決心

私が倒れて小さくなってから1年が経った。

研究は依然として進まず、片手間に作っていた機械人形だけが増えていった。

ニアを蝕む植物は既に首から上以外の全身を覆い、腕にはつぼみが出来ていた。

それでもまだ身体は動かせるというのだからやはり緑化症は不思議な病だ。



「ごめんね、ニア。貴方に協力してもらってもう2年にもなるのに何一つ研究が進んでないの。ガスが原因になっていること以外、何も分からない。ガスを調べても、発症させたマウスを調べても何にも分からないの。こんなんじゃニアを治すなんてとてもじゃないけど間に合わない。」



いつも通りガスを採取し終え、帰ろうと歩き出した時、私はつい弱音を零してしまった。



「いいんだよ、私は間に合わなくて。そりゃあ治るなら治してもらってもっと生きたかったけど、無理してソフィが居なくなるのは嫌だからさ。」



弱音を吐いた私に、彼女は優しく言葉を返す。



「だから、無理はしないでくれよ?大丈夫、私に間に合わなくても、ソフィの研究はいつかきっと多くの人を救うんだ。自信を持てばいいさ。」


「⋯わかった。ありがと、ニア。」



今まで人の死には慣れていたつもりでいた。

地下街では他の子が死ぬことは少なくなかったからだ。

私の周りでも何人か命を落とした子がいた。

だけどニアは、生きる為だけに集まった子達とは違う、大切な友人だった。

ニアを喪うと考えただけで、不安と、悲しみと、どうしようもない無力感が胸に込み上げてくる。

それでも私は頑張らなくてはならない。

彼女が見た希望を現実にするために。


別れ際、彼女が私を引き止めた。

何やら渡したい物があるらしい。



「なぁ、これを持って行ってくれないか?挿し木で育つはずだから、研究室に飾って欲しいんだ。」



そう言って渡されたのは彼女の身体に生えた植物と同じものだった。



「外にいる仲間に植物に詳しい奴がいてさ、レンギョウって花らしいんだ。私に生えてるのを折ったやつなんだけど、生きた証を形にして残したくてさ。」


「生きた証って⋯、そんな縁起でもない⋯。」


「そんな事ないさ。緑化症はもうここまで進行してるんだ。いつ私が来れなくなってもおかしくないだろ?だから今のうちに、ソフィに渡しておきたいんだよ。」


「でも⋯。」



これを貰ってしまったら、もう会えない気がするから。

そう言いたかったが、言葉が出なかった。

しばらくそうして考え込み、私はひとつ決心をした。



「いや、わかった。その代わり明日からは私も外にいる。相応の準備をするから今日は帰るけど、明日の早朝、ここに戻ってくるから。」


「え!?いや、それは⋯。ソフィに負担がかかるだろ⋯?」


「ニアが最期を迎えるかもしれないのにその場に居られない方が嫌だから。」


「ソフィ⋯、わかった。でもちゃんと準備してこいよ?ソフィまで緑化症にかかるとかはなしだからな?」


「それくらいは大丈夫。私の防護服はどんな毒ガスだって通さないから。」



そうして私は翌朝ニアと共に外へ出た。

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