1章『わたし』
その1 『私のはじまり』
まずは、私のはじまりについて話さなければ。
私の名前は、サーシア・グランデベルト。生まれは王都セイントハウンズの郊外。そこにある大きな古屋敷で、母と二人のメイドと一緒に暮らしていた。
父親のことはあまり聞かされていない。だけど、どうやらこの国の王様のようで、そのお陰か、私たちはいわゆる貧しい生活とは無縁の暮らしを送っていた。
その日は六歳の誕生日。
今でも鮮明に思い出せる。あの日、私は全てを失った。
――――――
「うわぁ〜! すっごい!」
この日は、とあるイベントに招待されていた。
会場はまるで遊園地のようで、薄黄色のレンガが敷き詰められた大広場からは様々なアトラクションを見ることができた。
魔法で作られた大きな透明なバルーンや、ドラゴンの形をしたジェットコースター。他にも、植物の形をしたゴンドラが回る観覧車など、今思い返しても、とても楽しそうな場所だった。
ここが何のイベント会場だったかというと、驚くかもしれない。
なんと、世界中の研究者や重役が注目する学会だったのだ。遊園地のような一見ふざけた場所だけれども、一つ一つが新しい時代を予感させる画期的な発明であったらしい。
どうして、幼い頃の私がこんな場所にお呼ばれされたのか。それは、メイドの一人であるジェーン・ナシアルのつてだった。
ジェーンはメイド業に励む傍ら、王立の研究所で助手をやっていた。どうやらその研究所長と恋仲だったようで、その彼に呼ばれて私たちを連れてきたみたいである。
ジェーンはそのことを、私と彼女の双子の妹、ナンシー・ナシアルには秘密にしていた。
まさか、あんな堅物のジェーンに彼氏さんがいたなんて、その時の私は全く気づかなかった。確かに綺麗な女性だったけれども――実は、今でも信じられない。
「こら! お嬢様! 危ないので戻って来てください!」
ジェーンが大きな声で叱る。
彼女はこのとき十八歳。知的な表情と右目の下にある小さな泣きぼくろ。黒髪を頭の上でお団子状に結っており、背の高さもあって、とても大人びた印象だった。
対して、妹のナンシーはとても自由奔放だった。
「私がついてるから大丈夫だって! ねっ、お嬢さまぁ〜!」
「うんっ!」
まさに遊び盛りと言っていいような雰囲気の彼女。カールをかけた長髪を茶色く染め、耳には大きなイヤリングをつけている。
だけど、二人とも本当に優しい人だった。
そして、何より私の大好きな人。
「いいじゃない、ジェーン。こんなところ連れてきてやれなかったし、偶には……ね?」
お母様。
アレクシア・グランデベルト。とても美しい人だった。
170センチはあろう程の高身長に、ボン・キュッ・ボンの超絶スタイル。まるでモデルのようだった。
深々と被った麦わら帽子の下に見えるのは、吸い込まれそうなほどに綺麗なトパーズのような瞳。そして、後ろで流れるのは絹のような黒髪である。
彼女は淑やかに微笑むと、私に向かってヒラヒラと手を振った。薬指に嵌められたバラを模した指輪がキララと光る。
「いってらっしゃーい! 楽しんでくるのよ〜」
「うんー!」
元気よく返事をし、ナンシーのサラサラとした手を握る。母と同じ、真っ白なドレスをはためかせ、遊園地の中を走り回る。とても幸せな時間だったことを覚えている。
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