第1話 目覚め
「ぐあぁぁぁぁぁーーー!」
早朝一番、ゴリラのような可愛げのない声で起き上がる少年がいた。ちなみにこれでも10歳だ。
俺は寝ぼけ目をこすりながら、横に置かれた時計で時刻を確認する。
「今は……………って、もう八時じゃねえか!」
いつもならとっくに起きてる時間じゃねえか!
たいてい六時には起きているはずなんだがなぁ………今日は相当熟睡だったのかも。
正直もう少し寝たい、という欲望を押し殺して、俺は立ち上がりそのまま冷蔵庫の方へと歩き出した。
冷蔵庫を開けると、ひんやり冷たい冷気が部屋へと入ってきた。
そして俺は、キンキンに冷えた〝あれ〟へと手を伸ばした。
触れた途端に、指先から掌全体まで〝つめたい〟が広がった。
俺は飲み物を口の高さへと運び、そのままグイッと口の中へ流し込む。
「ぐうぅぅぅぅぅーーー!やっぱこれだなー!」
こんな気持ちの良い朝に飲む〝あれ〟といえばやっぱり〝大人のワイン〟 ………ではなく、キンキンに冷えた〝牛乳〟だった。
「はぁぁぁぁーーーーー」
牛乳を飲み干した俺は、このように深くため息をした。
王族の家系であった俺は、今の家にはまだ慣れていなかったからだ。
─────そう、俺は三年前、家を追われた。
三年前のあの日、俺に何があったのかというと───
◇今から三年前◇
その日は今日のように気持ちの良い朝で、俺は熟睡コースに突入していた。
そして今日みたく八時ごろに起きて、ワインと模した牛乳を飲んでいた。
そんな風にいつも静かな朝方は、その日はやけに騒がしかった。
外からは雇用兵達の騒ぐ声、室内からはドタドタと忙しい足音が聞こえてきた。
俺は、「何かあったのか?」と疑問に感じていたがすぐに「まぁいいや」と思うことにした。
俺が「どうでもいいからまた寝よ」と思っていた時、ガチャリとドアの開く音と共に一人のメイドが大急ぎで部屋へと入ってきた。
このメイドの名前は〝シェリア〟。俺の専属メイドで、才色兼備、静寂閑雅な完璧人間。 『立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花』とはまさにこんな人間の事を言うのだろう、と言われそうなほどだ。実際に俺も思っている。
そんな彼女も、今日はやけに焦った様子であった。
俺がそれを尋ねる前に、答えはシェリアから返ってきた。
「簡潔に話します。《クーデター》を起こされ、坊ちゃん達は現在ピンチにあります。詳しい説明は後で話しますので、今は裏口からすぐにお逃げしましょう!」
シェリアは足早にそう言ってくれた。
どうやら他方から襲撃を受けたようだ。
まぁ王族なだけに、こう言うことはよくある。
それも全部、三日後にはおさまってるんだけど。
つまりこれは、王族あるあるってことだな。
「ですから坊ちゃん!我々も早く、ここから避難しましょう!」
「了解ーー」
俺は寝ぼけた目を擦りながら、軽い返事をしてシェリアについていった。
◇王城の裏庭◇
「………なんだよこれ!」
裏庭の避難口に辿り着いた俺が目にしたのは、ありえないような光景だった。
銃声、斬音、悲鳴………戦争なんかで見るような、そんな悲惨な音声が耳に次から次へと入ってきた。
そしてそれは、目でも同じだった。
映ったのは、焼けこげた大地とそのすぐ目の前で敵と戦っている雇用兵の姿だった。
相手はどうやら、《魔術》を使っているようで、《剣士》がほとんどの雇用兵には勝ち目は全くないように見えた。
次から次に倒されていく雇用兵と、それに伴ってこちらへ少しずつ少しずつと近づいてくる敵の軍団。
それを見て俺はやっと、これが今までの《クーデター》なんかとは比べ物にならないような規模のものだと思い知った。
「さぁ、早く!」
避難口の地下通路へ通じる扉、それを開けたシェリアが「早く来い!」と、こちらに手を差し出してきた。
避難口である地下通路に通じる扉。
それは、サーバック家の祖先が作ったとされる魔法の扉で、その効果は『一度開ければ二度と開くことはなくなる』というものだった。
そしてその効果が今日、ようやく発揮されることとなる。
「あ、あぁ………」
俺はどこかぎこちなく返事をし、シェリアの手を掴んだ。
冒険記録-世界を救う30年間- ※なろうにても連載しています 鮭に合うのはやっぱ米 @snakeyphaky
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