「私」の話
ある少女が、私のことをじっと見ていた。
私より少し年上だろうか。
綺麗で整った身なり、よく梳かれた美しい金髪、そして現状に不服そうなその表情。
それらが相まって、寧ろこの場所に似つかわしい歪んだその容姿は本を読んでいた私の手を止めさせた。
「どうかしました?お姉さん。私の顔に何かついてますか?」
「あぁ、いや、悪い。そういう訳では無いんだ。なんだか、昔の母に似ていて⋯。」
初めて聞いた彼女の声は、その容姿に似つかわしくない少し低く粗野な、それなのにその声からは何処か寂しさを感じ、守ってあげたくなるような、そんな声だった。
「そうでしたか。ところで、お姉さんはここが何処だか知ってます?」
「いや、知らない⋯。というか、確かに何処だ?ここは。初めて見る場所⋯だな。」
少し狼狽えながらそう答える彼女に、私は少し悪戯をしたくなってしまい、彼女のポケットから財布を、いつもやっているように盗んだ。
軽い⋯。きっと親から充分なお金を渡されていないのだろう。
もっとも、親がいるだけで私達よりはマシなのかもしれないが。
「ここは地下街、お姉さんのような綺麗な身なりの人が来る場所じゃないですからね。それに、お姉さん不用心すぎるんですよ。」
「不用心⋯?」
「はい、だって、こんな簡単にお財布スられちゃうじゃないですか。私、こんなに簡単に盗れた人初めてですよ?」
「えっ、財布⋯?」
そう言って慌ててポケットを探る彼女は、私にやはりこの辺りの人では無いのだという確信を持たせた。
「やりやがったな⋯!」
そう言ってこちらを睨む彼女は、まるで尾を踏まれた虎の様で、私は内心少し焦って彼女に財布を返した。財布の中にこの場所の地図を忍ばせて。
「あぁ、返しますよ。中身もそんなに無いみたいですし。あと、ここでは盗られる方が悪いんですよ?そういう場所なんですから、気をつけないと。」
「そういう場所ったって⋯、んなもん好きで来た訳じゃねぇのに⋯。」
「そんなこと言ってると、また盗られちゃいますよ?」
「うぅ⋯、それは困るな⋯。」
そうして項垂れる彼女は、どうしても私の庇護欲を掻き立てる。
「私がここでの生き方、教えてあげましょうか?まぁ、貴方がお家に帰って今のまま安全に生きたいって言うなら話は別ですけど。」
そう伝えると、彼女は少し考えてから、決心したようにこちらを向いた。
「わかった、ここでの生き方、教えてくれ。今のまま生きるなんて嫌だ。」
「そう言うと思ってましたよ。私はカルナです。苗字はありません。」
「私はマキナ。マキナ・ヘネシーだ。よろしく頼む。」
ヘネシー、何処かで聞いたことのある姓だが、今は思い出せない。
「こちらこそよろしくお願いします。容赦はしませんからね?」
こうして、彼女は私の元へと通うようになった。
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