ドラゴニア〜傭兵王女と始まりの少年〜

チラウラ

プロローグ 『これは喪失の物語』

 ”創造の前に破壊あり”とはよく言ったものだ。


 確かにそうだった。今思うと、生まれてからずっと、何かの鎖で繋がれていたような感覚だった気がする。

 自由に思えたが、どこか不自由で、何も考えないようにしていても、ヘドロのように嫌な記憶がこびりついてくる。


 でも、今は違う。


 春風。始まりにはいい季節だ。心地よい風が頬を撫でる。

 ここは崖の上。足元には背の低い草花が生えており、目下には大海原。

 本当に、いい眺め。晴れやかな気分だ。


 まん丸とした水平線。行きかう船はなく、波も穏やか。コバルトブルーの絨毯が辺り一面に敷かれているみたいだ。

 空にはウミネコが飛んでおり、心地よさそうに声をあげている。


 私は憧れる。この鳥たちに。羽を広げれば、どこまでも飛んでいける。そんな人生をこれから送るんだ。


 背中に担ぐ一本の剣。太陽の光を浴びて黒く光る、だがどこか爽やかで重たさを感じさせないような大きな剣。

 私はもう、この剣を引き抜くこともないだろう。そう、もう振り返らない。


「行こう。レイくん」


 崖を後にする。すべての思いをそこに置いていくんだ。

 これは、私の喪失の物語。そして、本当の愛を知るための大いなる序章だ。

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