救済の話
翌朝、僕は2人の遺体が安置されているという場所に向かった。
話には聞いていたが、2人とも言葉に出来ないくらい酷い姿だった。
2人の体には多くの銃創があった。
住んでいた場所を考えれば、襲撃者が銃を持っていてもおかしくは無いだろう。
これだけでは犯人を特定することは出来ない。
そして現場に大した証拠があった訳でもない。
それでは例え天下の政府軍でも犯人を見つけられないというのは納得出来る。
横たわる2人に別れを告げ、一度家へと戻る。
もういっそ死んで家族の後を追いたいが、皆がそれを望むはずがない。
今の僕に出来るのは、緑化症の研究と家族を殺した犯人探しの2つを続けることだけだ。
緑化症の研究は二度とローザやクロムのように苦しむ人が出ない為に。
犯人探しはこの手で必ず復讐する為に。
そう決意して家に着くと、見覚えのある人物が家の前に立っていた。
「どうも、先生。ご無沙汰してます。」
彼は「アラン・スミシー」という、数年前に「怪我をしてしまったから治して欲しい」と医院に来て治療を受け、その2日後に失踪した謎の多い男だ。
腹部に銃創が2つほどある怪我だったので、当時は「恐らく何かトラブルに巻き込まれたのだろう」と思っていた。
「あの時はすみませんね、かなり急いでおりましたので。」
「はぁ⋯、それはいいですけど。何故今更ここに⋯?」
「いえね、あの時払えなかった治療費を払いに来たんですよ。払える目処も立ちましたし。」
「なるほど。でもいいですよ、払わなくても。どうせもう僕には使い道も無いですし。」
「ふむ、一体何があったんですか?」
「あぁいえ、お気になさらず。出来れば1人にして貰えると助かります。」
「私なら何か力になれるかもしれませんし、お話してくれませんかね?」
「⋯そう言うのなら少し、話しますね。」
僕はその男に緑化症で娘を失ったこと、家族を殺されたことを話した。
話してどうなる訳でも無いが、誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。
ひとしきり話終わると、彼はこう言った。
「先生、ご家族は皆救われたのですよ。この都市は、この世界はとても過酷で残酷です。安心してください。きっと皆天国で楽しく暮らしていますよ。」
僕は、一瞬この男は何を言っているのかとも思ったが、確かにそう考えた方が都合はいい。
そう割り切って生きていかねば、3人の分まで僕が生きなければいけない。
そう思うと、少しだけ救われたような気がした。
「ただ⋯、もし先生がそれでも復讐を望むのなら、私が先生に力をあげましょう。少しだけ強くなれる、おまじないのようなものです。どうしますか?このまま家族を想って生きていくか、復讐するために力を得て戦うか。2つに1つです。」
僕はとても悩んだ。この男はそれほど信用出来る相手では無い。
だが、この時点で僕に寄り添い、選択肢を与えてくれているのは確かだ。
少し救われた気持ちが、僕を動かしてくれる。
例え家族が望んでいなかったとしても、僕は犯人に罪を償わせたい。
犯人を探すのは今のままでは難しい。
それなら、力を得て犯人を探す方が良いのでは無いか。
「⋯⋯お願いします。僕に、戦える力をください。」
「先生なら、きっとそう言うと思ってましたよ。それでは今から、先生に力を与えましょう。」
男はそう言うと、僕に向けて手をかざした。
不思議な感覚が込み上げてくる。
「家族は皆救われた」
段々と不安が取り除かれていく。
「死は救済である」
心が浄化されていく。
「この世界は過酷だ」
僕は
「俺は」
「この世界は救済されなきゃならない。俺が救ってやらなきゃならない。」
「どうですか?その力は。」
「礼を言うぜ、アランさん。俺の目的がはっきりした気がする。」
「それは良かった。それじゃあ私はこれで。またいずれお会いしましょう。」
この世界は過酷で苦痛に塗れている。
こんな世界で生きていくなんて、あまりに可哀想だ。
俺が救ってやらなきゃ。
この世界の遍く全ての人間を、1人残らず救済してやらなければならない。
俺の目的はただ1つ、あの中央の機械を壊し、全てを壊してこの世界を救うこと。
その為なら、どんな手だって使ってやろう。
マキナ・リベラティオ 救済者ハンス・ニルヴァーナの話 平たいみかん @tachyon0926
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