想定外 ~Another~
ヘレナを迎えて1年が経とうとしていたある日の事だった。
その日はヘレナをマキナの家に預け、私はまた森へと出かけていた。
「武器等は準備出来た。あとは地形の把握と作戦の確認それが出来たらあとは決行するだけ。何か質問はある?」
「一つだけ、質問がある。侵攻ルートはまだ隠したままなのか?」
「あぁ、そうだ。前にも言ったように、直前まで誰にも伝えない。これに関しては、親友にさえ、だ。」
「そうかい、大した徹底ぶりだな。だが、当日に教えられたんじゃ間に合わねぇんじゃねぇのか?」
「その点に関しては問題ない様なルートを選んである。テストも兼ねて1度潜入したが、大した障害もなく、スムーズに中に入る事が出来た。」
「なるほどな、それじゃあルート自体に慣れてなくても、侵攻しやすい訳か。」
「あぁそういうことだ。他は無いか?」
「いや、大丈夫だ。次はどうする?1度また擦り合わせのために集まるか?」
「いや、そのつもりは無いな。何かあればその時はまた招集しよう。」
「了解、んじゃ今日は解散ってこったな。」
そうして彼らと別れ、マキナの家へと向かう。
しばらくしてマキナの家が見えてくる。
が、何か様子がおかしい。
マキナはガサツな印象を抱かれがちだが、実際はそこそこ綺麗好きだ。
だが、そうとは思えない程玄関付近が荒れている。
ノックをする間も惜しむように勢いよくドアを開け、2人を呼ぶ。
「マキナ!ヘレナ!居るか!?大丈夫か!?」
「あっ、カルナ⋯?おかえり⋯。」
少し元気が無さそうなマキナの姿がそこにあった。
怪我をした訳では無さそうだが、何があったのだろうか。
「前に来た時と違ってかなり荒れてたけど、何かあったのか?」
「あ、あぁ⋯。そうだな、えっと⋯。何から話したものか⋯。」
「カルナ⋯姉さん⋯?あ、やっぱり!カルナ姉さんだ!おかえりなさい⋯!怖かった⋯、怖かったよ⋯!」
柱の影からこっそりこちらを見て、駆け寄って来たヘレナは飛び込んで来るなり泣き出してしまった。
「ヘレナ⋯!良かった⋯、二人とも無事で⋯!」
「⋯前に、ヘレナが政府の人におわれてるって言ってたよな。多分それらしき人が来たんだよ。ヘレナには使ってなかった地下室に隠れてもらって、何とかやり過ごしたけど⋯。まぁ見ての通り散々荒らした挙句、舌打ちして帰って行きやがったよ。」
「そうか⋯、そんなことが⋯。」
「あぁ、しかも、確証もないはずなのに、捨て台詞のように「政府に仇なすゴミが」みたいなことを言って帰っていったよ。一瞬本気で殴ってやろうかとも思ったけど、もしそんなことをしてヘレナが危険にさらされたらと思って、やらなかったんだ。」
「あぁそうだな、それが懸命だったとは思う⋯。ともかく、2人とも無事で本当によかった⋯!」
本当に2人とも無事で良かった。
良かったが、これ以降、マキナの家にヘレナを置いておくのはマキナの身が危ないかもしれない。
「とりあえず帰ろうか、ヘレナ。ごめんね、マキナ。かなり迷惑をかけちゃったみたいで。」
「いや、いいんだ。カルナの頼みだったし、ヘレナも私の家に来たかったみたいだからな。」
「無理を言ってごめんなさい⋯。マキナ姉さん、また、明日⋯ね?」
「あぁ、また明日。」
そうしてマキナと別れ、帰路に着く。
マキナが危険にさらされた。
ヘレナは見た目では緑化症と分からないはずなのに、通報を受けたということなのだろうか。
ヘレナの顔を覚えていたやつがあの辺りにいたのなら、おかしい事では無いが⋯。
いや、あまり考えすぎるのは良くない。
とにかく、今日のようなことがもう起こらないよう、ヘレナをマキナの家に預けるのはやめよう。
私の家の方が安全⋯なはずだ。
そう考えを巡らせながら、私はヘレナと共に家へと帰っていった。
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