第13話 電話


「ごちそうさまでしたー」


サボりをかますと決めてから胃が空腹を直訴してきたため、玲はとりあえず昼食を済ますことにしていた。


「いやーそれにしても、我ながらけっこうなお手前だことで。これならどこに出しても恥ずかしくないですわね。」


一人暮らしで実家も他県にあるため、自然と家事スキルが上がっていた。特に料理は好きで、日頃から自炊しているため、同年代の人と比べても出来栄えは良かった。ちなみに今日のお昼はオムライス(紅の♡を添えて)である。



さてさて、本格的に何しよ。モン狩欲求は今そこまでないんだよなぁ。でもある程度進めとかないと、装備調べたときに「あこれまだ作れないやんけー」ってなるしなぁ。てかなんかもったいない気するし。


よしモン狩情報を見まくって欲求を高めよう。あ、てかに聞けば早いかな。


玲は「絶対昨日から馬鹿みたいにやってるもんなー」と言いつつスマホを探す。


あれれぇ?おかしぃぞぉ?いつもはベッド横の小テーブルの上に置いてるのに。


ベッド周りをガサゴソと探しながら荒らし散らかしていると、枕の下からスマホを見つけた。


「なぜ君はそんな所にいたんだい。えてかめっちゃ通知来てんだけど。」


スマホのロック画面には「琳月:本当にごめんなさい。もうどうにもならないかもしれないけど、せめて本当のことを伝えたいです。時間をもらいた・・・」や「奏嬉:玲、本当にごめん。玲の立場からしたら到底信じられないことだと思うんだけど、実は昨日の・・・」などの大量の謝罪や弁明?みたいなこと、たくさんの不在着信が表示されていた。



やっべ、爆睡かましてたから気づかなかったけど、ふたりからしたら俺ってばわざと連絡絶ってる感じに映るくね。今日大学休んでるし。やば申し訳ない。


てか俺のことなんて気にしなくてもいーのにー。ふたりともほんとに素敵な人たちだなぁ。でもこんだけ連絡もらってるんだし、さすがに電話かけた方がいいよなぁ。



まず琳月に電話をしようとスマホのロックを外した瞬間、






♪〜〜〜♪♪


***






『あーもしもしー?玲先輩?』


「もしもし?なんだ瑞凪かー。タイミング良いんだけどタイミング悪いわね。」


『なんですかその明らかにテンション下がってる感じ。てかタイミングはどっちなんですか。』


ロックを解除した瞬間に電話がかかってきたため、てっきりふたりのうちのどっちかだと思ったのだが、着信相手は瑞凪だった。


「いやあとで瑞凪にLINEしようと思ってたんだけどさー」


『そんなに私と話したかったんですか?♡そんなに声聞きたかったんですー??これからはいつでもかけてきてくださいね!大歓迎ですから!!1コールで出てみせますので!』


めっちゃ早口やんこいつ。なんなんこの子。なんなん。


「いやモン狩のこと聞こうと思ってただけだから。てか電話しようとは思ってなかったから。」


『あぁモン狩のことですかそうですか。あれ?後でLINEしようと思ってたってことは、この後何かあるんですか?てゆーか先輩今日大学来てませんよね?』


なんで知ってるんこの子。なんなん。


「いや、りつ、小野寺さんに電話しよーと思ってさー。」


『・・・ふーん、そーですか。それなら玲先輩、ちょっと待っててくださいね!それじゃ!!』


「ちょっ、待っててってな・・・」

♪♪


あいつ切りやがったよ。先輩様の話は最後まで聞きましょうね。


まぁいーや。それじゃ小野寺さんに電話しますかねー。


***


話の舞台は変わり、場所は琳月のアパート。


「どうしよう、昨日から全く返事がない。」


昨日、あれからすぐに玲に対して連絡をしたが、一向に返信はなかった。


「はぁ。私はなんてことを・・・。もっと考えればよかった。玲の性格は、考え方は分かっていたはずなのに。玲との関係を進めたい、玲にもっと心の内を話して欲しいという理由でこんなことになっているのだから、本当に、笑えないわよね・・・。」


昨日からずっと、琳月の部屋には後悔や懺悔や自己嫌悪の念が、何より自身への怒りが涙と共に部屋に広がっていた。


だがしかし、あるのは静寂。答える者も応える物もそこにはなかった。


目元は腫れ、頬は普段の新雪は見る影もなく赤くなっていた。



どうしよう、私が玲を傷つけてしまった。本末転倒どころの話ではない。


他でもない自分自身がやってしまったということは分かっている。最低だということは百も承知だ。だけど、もし叶うのなら、一縷の望みだとしても赦しを乞うことができるのなら、全てを償ったあと再び・・・


叶わなくても、たとえどんなに罵倒され非難されても、せめて真実だけは、真意だけは伝えなければならない。伝えたい。


「・・・玲は、罵倒なんてしないか、」


玲のことだからきっと、怒りもしないんだろうな。玲は、優しすぎるから。きっとこんな私のことでさえ非難しないだろう。


でも、今回はその優しさが辛い。痛い。




「私には、罰を望むことさえも傲慢、だよね。」



そんな時、


♪♪〜〜〜♪♪♪


「!? れ、い・・・?」


スマホの画面を見ると玲から着信がかかってきている。先ほどからの震えで上手く操作できないが、慌てて「応答」に指を触れさせる。


「もしもしれ、」


『あもしもし小野寺さん?全然返信できなくてごめんね、いやーずっと寝て・・・』


、か。そう、よね。私はそれほどのことを・・・。


とめどなく涙が溢れてくる。なんで私が泣くのよ。本当に泣きたいのは、涙が出るくらい辛いのは玲の方でしょ。


『・・さん?小野寺さん?大丈夫?』


それでも、自業自得以外の何物でもないけど、なんて・・・。


『もしもしー?ほんとに大丈夫?もしだったら電話切った方がいいよね?』


「・・・大丈夫。ごめんなさい、こんな私に気を遣わせてしまって。電話かけてきてくれてありがとうございます、LINEでも言ったのだけれど、昨日のことについて話したくて。話さなければいけなくて。だからどこかで会え、」


『(玲せーんぱい!待っててくださいって言いましたよね?なんで待たずにあいつに電話してんですか。)』


『(ちょっとまってなんで家に入ってきてんの?てかなんで来てんの?ついでになんで場所知ってんの?てか静かにしてね、今先輩は小野寺さんと電話してるからね。見れば分かるよね。見なくても知ってるよね。あと出てこうね。)』


・・・え?今玲は瑞凪と一緒にいる・・・?瑞凪の声が小さくだけど聞こえた。それに玲も小声で何か話してるし。でもさっき同じ講義を受講してる友達に、玲が教室にいるか聞いたら「いないよ、今日来てないっぽいねー。珍しくない?なんかあったんかな」って。


じゃあ瑞凪は玲の家に?なんで、、。


『ごめんごめん、なんか瑞凪が勝手に家に凸ってきてさ。それで、話ってなん、、って、うぉっ!?』


「玲?大丈夫?!玲?!!」


何かの音がした後ノイズのような音が聞こえてきている。


「玲?!」


『(なんで俺のスマホとるんだよ!てか返しなさい)』


『(あーちょっとうるさいです玲先輩!)

もしもし?瑞凪です。ほんとに、最低ですね。もうこれ以上、玲先輩を傷つけるようなことはしないで。てゆーか近づくな。』


♪♪


「・・・え?」


あの口ぶりだと瑞凪は、、。


どうしようどうしよう。だって瑞凪は玲のことが好きで、、。










部屋はまた、静まり返る。

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