第10話 名前を呼ぶんです
その言葉と表情に突然、昔同じように聞かれた記憶が……脳裏に、
ヒョロヒョロで二つ年下の金髪の男の子。
あれは――私が荒れて近所の悪ぶっている子たちとまだ
領地にステイする予定の子のうちの一人が、そのヒョロリーでした。
……皇子であることは告げられていたものの、ガリガリの見た目から仲間内ではヒョロリーとあだ名で呼んでいて。
とにかく体力もなく、子供たちの遊びについて行けそうになかったし、実際そうだったのでよく
「……ヒョロリー?」
「懐かしい呼び名だね。そうだよ、ヒョロリーと、呼ばれていた……思い出したのかい?」
「いえ、名前だけ……」
「そうか。けれど思い出せたってことは、もっと思い出せるかもしれないってことだよね?」
「え? ああ、はい?」
「じゃあもっと一緒にいなくてはね。約束くらいは、思い出してもらいたいと思っているんだ」
戸惑っている間に勝手に話が進められていきそうになります。
「朝迎えに行くのもいいね、そうなると帰りもいっしょでもいいかもしれない。放課後図書室でデートしてから帰宅するのも、捨て
「あのですね殿下」
「レイド」
「は?」
「レイドって呼んでくれないかい? 他人行儀は、寂しい」
思いの
「では……レイドリークス様、と」
愛称でないのはせめてもの抵抗、です。
けれど抵抗
ご飯を食べていた手を止め、ふにゃっとした顔のままこちらににじり寄ってきます。
「もう一度、呼んでくれないかい?」
私はにじり寄られるたび
「ルルーシア…ふごっ」
どうにも出来なくなったので仕方なく、手にしていたお肉が刺さったフォークを殿下の口に突っ込んだのでした。
最後のお肉さん、味わえなかったのは残念ですが守ってくれてありがとうございます……。
目を白黒させながらお肉を食べ切ったレイドリークス様は、少し拗ねて自分の元いた場所に座り直します。
「ちっ、ルルはガードが硬いね。まぁ、次の楽しみに取っておこう。そうだ、あと二週間ほどで俺の誕生日なんだ、良ければ何かプレゼントを貰えると嬉しいのだけれど」
勿論、名前を十回呼ぶとかでも良いよ? と続けられた言葉に頭痛を感じましたが、知った以上無視するわけにはいかず。
「なにをか、ぜんしょ、いたします……」
とだけ返事をしたのでした。
過去の自分は、この皇子様に一体何しちゃったんでしょうか?!?
思い出したいような思い出したくないような――そんな複雑な心境で、その日の昼食を終えたのでした。
その日は帰宅後、どうにもならない、自分でもよくわからない良いんだか悪いんだかといった気持ちを発散させる為、弟と
決してしごきではありませんよ?
稽古です、私も
弟達と一緒に鍛錬場へ向かいます。
「今度こそ姉貴にはオレが勝つぜ!」
そう意気込んでいるのは十二歳の次男エルレード。
「そう言ってるお前も倒して、今日は俺の勝ちな」
「ふふふ、大穴お姉様だって負けてられないので、連勝狙いますよ!」
今までは年長の利があったのですが、最近では段々と負けることも多くなってきて少し悔しくもあるのです。
古臭いかもしれませんが、姉としては一歩上を行っていたいものなんですよ!
そんな訳でそれぞれ結構張り切っています。
「それじゃあ、
「はいはいはい! オレがやるし!」
「力量配分的にも妥当だし、私に異論はないですよ」
「んじゃ、はじめ!」
エルレードの合図と共にまずは三人とも間合いを取ります。
私はまず袖に隠していた暗器をこっそりし準備し、ガリューシュを見たままエルレードへと投げつけました。
それと共にガリューシュへと間合いを詰め手刀を左首筋へと素早く打ち込みます。
が、読まれていたのかひらりと右へかわすと私には目もくれず、彼はエルレードの左後方に向けて回し
エルレードは暗器をかわした先で兄の足
「ちょ、姉貴も兄貴もオレばっか狙ってずりぃぞ!!」
「有事にずるいもへったくれも無い。弱点もしくは弱い奴から消す。基本だろ?」
二人で言い合いながら結構な速さで打ってはかわしを始めたので、私は二人の隙を探します。
時折暗器を投げたり打って出て体勢を崩させようとしますが、二人とも上手く避けてちっとも当たりません。
弟の成長が悔しいやら嬉しいやらお姉様ちょっぴり複雑です。
けどこの年頃の男の子特有なのか段々熱が入ってしまったらしく、私そっちのけになってしまったので、少しの隙を見て右足で二人の足を引っ掛けるべく、下段で回し蹴りをしました。
「これで私の二連勝ですね」
にっこり笑っていうと弟達は自分の失態に気づいたらしく、ちぇっ、と舌打ちして負けを認めたのでした。
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