想定外

今日は、ヘレナが私の家に来た。

以前にもあったように、カルナが1人で外出したいらしく、それなら折角だからと言うことでヘレナが来たがっていた私の家でカルナの帰りを待つことになった。



「それじゃ、行ってくるから。夕方頃には帰ると思うよ。」


「あぁ、行ってらっしゃい。待ってるよ。」


「いってらっしゃい!カルナ姉さん!」



そうしてカルナを見送った後は、まず私の家の紹介をして、しばらくヘレナとチェスやショウギをして遊び、昼食を食べ、しばらく2人で雑談をしていると、ドアをノックする音が聞こえてきた。



「カルナかな?ちょっと早い気はするけど、まぁ様が早く済んだんだろ。ちょっと行ってくるから待っててね、ヘレナ。」


「はいっ!」



ヘレナは笑顔で元気よく返事をして、待っていてくれる。

ドアの近くまで来た辺りで、またノックする音が聞こえる。

先程とは違う、強く叩くような音。

それに続いて、ドアの向こうから若い男のような声が聞こえてきた。



「政府の者です。ここでレベリオを匿っているとの通報があり、確認をしに来ました。今すぐにドアを開けてください。」



通報?おかしい、ヘレナは花がお腹に咲いているから見た目じゃ緑化症だと分からないはず。

とにかく、このままではヘレナが危ない。

柱の影からこちらを覗くヘレナに、私は視線を向け、今日説明した地下室へ隠れるよう促した。

ヘレナが行ったことを確認してから、私はドアの向こうの見知らぬ人間に声をかける



「今開けるから、あんまりドアを強く叩かないでくれ。」



ドアを開けると、そこには軍服を着た2人組の男が立っていた。

そして、ドアが開くや否や、私を押しのけ、土足で家の中へと勝手に入っていく。



「おい!せめて靴を脱ぐとかしないのか?政府の奴らはこんな奴ばかりなのか?」



そう言うと、1人がこちらを見て、話しかけてくる。



「ここにレベリオが匿われているとの通報があった。何か知っているなら今すぐ話せ。」


「は?レベリオ?何の話だ?というか、お前ら軍人はママから「他人の家に土足で上がってはいけません」って教わらなかったのか?」


「ふん、まぁいい、言わないなら無理矢理探すだけだ。見つかればお前にも着いてきてもらうからな。」



そうして、しばらくその2人は家の中を探していたが、地下室を見つけることは無く、結局そのまま帰って行った。



「いない⋯か。チッ、逃げたって訳か。運が良かったな。次は無いと思えよ、我々に仇なす逆賊ゴミ共が。」



そんな捨て台詞を吐いて、男達は帰って行った。

気疲れからしばらくその場に座り込んでいると、帰ってきたのであろうカルナがこちらを見るなり駆け寄ってきた。



「マキナ!ヘレナ!居るか!?大丈夫か!?」


「あっ、カルナ⋯?おかえり⋯。」



カルナはとても心配そうな表情で、こちらを見る。



「前に来た時と違って荒れてたけど、何かあったのか?」


「あ、あぁ⋯。そうだな、えっと⋯。何から話したものか⋯。」



私が説明に困っていると、ヘレナが奥から顔を出してきた。



「カルナ⋯姉さん⋯?あ、やっぱり!カルナ姉さんだ!おかえりなさい⋯!怖かった⋯、怖かったよ⋯!」



ヘレナは、カルナを見るなり飛びついて、その胸の中で泣き出してしまった。



「ヘレナ⋯!良かった⋯、二人とも無事で⋯!」


「⋯前に、ヘレナが政府の人におわれてるって言ってたよな。多分それらしき人が来たんだよ。ヘレナには使ってなかった地下室に隠れてもらって、何とかやり過ごしたけど⋯。まぁ見ての通り散々荒らした挙句、舌打ちして帰って行きやがったよ。」


「そうか⋯、そんなことが⋯。」


「あぁ、しかも、確証もないはずなのに、捨て台詞のように「政府に仇なすゴミが」みたいなことを言って帰っていったよ。一瞬本気で殴ってやろうかとも思ったけど、もしそんなことをしてヘレナが危険にさらされたらと思って、やらなかったんだ。」


「あぁそうだな、それが懸命だったとは思う⋯。ともかく、2人とも無事で本当によかった⋯!」



本当に私もヘレナも何とか無事で良かった。

もしヘレナが奴らに見つかっていればと考えると怖気が止まらない。


「とりあえず帰ろうか、ヘレナ。ごめんね、マキナ。かなり迷惑をかけちゃったみたいで。」


「いや、いいんだ。カルナの頼みだったし、ヘレナも私の家に来たかったみたいだからな。」


「無理を言ってごめんなさい⋯。マキナ姉さん、また、明日⋯ね?」


「あぁ、また明日。」



そう言って、私は2人を見送り、部屋に戻った。

何故ここにいるとバレたのか。

少なくとも、ヘレナは見た目では緑化症であると分からない。

それに、ヘレナと出会ったのは地下街だから、彼女が誰なのかをこの辺りで知る人は居ないはず。

疑問はいくつも浮かぶが、考えても仕方がない。

そう思い、私はいつものように明日を迎えるため、眠りについた。

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