれた箱を私の方へと差し出しています。

 心なしか、耳から首筋にかけてが、赤いような……?


「じ、じろじろ見ないで、もらえるだろうか」

「あっ、すみません!」

「受け取ってもらえると、嬉しい」


 意を決してというようにこちらを見つめて言われ、思わず反射的に包みを受け取りました。


「その……気に入らなかったら、言ってほしい。ちょっと自分でもそれを選んだのは、失敗だったかもしれないと思っているんだ」


 ちょっぴりしょぼんとしてレイドリークス様が言います。

 失敗するようなプレゼントって? と、不思議に思いましたが、見ていないので何とも言えず、とりあえず頂いた箱を開けてみることにしました。

 少し緊張して包みを丁寧に開けます。


 出てきたのは、私がレイドリークス様へと贈ったイヤーカフに、よく似たレリーフ……ではなく全くお揃いのデザインの物でした。

 彼を横目で見ると、両手で顔を覆ってしまっています……さもありなん、です。

 だってこれでは、お揃い、です。


 困った。


 とは、思えない自分がいました。

 どうして、とか、何故、とか…………今顔を見られたくなくて、うつむきます。


「……ごめん、やっぱりどうしても、受け取ってほしいと……思ってる」


 そう言ってレイドリークス様は動けなくなっている手に持ったままの包みからイヤーカフを取り出し、私の左耳にそっと、つけました。


 アイオライト――石言葉は、一途であり続ける――


 そんな飾り石がさりげなく裏側に埋め込まれたイヤーカフは、今の私には重すぎて――。


「ありがとう、ございます」


 感情の乗らない笑顔と声でお礼を言うしか、できませんでした。




 その後は、当たり障りのない話題……というかレイドリークス様も読書が趣味で意外にも、恋愛小説なども読まれるんだとか! 知らない題名の面白そうな本を教えてもらって、びっくりしました。

 思いのほか楽しい時間を過ごしてから、各々おのおのクラスへと戻ります。

 途中、私は耳についたイヤーカフを取り外すと箱に大事に、仕舞い込みました。

 そのまま一旦校舎外れのトイレへと寄ります。

 用を足し、手を洗っていると人影を感じたのでお花摘みかしら、と思った途端襲撃しゅうげきされました。

 狭い中で応戦します。

 なかなか手練てだれでしたが私もむしゃくしゃしていたのでつい、床に沈めてしまう程やりすぎ狼狽うろたえてしまいました。


 歩けるくらいで止めておかないと、後始末が大変なのに!


 担ごうと思ったところで、誰かが来る気配を感じます。

 時間が足らなかったのでとりあえず個室に押し込め、何食わぬ顔でそこから離れることにしました。

 やり返してもちっともスカッとせず、もやもやの森は私の眼前にまた現れ、ただただ時間が流れるのが苦痛です。

 せっかくの誕生日、いつもなら成人までのカウントダウンだと、楽しんでいたのに……。


 ですから私は気付くのが遅れてしまいました。

 これが、これからおとずれる日々にとってとても重要な出来事だったのだ、と――――。




 余計な用事のせいで、少しクラスに遅れて戻ると四時限目のテキストや細々こまごました物がなくなっていました。

 思わず、ため息がつきたくなってしまいます。

 いつもなら気にしない些細なことも、続けば積み重なり、その重さは押しつぶすに足るものになる……そんな事例を体感してしまい、もやもやが私の体にのしかかっていて。

 払拭ふっしょくしたくてもしきれず、どんよりとした心のまま隣のクラスメイトに授業中の手助けを頼むことにしたのでした。


 放課後。

 流石に何度も買い足すとお父様にばれてしまうので……一応は盗られたものを探すことにしました。

 茂みやゴミ箱の中などを重点的に探しつつ、大本命に向けて進んでいきます。

 そう、おおよその見当はついているのです。

 今は他の可能性を潰すための作業です、万が一も十分あり得ますからね!

 けれど今日は本命が当たりのようで、例のご令嬢が落ちた池の辺りまで来ると、テキストがぷかぷかと、春の日差しの中気持ちよさそうに浮かんでいるのが見えました。


 これは他の物も沈んでますね……確実に。

 私は、やれやれ、と思いながら上着と靴と靴下を脱ぎ、少し肌寒く感じるだろう池の水へとその身を投入するのでした。


 テキストを拾い、他の細々した物を手探てさぐりで探しますが透明度がない中なので少々難しく。

 段々宝探しのように感じてきたので、さぐることに熱中してしまっています。

 そろそろ諦めよう、そう思い始めた時。


「ルル!!!!」


 レイドリークス様の私を呼ぶ声が、聞こえました。

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