「フォクストロット」
「ねぇマキナ、苗字変えてみないかい?」
母が死んで、数日たった頃、カルナは突然そう言いだした。
きょとんとした顔で彼女を見つめる私に、カルナは続けてこう言った。
「ほら、君のお母さん、亡くなっただろう?とても残念だとは思うけど、マキナが新らたに未来へ足を踏み出す1歩としても、いいと思うんだよ。」
「そう⋯か、まぁ⋯、カルナがそう言うなら⋯、私も、苗字に執着がある訳じゃないし⋯。」
「じゃあ決まりだね。折角だから、私と同じのにしよう。なに、苗字を変えると言っても、政府に登録されてるのを変えるんじゃない。私達がそう名乗るだけさ。それに、私はそもそも政府に登録が無いからね。」
意気揚々と話す彼女は何処か嬉しそうだった。
私自身、母がいなくなった喪失感を彼女で埋める訳では無いが、それでも同じ苗字に、家族になれるというのは少し嬉しかった。
「それで?どんな苗字にするんだ?」
「そうだな⋯、えっと⋯。うーん。」
彼女はパラパラと本をめくり、何かを探している。
「そうだ、『フォクストロット』。これにしよう!」
「フォクストロット⋯、マキナ・フォクストロット。うん、いいんじゃないか?」
「カルナ・フォクストロット。うん、いい。これで私達は家族だね。」
「あぁ、改めてよろしくな、カルナ。」
「こちらこそよろしく、マキナ。」
「ところで、『フォクストロット』ってのはどういう意味なんだ?」
「うーん、それはまたいつか話してあげるよ。」
「今教えてはくれないのか?」
「ふふっ、まぁ秘密が多い方が魅力的とも言うだろう?心配しなくても、ちゃんと教えてあげるから。」
何かはぐらかされた気もするが、まぁそれもまた彼女らしいと言えば彼女らしい。
そんな事を話しながら、彼女と休憩がてら、少し歩いていると、横道から、見知らぬ少女が飛び出してきた。
その少女は、腕から血を流しており、服はボロボロで、息を切らして、何かから逃げているようだった。
「あっ⋯、あ、あの!助けてください⋯!」
少女は切羽詰まった表情でそう言ったが、血を流しすぎたのか、その場に倒れ込んでしまった。
「やれやれ、面倒な事に巻き込まれてしまったようだね。まぁいい、マキナ、その子を抱えてうちまで来れるかい?」
「あ、あぁ、もちろん。」
「まずはその子の手当てをしよう。話はそれからだ。」
そう言って、私とカルナはその見知らぬ少女を連れて、カルナの家へと帰るのだった。
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