研究者として

孤児院に入ってから、私は全力で勉強した。

あの日見た「緑化症」を研究するために、必死で学んだ。

周りの子たちは私より小さかったけど、それ程歳が離れている訳でもなく、私が覚えるのが早かったからみんなからお姉さん扱いされていたくらいだった。


そうして3年の月日が経ち、私は研究者として政府に雇われた。

孤児院の名前を苗字にもらった、「ソフィア・ハミルトン」として。


雇われた初めの日から私は研究室を与えられた。

元々「緑化症」について研究すると伝えてあったはずだが、どうやら他に「緑化症」の研究をする人は居ないらしいのだ。

確かに、都市ではこの3年間1人も見ていなかったし、そもそも症例が少ないのかもしれない。

それでも私はあの日見た綺麗な植物を忘れられず、「緑化症」を追うのだ。


まずは原因を調べるところからだ。

前に「緑化症」の人を見たのは地下街だったから、地下街に行けばなにか分かるかもしれない。

そう思って私は地下街へと向かった。


久しぶりに来た地下街はやはり酷いものだった。

治安は悪く不衛生、薄暗くて不気味。

そして奥へ行けば行くほど環境も悪くなる。

私たちは都市に近いところで生活していたからなんとか生きていられたけれど、もっと奥で生活していたら1人も残っていなかったかもしれない。

そう思うと少し背筋が震えた。


奥へ奥へと歩みを進めていくと、都市に近い方ではほとんど見なかった、全身が隠れるような外套を身につけた人が多く見られるようになった。

道の端に座って、しばらく人の往来を観察していると、外套を身につけた人の1人に植物が生えているのを見つけた。

あれが恐らく私が探していた「緑化症」なのだろう。

すぐにも声をかけたかったがここは地下街、相手がどういう人物なのかも知らずに声をかけるのは危ないと判断し、後を追うことにした


息を潜めてしばらく追って行くと、行き止まりに着いてしまった。

しかし追っていたはずの相手はいない。

一体どこに⋯。



「お前だな、私の後をつけてきたのは。」


「あっ⋯。」



見つかってしまった。

こうなっては仕方がない。

しっかりと理由を話して⋯。



「お前、なんの用で私を追っていた?軍の人間⋯じゃないよな?それにしては尾行がお粗末すぎる。」


「あ、あの⋯。もしよろしければその植物を見せてください!」


「っ!そうか⋯、お前これを見た訳か⋯。」


「は、はい。私それについて知りた⋯。」


「見られちまったなら仕方ねぇ。お前に恨みは無いが私も指名手配されるのは嫌なんでな。」



そう言って彼女はこちらに銃を向ける。

冗談じゃない。

私だって護身用の銃は持っているけれど、そもそも私の力じゃまともに撃てやしないんだ。

ここは何とか落ち着いてもらうしか⋯。



「ちょっと待ってください!緑化症について調べてるだけなんです!通報したりなんかしないので落ち着いてください!」


「調べてる?これをか?ふーん、なんか怪しい奴だな。まぁいい、とりあえず殺さないで話は聞いてやる。」



なんとか落ち着いて貰えた。

単純⋯いや、素直な人で助かった。

そうして私は彼女と話を始めた。

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