第4話 玲と琳月①

よし、行くか



と、その前に忘れ物がないかチェックしておかねば。



「自分忘れられてるよーってやつ挙手してー」



シ────ン。静かだ。


どの教科書も返事をしない。まるで屍のようだ。


おーけい、忘れ物なし。

もしこれで何か忘れてたら怒ってやる。



「今は・・・・・」


10時ちょうどか。

大学には歩いて7分程で着けるから、そろっと出るかな。



琳月との集合時間は15分だけど、なるべく早めに行かねば。待たせるのは申し訳ないしね。


それにしても、琳月って毎回早いんだよなー。この間は奇跡的に俺の方が早く着けたけど。



「・・・・そんなに喉の渇きいかついのかな?」



***


玲のことを待っている間、私はいつも彼のことを考えている。


玲と付き合い始めてから、毎日がとても幸せだ。

ちなみに告白は私から。


私は誰にでも分け隔てのない優しさを持っている彼のことが大好きで、彼を目で追うようになったのもその優しさに気づいてからだった気がする。


そんな優しい玲だけど、たまに他人ひとのために無茶をしてまで手を差し伸べようとするときがある。まるで自分を勘定に入れていないような、自分が犠牲になることに何の疑問も持っていないような。



そして本当にたまに、いつもは明るい笑顔を絶やさない彼の顔に、暗い影を落とすことがある。


本当に一瞬のことだから、私以外は気づいていないかもしれない。


前にそれとなく悩みとか困っていることとかがないか尋ねたことがあるけど、「心配してくれてありがとねー、でもほんとに何もないから大丈夫ー」と笑顔で言っていた。


でもね玲、私は気づいてたよ、その笑顔は心からの笑みじゃなかったって。


玲は自分のことをあまり話したがらない。

いやちょっと違うかな。悩みとか嫌だったこととか、そういうマイナスなことは話したがらない。


だから私も、聞くのを躊躇ってしまっている。




でも玲が私のことを心から好いてくれているのはとても感じるし、私も玲のことが大好き。


「今日こんなことがあったんよー」とか「こんなことがあってめっちゃ面白かった」とか、楽しい話を色々と聞かせてくれる。そういうのを聞いているととても楽しいし、話している彼は心から笑っているから幸せだ。


それでも、玲は陰を私に見せてくれない。私は彼の悩みとか嫌だったこととかを聞いて、「そっか、大変だったね」って言ってあげたい。



玲は、私のことを本当の意味で信頼してくれていないのかな・・・?


いやそんなことない、大丈夫・・・。



あーだめだ、少しモヤモヤする・・・。



最近、こういうことばかり考えてしまっている気がする。



「玲、早く来ないかなー」

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