第12話 玲の思い


月曜日。


「・・ん、んん・・・。いまなんじ、かなぁ」


今日は10時30分から講義があるため、9時には起きたいと思っていた。


「・・・ちょっち待って11時30分?!あーね?

あー・・・。え11時半?」


壁に掛けてある時計を確認すると11時33分を指していた。


大学生になってからこれまで、遅刻寸前はあったものの、遅刻自体はなかった玲である。半ば放心状態ですらあった。


「・・・ふぅ。よししょうがないか。サボろう。」


講義は12時までだし、急いで準備して行っても10分くらいしか受けられないしなぁ。


あれ、なんだろ。なんかテンション上がってきた。これがズル休みの快感か。なんか無敵感すら湧いてきたんですけど。


・・・やばい、ハマってしまうかもしれません。


あーでも午後も一コマ入ってたわ。よしついでにサボってしまおう。


さーて今日は全休(自作)だし、何しましょ。やはりサボりといえば睡眠か。


でも僕眠くありませんですわ。


「てか俺どんだけ寝てたんだろうか」


部屋の中を見回すと、まだプラスチックのカバーすら外していないモン狩が目に入った。


家に着いてからの記憶がないってことは、軽く見積っても丸一日くらいは寝ていたことになるな。寝すぎだよ。


それより、


「・・・そっか、昨日琳月が、いや小野寺さんが奏嬉と歩いてるのを見て、、」


不思議と悲しみは無かった。小野寺さんや奏嬉に対してのマイナスの感情も特にない。


今でも変わらず小野寺さんのことは大好きだ。できることなら、こんな俺と一緒にいて欲しいと思ってる。やり直させて欲しいと願ってる。それに奏嬉のことも変わらず大切に思ってる。


でも怒りすらも湧かないとは、、


「はは、俺ってば冷たいやつだな。やっぱり歪んでる。どっかおかしいよ、お前は。」


乾いた笑いが出た。冷たい声が部屋に零れた。


やっぱりこんなやつより、奏嬉の方が何万倍も素敵だ。


昔から他者に対して悪い印象や嫌な感情は覚えなかった。それ故に、誰かを嫌いになったり悪口を言ったりすることもなかったように思う。周りの人たちはみんな「玲はすごく優しいよね」と言ってくれていた。


でも以前、そう中学生の頃、誰に対してもにこにこしていた俺を気味悪がったのか、鼻についたのか、同じクラスの男子数人が俺に聞こえるように俺の悪口を言ったことがあった。


他の人がそんなことをされたら、泣いたり、悪口を言っている数人に対して怒ったりするのかもしれない。


でも俺は、特に何もしなかった。気にもとめていなかった。「まぁそういう印象を持つ人もいるよねー」とか「不快な思いをさせてたなら申し訳ないな」くらいにしか思わなかった。


そんな俺の性格を知っていた奏嬉は、自分のことでもないのに激怒して、その男子たちに殴りかかってくれてたっけ。


先生たちに呼ばれて怒られて、やっと放課後解放されたとき、奏嬉に「玲は、よ。もっと玲の中の自分の価値を、優先順位を上げて。」って言われたのをすごく覚えてる。


でもここまできたら、彼女が他の男の人と歩いているのを見ても怒りも湧かないなら、やっぱり俺は優しいとかじゃないってことかな。むしろ冷たいのではないだろうか。



「・・・早くこの気持ちを、小野寺さんへの想いを捨てないとなぁ。ふたりに申し訳ない。」


どんなに俺が想っていても、少しも「好き」の絶対値が変わっていなくても、小野寺さんに気持ちがないなら仕方ないよね。それに、俺以外の人を選ぶってことは俺に対して少なからず思うところがあったということなのだろう。それに気づかないなんて俺ってばやっぱ最低やな。



あんなところを見せられても、特に傷ついたりはしてない。現にさっきまでいつもの調子で独り言かましてたしね。



「・・・さて、寝れないとすると何をするか。モン狩は、いいや。」







玲自身は「傷ついてない」と感じているが、果たして本当にそうなのだろうか。あの玲が買ったばかりのモン狩に手をつけようとしないのは、果たしてだろうか。


玲は他者の気持ちや感情の機微には鋭く、直感的に相手の気持ちを汲み取ることができた。しかし、自分自身のことに関してはこの特性は発揮されなかった。


いや、それも違うだろう。玲は彼自身のことに気づこうとしない、興味を示さない。自分を軽んじている。玲の中で、玲自身に価値はなかった。優先順位の最下位ですらなかった。昔から他人を重視しすぎるあまり、自身に重きを置かないことに慣れすぎた。


故に彼は、


「さーて、お昼何食べよ。」









こうも平然としていられる。



☆☆☆


いつもお読みくださりありがとうございます!


前回の話の反響が思った以上にすごくて、めっちゃびっくりしてます、、笑


前回に引き続き、今回も少し暗い雰囲気になってしまって申し訳ございません!🙇‍♀️🙇‍♀️


前回と比べて文量的に少ないかな?ごめんなさい!でも手軽に読んでいただきたいという思いがありますので、ご容赦くださいませ。


さて、今回は玲しか出てきませんでしたが、次回は琳月にも登場してもらおうと思っています!


それと、総PV数が4万2千を越えました!🎉🎊

いつも本当にありがとうございます!!

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