「悲しい別れ」
ローザを失ってから約半年が経った頃、僅かながら手がかりが掴めてきた。
どうやら、緑化症は何かを吸入することで発症する病らしい。
それがウイルスなのか細菌なのか、はたまたガスやスモッグのような大気汚染なのかは分からないが、それでも少しは対策が取れる。
この濃いスモッグと分厚い雲の下だ。
3人ともマスクをしていたとしてもさほど違和感は感じられないだろう。
感染源がどこにあるのか分からない今、用心しておくに越したことはない。
だが、そんな対策も結局は無意味だった。
ローザを失ってから1年が経とうとしていたある日、クロムの腕から、見知らぬ植物が生えていた。
まだ治療法を見つけられていないのに。
まだ治してやれないのに。
どうやら、僕ら一家は神様に見放されてしまっているようだ。
だが今度こそ治す方法を見つける為、僕は中央区にいるとある研究者を訪ねることにした。
その人は緑化症について研究しているらしく、何か僕以上に知っている事があるのでは無いかと思ったからだ。
「それじゃ、行ってきます。クロム、パパが必ず治してやるからな。」
そう言ってクロムの頭を撫で、中央区へと向かう。
結果として分かったのは、「緑化症の原因は壁の外にあるガスである」と言うことと「未だに治療法が見つかっていない不治の病である」と言うことの2つだけだった。
原因は壁の外のガスだと言うのなら、何故ローザやクロムが発症してしまったのか。
そう聞いてみるも、それは分からないとしか返ってこなかった。
だが、原因がガスだと分かったのなら、そのガスを採取さえ出来れば研究が出来る。
治療法も見つかるかもしれない。
幸い、研究者の人のご厚意でガスのサンプルを分けて貰えた。
これで研究を重ねればクロムを治せるかもしれない。
そう思うと俄然やる気が湧いてきた。
僕は帰路に着きながらそう思い、東区のはずれにある自分の家に帰っていった。
家に近づくにつれ、人が段々と多くなってきた。
おかしい。
この時間ならこの辺りはあまり人は多くないはず。
それなのに、どんどん人混みは増えていく。
人の壁を掻き分けながらなんとか家へ着くと、そこにはまるで事件現場のようにテープが張られていた。
何が起きたのか分からず、調査をしているであろう軍人の1人に声をかける
「すみません!ここで一体何があったんでしょうか⋯?」
「あっ、この家のご主人ですか。貴方のご家族がね、何者かに襲われたみたいなんですよ。ただ、なにぶん証拠が殆ど残ってなくてですね。力になってあげたいのは山々なんですけど。」
「妻と子供は!?何処にいるんですか!?」
「残念ですけど⋯、我々が来た時にはもう⋯。」
僕は膝から崩れ落ちた。
僕が家を開けた隙に、誰かが家を襲ったと。
サラもクロムも殺されてしまったと。
僕は一体、なんの為に中央区まで行ったのか。
一度ならず二度までも家族を救えず、僕は一体何をやっているのか。
しばらくして、調査を終えたであろう軍人がこちらに声をかけてきた
「一応調査と清掃は終わりました。ですが⋯、残念ながら、犯人を見つけるのは難しいと思います。もし良かったら、我々政府軍で貴方を保護しましょうか?犯人はもしかしたらご家族では無く貴方を狙ったのかもしれませんし。」
そうだとしても、最早どうでもいい。
僕にはもう何も残されてはいない。
ならいっそ早く死んで、サラやクロム、ローザ達に会いに行きたい。
そう思っていた。
「一晩⋯、考えさせてください。」
「分かりました。何かあれば我々はまだ近くにおりますので、いつでも声をかけてください。」
そう言ってその軍人は帰っていった。
僕は唯一残された家に入っていく。
清掃がされたとはいえ、血の臭いが微かにしている。
僕は、サラとクロムが死んでいたというキッチンに入っていった。
もう家族はいないとはいえ、僕は少しでも2人がいた跡で今夜を過ごしたかった。
調査をしていた軍人によると、遺体は酷い状態で、とても見せられたものではなかったらしい。
それでも、どうしても最後に一目見たいと言うのならと、軍人は遺体が安置されている場所を教えてくれた。
明日はそこに行こう。
死ぬ前に、最後に2人を一目見るために。
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