知らなかった才能

設計図を描いていると、沢山の案が頭に浮かんでくる。

どの線をどこに繋げばいいのかが直感で分かる。

そうして私はしばらく設計図を描くのに没頭していた。

明け方に描き始めたはずが、気付けば日暮れだった。

このままではまた倒れてしまう。

そう思った私は、とりあえず設計図を描くのを辞め、簡単な食事を摂った。



「ちょっと⋯描きすぎちゃったかな⋯。」



気付けば机には50枚近い設計図が置かれていた。

そのどれもが設計としては成功作、現状破綻の全くないものだった。

材料が届くのはまだ数日先なので、とりあえずはなんとか生活を続けることにした。


その数日後、私は作り直した防護服を持って地下街で待つニアの元へ向かった。

数日おきとは言え、1年も付き合いを続けていればいずれ慣れる。

今の私とニアはかなり仲が良かった。



「こんにちは、ニア。元気にしてた?」


「ん?誰だ?うーん⋯何となくソフィに似てる⋯?まさかあいつ⋯子供いたのか⋯!?」


「違うって、本人だよ。ソフィア・ハミルトン本人。なんかちっちゃくなっちゃってさ。」


「えぇ⋯、そんな訳無いだろ⋯。いや、でも確かに変わった力を持ってる奴は都市にもいるしな⋯。」


「多分そういうの持ってたんだろうね。全くもって使えない力だけど。」


「どうしてだ?いつでも若返れるんだろ?実質不老不死じゃないか。」


「不老はそうかもしれないけど不死じゃないよ。この間餓死しかけちゃって、そのせいで縮んだみたいなんだよね。」


「餓死って⋯、食べるものなかったのか?都市にいても大変なんだな⋯。」


「違う違う、研究に没頭しすぎちゃっただけだよ。空腹も眠気も疲労も感じないんだよね。道理で地下街暮らしも耐えられた訳だよ。」


「地下街でだって食事くらいはできるさ。外は酷いもんだけどな⋯。」



このまま行くと、私もニアも暗い話ばかりしてしまいそうだったので、話を切り替えた。



「それより、今日もガスを採取しに行きたいんだけど、いいかな?」


「私はいいけど、大丈夫なのか?防護服とか⋯。」


「それはもう大丈夫、昨日作り直したからさ。」


「そうか、無理はしないようにな。」


「大丈夫、いざと言う時は走って何とかするから!」



軽口を叩きながら、ニアとガスを採取した後、研究室に帰る。

研究室の中には、見慣れないダンボールが山積みになっていた。

恐らく注文していた材料が届いたのだろう。



「うわぁ⋯、頼みすぎちゃったかな⋯。」



と今更後悔しても遅いので、とりあえず小さな試作品を作ってみる。

手のひらサイズだが、完全自律思考が可能な機械人形だ。

正直そこまで役には立たないが、試作品として作るには申し分無い。

そうして作業に手を付けて、ものの3時間程度で完成した。



「はは⋯、数日はかかるかと思ったのに⋯。出来ちゃったよ⋯。」



目の前の小さな人形は音声こそ発さないが、こちらの指示を聞いて机の上を自由に歩き回る。



「また明日他の子を作ってみよう⋯。今はとりあえず君の名前でもつけようか。」



そうは言ってもいい案が思いつかない。

一応設計図には「零式機械人形」と書いてはいるがそれでは呼びづらい。

どうしたものか⋯。



「プリム、なんてどうかな。古い言葉で『最初』を意味する名前なんだけど、君にピッタリでしょ?」



そう言うと、その人形はお辞儀をするように動いた。



「ふふっ、それじゃあおやすみ、プリム。また明日よろしくね。」



一言声をかけて、私は眠りについた。

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