「無益」「儚さ」「努力」
ローザが産まれて1年がたった頃、ある転機が訪れた。
それは僕がありえないと切り捨てた不治の病、「緑化症」に関わるものだった。
いつも通り仕事をしようと準備をしていた時、妻が必死な形相で僕に駆け寄ってきた。
「ねぇ、ハンス。あ、あの子が、ローザが⋯!」
途切れ途切れの言葉で何が起きたのかは分からないが緊急事態であると言うことはすぐに理解できた。
サラと共に大急ぎでローザの元へと駆け寄った。
ローザの異変は、僕が医師でなくとも 見れば直ぐにわかっただろう。
明らかに紅潮した顔、荒い呼吸、そして腕に咲いた濃いピンク色の見知らぬ花。
「ねぇハンス、ローザは一体どうしちゃったの?何をしてあげればいいの?私は何をすればいい?」
僕はこの症状を、「身体に植物が生える病」を知っていた。
だが、何も知らなかった。
対処の仕方も、治療法も、応急処置も。
「わ、分からない⋯。でもとにかく出来ることをしないと⋯。」
僕は医師として、必死に出来ることした。
妻にも手伝ってもらい、必死に看病をした。
そうしてしばらく安静にしていると、苦しそうだった表情は少し穏やかになり、呼吸も静かに落ち着いていった。
「ねぇハンス、ローザの腕⋯、この花は一体何⋯?この子に何が起きてるの⋯?」
「あ、あぁ⋯、恐らく「緑化症」と言う病気だ⋯。僕もよくは知らないんだけど、なんでもここから少し離れた「地下街」という場所では蔓延しているらしい⋯。」
「病気なら治るのよね⋯?ローザは⋯大丈夫なんだよね⋯?」
「⋯⋯ごめん、サラ。それは僕にも分からないんだ。何せ噂にしか聞いたことが無い、全く未知の病。確実に治せるとは言えない⋯。」
「それじゃあこの子は⋯」
「でも、治してみせる。僕だって医者の端くれだ。自分の娘くらい治せなきゃ。」
そうだ、これが「病」である以上、何か治す方法があるはずなんだ。
そう自分に言い聞かせ、僕はこの「緑化症」の治療法を探すことにした。
しばらく医院は休まなければならないだろう。
色んな人に迷惑がかかるだろう。
だが娘の、ローザの命には代えられない。
そうして、まだ幼かったクロムの世話はサラに任せ、僕は緑化症の治療法を研究し始めた。
来る日も来る日も模索し続け、原因を探し、研究を続けた。
こうしている間にも、ローザは徐々に身体が植物に変化していっている。
一刻も早く治療法を見つけなければ、あの子の小さな体ではあっという間に全身が植物になってしまう。
そしてローザが緑化症を発症してから半年が過ぎた頃、微かながらも続いていた命の鼓動は止まってしまった。
結局、原因も治療法も何も分からず、唯一分かったのは、今やローザそのものとなってしまったその花の名が「シモツケ」であることだけ。
それ以外は何も、何一つ分からなかった。
意図的に隠されているのかと思う程情報が無く、なんの手がかりも掴めなかった。
だがこれ以上落ち込んでいる暇は無い。
ローザの命を無駄にしないためにも、研究は続けなければならない。
これ以上同じような思いをする人が出ないように。
これ以上同じような目に遭う子供が現れないように。
万が一クロムやサラが緑化症にかかった時、今度こそ治療出来るように。
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