第9話 紹介するんです

 取り敢えず椅子から立ち殿下から少し距離を取ります。

 私もそうやすやすとパクッと食べられるわけにはいかないので!

 というか、本当に、ここまで気持ちをもらう理由に全く思い当たらないので、いまいちピンと来ていないのが現状です。

 殿下が婿とか非現実的ですし、ね……とっとと心移りしてもらえないでしょうか……。


 そんな失礼なことを考えながら、私は殿下に声をかけます。


「無事だったのは彼女のおかげでもあるんですよ、気づいてここまで連れてきてくれて。ハンカチも貸していただいて……先程私たちお友達になったんです」


 その言葉にまだ叩かれていた殿下はこちらを見やり、やっと先生は彼を叩かずに済むようになりました。


「そうか。私からもお礼を言うよ、ルルを世話してくれてありがとう。名はなんと?」


 気持ちを切り替えたのか、エロを差し引いた皇族らしい雰囲気をまとい彼がローゼリア様に話しかけます。


「ローゼリア=アインバッハと申します皇子殿下。大したことはしておりませんので」


 そう言って目を伏せ、少し頬を染めたローゼリア様のなんと可憐な事。

 私は、この勝負いける! と思いながら出会いのお膳立ぜんだてとしては上々だろうと思い、心の中で微笑みました。


 始業が近いという事で、その場は挨拶のみで各々自分のクラスへと向かいました。

 殿下はなんだか少し不満げでしたが、クラスメイトの方が来て引きずるように遠ざかっていきました――お世話、お疲れ様です。


 その日の授業は、ほんの少しの悪戯いたずら以外つつがなく終えることができました。

 ペンがなくなったりしたって、借りれば良いので問題がないのです。


 ビビビビビビ


 午前の授業が終わりました。

 昼食へ向かう為素早く準備をしていると、背後から声がかかります。


「……ルルーシア、迎えにきたよ」


 ちゅっ


 今しがたした音は、殿下が私の頭頂部に唇を落とした音です……誰か止めてください。

 この手合てあいも反応したが最後増長させるのが目に見えているので、無反応で通します。

 いい加減、私も“私につきまとう人などいない“という認識を改めなければ――本来軽くけられるのです、それだけの技量を教え込まれてきた自負はあります。


 次こそ避けて見せます!


 私はそう胸に誓うと、殿下と共に前日利用した外広場へと向かいました。


「ようこそ我が城へ、お姫様」

「……確かに、これはまるでおとぎ話の晩餐ばんさんのようです……! あ、お姫様ではありませんが」

美辞びじにはぐらつかない、か……。ルルらしい。さ、座って」


 たどり着いた場所は、前日と打って変わって敷物のデザインが変わっていたり入れ物がより可愛らしい感じになっていたりと、おもてなし用とわかる品物とそれに見合った食事内容になっていました。


「何故、こんなに……?」


縁取ふちどりにレースがあしらわれた敷物に座りながら、殿下に尋ねます。


「ルルと一緒に食事をする、と言ったら料理長が張り切ってしまってね。俺の片想いをずっと応援してしてくれていたものだから、止めるに止められなくて」


 それでこんなに豪勢なことに……普段はちゃんと学生らしく慎ましいからね? とちょっと苦笑しつつも、その瞳はとても暖かいものがあふれています。

 まわりを大切にして、自身も相手に大切にされている――私に対する態度はいかがなものかと思いますが、その姿勢にはちょっぴり感動しました。


 と、その時。


「あれ? ルルーシア様!」


 ん?


「……奇遇ですね。ローゼリア様もこちらで昼食を?」

「はい、そうなんです。けど遅れてしまったので、ちょうど良い場所がなくて……」


 と、戸惑っている雰囲気を醸しながら彼女は言いました。

 これは……ちょっと、あざといが過ぎるような……けど良いです! 望むところということで乗っかりますよ私。


「殿下、私の友人が困っているようなのです。一緒に食事をしてもよろしいでしょうか?」


 ふふふ、これは断れないはずです!!

 殿下の方を向きお願いをしたところ、彼は思案したのち返事をしてくれました。


「すまない、俺も今日で二回目なんだ。我儘わがままだが今しばらくは二人で語らいながら食事がしたい。回数を重ねればこの狭量きょうりょうな心も落ち着くと思うから、それからでも良いかい? ご友人には我が護衛が良い場所を見つけよう」


 そう言って護衛に何事か告げると、あれよあれよとローゼリア様の姿は見えなくなってしまったのでした。




 完全に姿が見えなくなると、殿下は私を見つめ、どこかすがるような顔をして声をかけてきました。


「……そんなに、俺のことが嫌?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る