第14話 怪奇レポート005.落ちた花弁から滴る血・参
件の広告を作るよう指示を出したのは、案の定
写真の合成に関しても小津骨さんがそういう企画に乗ってくれるタイプではないとわかっていて苦肉の策でやったのだと白状したらしい。
桂田部長の言い分としては「町民からの情報提供もスムーズになるんだからいいじゃないか」ということだけど、それを聞いている間の小津骨さんの表情は鬼のようだった。
「こちらで把握していないことに急に対応しろなんて言われても困るんです。町の方々から情報や物品を募るにしても、これからは私に一声掛けてからにしてください!」
うん。
小津骨さんの言ってることは何も間違ってない。
ド正論だ。
その後の桂田部長の声は急激に小さくなり、もにょもにょ言いながら電話は切れてしまった。
しかし、小津骨さんの剣幕を見ていた慧くんはすっかり萎縮してしまっている。
うつむいたままで小さな声を漏らした。
「なんか……ごめんなさい。僕のせいで……」
そのままカバンを手に取って立ち去ろうとする。
「いやいや! 慧くんは何も悪くないよ!」
「そうそう! このおば……お姉さんも慧くんが来たことには怒ってないから! ね?」
私と結城ちゃんが必死にフォローに回って、どうにか慧くんを引き留めることに成功した。
一瞬突き刺さった小津骨さんの視線が恐ろしいけど。
「ところでさ、この花って転校前の学校でもらったんだよね? 前にいた学校もキッカイ町にあるの?」
「ううん、隣の県」
慧くんの返答に私たちは顔を見合わせた。
隣の県からわざわざ花束を買いに来るとは思えないし、もしかして、これって全国的に起きてる事件!?
「どこで買った花かなんて、もらった人にはわかんないもんね。困ったなぁ……」
「わかるよ」
「だよねぇ……って、え!?」
慧くんの返答に驚きすぎて声がひっくり返ってしまった。
「たぶんだけど、
「紺野さん?」
聞いたことのない名前だけど有名な所なんだろうか?
私の疑問に慧くんはすぐ答えてくれた。
「同じクラスの女子。家が花屋だったから、たぶんそこ」
なるほど。
ありえない話じゃないかも。
「それじゃあ、この花のことは紺野さんにも言ってあるのかな?」
「言ってない。連絡先知らないし」
「そ、そっか」
そうだよね。
同じクラスだからって全員と連絡先交換してるわけじゃないよね。
「他の子は? 誰か、紺野さんの連絡先知ってそうな子とかいない?」
「……知らない」
「んー、誰でもいいよ。人づてに聞けそうな人とか――」
「だから知らないって!」
急に慧くんの語気が荒くなった。
「うちの親、転勤族だから。友達とか……」
慧くんの声はだんだんと小さくなっていき、最後は空調の音にかき消されてしまった。
どうやら私たちは彼の地雷を踏みぬいてしまったらしい。
「ごめん……」
なんと声を掛けたらいいのか迷いながら横目で慧くんの様子を窺う。
彼はうつむいて肩を震わせ、涙があふれそうなのを必死でこらえているように見える。
「スマホは持ってるっスか? 俺とLIME交換するっス」
「ちょ、真藤くん!?」
今まで黙っていたと思ったら急に何を言い出すんだろう。
面食らったのは私だけではなかった。
結城ちゃんも、小津骨さんも、訝しげに真藤くんを見つめている。
「小学生の頃って同じ町ン中でも転校したら二度と会えない気がしてたんスけど、この年になってみたら二、三日休みがあればどこでも会いに行けるって気付いたんスよ。てことは俺が慧のダチになれば解決かなーって思ったんス」
真藤くんの言葉に慧くんが弾かれたように顔を上げる。
雷に打たれたようなその表情は、みるみるうちに再び曇ってしまった。
「今までだって会いに来てくれるって言ってた子はいたけど、実際来たことないし……」
「それじゃあ俺が初っスね~! はい、スマホ貸して~」
飄々と笑いながら真藤くんは慧くんが持ってきたカバンのポケットから顔を覗かせていたスマホを抜き取る。
「パスワードは?」
「……ぅ」
あからさまに嫌そうな顔をした慧くんは、助けを求めるようにこちらに視線を向けた。
小津骨さんなら真藤くんを止められるかも、と期待を込めて言葉を待った。
その間に真藤くんは慧くんの手を取り、親指から順番にスマホを押し当てて強引にロックを解除しようとしている。
「真藤くん、それ以上は犯罪だから――」
「……ぃょ」
真藤くんの腕を掴んでやめさせようとした時、慧くんが口を開いた。
「いいよ、LIMEくらいなら。その代わり本当に会いに来てよね」
慧くんは言いながらスマホを操作して、真藤くんと連絡先を交換したようだった。
「もちろん俺も会いに行くっスけど、慧も放課後とか遊びに来ていいんスからね」
「あっ、……うん」
そんな風に言われるとは思ってもいなかったのか、慧くんは目を丸くして私や小津骨さんの顔色を窺う。
「
とぼけたような小津骨さんのセリフで慧くんの表情がパッと輝く。
その時、いつものように爆音でチャイムが鳴った。
爆音チャイム初体験の慧くんは小さく悲鳴を上げながら飛び上がり、慣れっこになった私たちは耳を指で塞ぎながら笑った。
「さ、帰るわよ」
そそくさと帰り支度をする小津骨さんに続いてみんなも荷物をまとめる。
館内の電気を消して、玄関も施錠。
さて、解散だと思いきや小津骨さんが何かを思い出したように声を上げた。
「慧くん、ひとつだけお願いしてもいいかしら?」
「……なんですか?」
「お父さんやお母さんに同級生だった紺野さんの花屋、名前とか場所だけでもいいから調べられないか聞いてみて欲しいの。で、もしわかったら怜太に連絡して?」
慧くんはこくりと頷いた。
「あの花は呪いの花じゃないと思うっス。それを証明するために協力お願いするっスよ! ……あ、あと宿題でわかんないとことかあったら教えるっス」
こう見えて頭いいんスよ~と真藤くんがおちゃめっぽく笑う。
慧くんの緊張はいつの間にかほぐれていて、私はちょっとだけ真藤くんを見直した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます