第15話 怪奇レポート005.落ちた花弁から滴る血・肆
次の朝、出勤すると先に来ていた小津骨さんと真藤くんが何やら出かける準備をしていた。
「あれ? 今日ってどこか訪問の予定ありましたっけ?」
「ちょっと急なんだけど紺野生花店の場所がわかったからお話を聞きに行ってみようと思って。申し訳ないんだけど香塚さんと結城ちゃんはここに残っていつも通り仕事をしてて欲しいのよね」
「了解です」
すぐ後に出勤してきた結城ちゃんにも同じような説明をして、小津骨さんたちは伏木分室を出発していった。
順調にいけばお昼頃には戻って来られる予定らしい。
「それじゃ、私たちも仕事始めますか!」
二人を見送った私たちは席に着く。
ひとまずSNSを使って情報収集をするところからスタートだ。
「ワタシ、この怪異が起こるようになってからってそんなに時間は経ってないんじゃないかと思うんです。じゃなきゃもっと大きな噂になってるはずですから」
言いながらスマホとパソコンの二台使いで結城ちゃんは作業を進める。
私も遅れまいと画面に集中するのだが……ない。
須鯉造園でバラを買ったという書き込みはあっても、そのバラから血が流れたなんて書いている人はいないのだ。
「どう? ありそう?」
たっぷり二時間は画面とにらめっこをしてから私は結城ちゃんに声を掛けた。
スマホとパソコンを交互に睨んでいた結城ちゃんは、ばんざいをして大きく横に首を振った。
「お手上げです」
「だよね……。こっちも同じ」
「全部のバラが血を流すってわけじゃないんですかねぇ?」
お手上げだよぉ、と弱音を吐く結城ちゃんと共に視線を向けたのは、もう何度も目を通している怪異報告書の束だった。
「寄せられた怪異報告書を見た感じ、異変が起こるようになったのはここ一年半くらいのようなんですよね。だけど、それ以外に情報がなくて……。せめて体験者に共通項とかがあればなぁ」
「この一年半での変化ねぇ。須鯉造園のバラって昔からあったのか、結城ちゃんわかる?」
「ありましたよー! なんなら、ワタシが小さい頃には母の日にはカーネーションより須鯉造園のバラを贈ろう! ってローカルCMが流れてました」
CMを作るってことは想像以上に須鯉造園はバラ栽培に力を入れているってことだよね。
母の日にバラを贈ったっていう報告書があったのもこれなら納得だけど……。
何十年と続けてきたバラ販売で問題が起こるようになったのがつい最近っていうのはどういうことなんだろう?
「名園自然公園って近いんだけど逆に近すぎて行く機会がないっていうか。ワタシはここ何年か行ってないから最近のことはあんまりわからなくて」
「そっか」
地元民の結城ちゃんがそう言うなら小津骨さんとか真藤くんに聞いても同じかな?
小津骨さんなら情報通っぽいから何か知ってるかもしれないけど……。
「そういえば、町長さんが変わったのって去年でしたっけ?」
「あー……たしか二年ちょっと前じゃないかな」
「キッカイ町全体での大きい変化ってそのくらいしか思い付かないんですけど」
むぅぅぅと声を漏らしながら眉間にしわを寄せる結城ちゃん。
でも、町長さんが変わったのがきっかけでバラの花が血を流すようになるなんてことあるのかな?
「前の町長さんって長かったんだっけ?」
「ええ。ワタシが小さい頃からだったから、十何年とか同じ人だったと思います。
それが若い人に変わったから、うちのばあちゃんなんて大騒ぎしてたんですよ。あの時で四十歳でしたっけ」
「イケメン町長! とか言って全国ニュースにもなったんだっけ」
結城ちゃんと話しながら、私はあの時のことを思い出していた。
キッカイ町役場の職員になって一年目で、右も左もわからないまま駆り出された町長選挙。
その時に当選したのが真剣さんこと
「ただいま〜」
事務所の扉が開いて小津骨さんと真藤くんが帰ってきた。
それを歓迎するようにお昼休みを知らせるチャイムが爆音で鳴る。
「あら、いいタイミング! お昼休みが終わったら須鯉造園に行くから、出られるように準備だけしておいてちょうだいね」
いつにも増して上機嫌な小津骨さんに小首を傾げながら私たちはお昼休憩に入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます