第12話 贈るんです

 言った途端レイドリークス様の顔がぱぁぁぁぁと輝いたと思ったら、目にも止まらぬ速さでプレゼントの置かれた場所へ行き包みが開かれていきます。

 と、彼の手が止まりました。


「……これ」


 私が贈ることにしたのは、この国では一般的なプレゼントであるイヤーカフです。

 左耳に身につけるこの飾りは、大切な人との永遠を誓う場面からちょっとしたお祝いにも喜ばれる、便利な装飾品だったりします。

 今回選んだのは健康・長寿のレリーフの入った銀色のシンプルな物です。

 昔の記憶から健康を選んだというのは私だけの内緒の理由です。


「何かの縁でこうしてお知り合いになりましたし、長生きしてください。お誕生日おめでとうございます」

「あり、がとう。強請ねだったとはいえ祝ってもらえて嬉しいな、ルルと一つしか違わなくなるし。……付けてもらっても?」


 本来ならお断りするところですが、さっき無体を先に働いてしまった手前、ごめんなさいも含んで希望を叶えることにし、レイドリークス様の耳にイヤーカフを付けます。

 少し緊張しましたが、何とかやり終え殿下の反応を見ました。

 誰であれプレゼントはした経験が少ないので――荒れていたこともあり友人が非常に少ないのです――気に入ってもらえたか少し不安になるんです。


「似合うかい?」


 そう言って微笑んだ彼は、とても幸福そうに見えて。

 私まで、何だか、得体の知れないくすぐったい気持ちになったのでした。


 その日の夜、私はやりげた達成感でとてもご機嫌でした。

 無難に贈り物をすることができたので、弟達にも感謝し、一人ひとつお願い事を聞くくらいには太っ腹な気持ちです。

 お母様は今長期の案件で家を空けていますが、父と弟達と一緒に、ほっとした気持ちのまま楽しい晩餐ばんさんをしたのでした。







 ――その頃皇都某所では


「…………養子、ですか?」

「そうだ、理由は先ほど言ったが――」

「それじゃあ!」

「そも、前例がない」

「……前例は、作るものですよ。失礼します」

「こら、待たぬか!!」


 絆にひびが入り、心が砕けかける音が、大広間に虚しく響いていた――







 翌朝、何だかすっきりした気持ちで目が覚めました。

 あーだこーだうんうん唸っていたこの二週間、どうもあの一件を私は重たく受け止めていたようです。

 まぁ、何せ皇族へのプレゼントなので何かあったら大変ですからね。

 やれやれと思いながら朝の時間をつつがなく過ごし、今日は髪を結ってもらわずに学校へ行くことにしました。

 ……今日はちゃんと演習があるっていう理由がありますよ!


 さて。

 学校について早々、捻りの無い通り一辺倒いっぺんとうな悪戯が私の頭上から降り落ちようとしていたので、さりげなくけたふりをして避けます。

 大量の水は地面に落ちて跳ね返り、少しの虹を見せていました。

 毎度毎度ご苦労なことです、いつくるかわからない相手を待つのも大変だろうなって、思います。


 今日はそれ以上は悪さをする気はないらしく、割と平穏に授業を受けることができました。


「……というわけで、法整備が進み、自身への魔法の使用は特例を除き禁止されることになりました、また……」


 先生が、魔法についての講義をしてくださっています。

 実技後の先生のお話って何でこんなに眠たくなるんでしょうね、真面目に、聞きた…………


「……ルル。ルル?」


 はっとすると、どうやら寝てしまっていたらしく。

 机の側にはもうレイドリークス様がやってきてしまっていました、不覚です。


「お声がけくださりありがとうございます。私、寝ていたのですね」

「お礼はいらないよ。俺としては、ルルの可愛い寝顔が見れたからね」


 役得ってやつかな、とかおっしゃってますけど、そろそろ殴ってもいいですかね?

 恥ずかし過ぎてどこを見ていいか視線が迷子ですよ。

 そのまま教室にいても居たたまれない気持ちになるだけなので、仕方なく連れ立っていつもの場所へ向かいます。


 ついた先で色々お喋りしながら、今日も彩り豊かな美味しい食事に舌鼓したつづみを打ちます。


 このお魚ってば、なんて豊かなお味!


 私たちがひとしきり料理の話題で盛り上がった後、昔の記憶について、レイドリークス様が尋ねてきました。


「そういえば、忙しかったって言ってたけど……十二の頃のルルは、俺達と遊ぶ以外にどんな事をしていたんだい?」

「……そうですねぇ、荒れてた頃は遊んでばかりでしたよ? ただ、落ち着いてからは……剣術と魔法の鍛錬、体術、花嫁修行はもちろんのこと、領地についての勉強も始めていたでしょうか?」

「そんなに……それなら俺のことを忘れられてしまうのも、しょうがないね。けどほら、その後頑張ってかなり体をきたえたのだけれど」


 どうかな? と、まるで料理の試食をすすめるように気軽に私の手を取ると、自身の腹筋へと誘導して勝手にさわさわさせてきました。

 制服越しにもはっきりとわかるその分厚さに、訳の分からない羞恥しゅうちのようなものを感じます。

 ……それと同時に、ここまで鍛えるのにどれほどの努力があったのか……そのこれまでを思うと、少し――いえ大分感動してしまって思わず自らさわさわ触ってしまいました。


「え、ちょ、ルル?!」


 殿下が焦ってらっしゃいますが、どうやったらこうなれるのだろうという気持ちがまさってしまい、研究するように続けているうち――

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