閑話 女性は再び、少年に出会う

 ハーロットは今日も意気揚々と短剣を振り回している。

 大剣を使っていたころとは比べ物にならないほど身体強化の魔法をうまく扱えていた。

 四人パーティの中衛を担当していて前衛のバルトと後衛の二人をつなぐ役割に徹している。

 バルトが魔物の注意を引けば横から攻撃を、自分に注意が向けば後衛と直線上にならないように立ち回る。

 大剣を使っていては出来なかった周りを見るということも同時にできるようになっていた。


 しかし、彼女には一つの懸念があった。


 それは、魔力の総量があまり多くないこと。


 身体強化を使うことが増えて魔力切れを頻繁に起こしてしまっていた。

 ただ魔物を撃破するまでの時間はかなり短くなっている。

 魔力切れを起こさないように慎重に立ち回って魔物撃破までの時間が遅れるか、あるいはその逆か。


 パーティリーダーのバルトは悩んでいた。


「今日もみんなお疲れ様」


 バルトに背負われたハーロットはパーティに声をかける。外傷は無いが、今日もまた魔力切れを起こしていた。


「ハーロット。いつものことだがもう少しなんとかならんか。帰りはお前を担ぐせいで最近筋肉がさらについている気がしてな」


 軽口をたたくバルトの後頭部にハーロットはペシッと一撃を加える。

 街の外に出るたびにバルトは彼女を担いで町まで帰る羽目になっていた。

 おかげさまで妻にも不貞の疑いをかけられた。


「まぁまぁ、いいじゃない。こうして帰る時間が早くなっているんだし」


 彼女の言う通り、バルト一行は陽が沈む前に帰路についている。

 彼女が大剣を使っていた時では考えられなかったことだ。むしろ、討伐目標が達成できずに帰ることもままあった。


「魔力が枯れて、今日も酒が美味い!」


 バルトの背中でハーロットははしゃぐ。

 彼女の魔力は回復薬で回復することももちろん出来るが、毎日使っていては金額的にも心許ない。

 基本的には自然に回復するのを待っていた。


「今日も付き合わされるのか……。お前らはどうする?」


 バルトはげんなりとしながらも後ろの二人に尋ねる。二人は顔を見合わせて答えが準備できているかのように考える間もなく答えた。


「僕たちは行かないです」


 バルトはそうだよなとため息を吐いた。

 ハーロットは最近自分の調子も良いからか飲みっぷりもすごい。故に面倒だった。

 背中ではハーロットが上機嫌に歌っている。



 街に着くとすぐに二人とは別れた。なんでも二人で用事があるんだとか。


 酒場に向かう道中ではすれ違う顔馴染み共が背負っているハーロットを見慣れているにも関わらずからかってくる。

 彼女はその度に冗談を吐くが、バルトは否定することもいつしかしなくなった。



 酒場の前に着くとハーロットが背中から飛び降りて店内へと走っていく。勢いよく扉を開けて席に着いて早速注文をしている。


 バルトは強制的に曲げられていた腰を伸ばして店に入る。まだ時間が早いからか客は数える程度しかいなかった。


 お客が増えてきて陽も沈んだころ、ハーロットは既に出来上がっていた。

 魔力が枯れていると酒が美味いとか何とか言って毎日酒を浴びるように飲んでいた。それでも翌日にはすっきりしているので大したもんとバルトはその一点だけは感心していた。


 潰れたハーロットを肴にグラスを傾けるバルトの隣を子供が通り過ぎる。珍しいものだと印象に残った。

 子供はマスターと何か話すと外に出て行ってしまうが、すぐに鞄を持って戻ってきた。そしてまたマスターと話し出す。

 危ない画だなとバルトの興味はマスターと子供に向いた。会話の内容は聞こえないがカウンターの上に何か出ているのを見ると売り込みか何かかとバルトは眺める。


 するとマスターが店内に向かって大声で話し始めた。


「おい! この中に魔力枯れている奴はいるか!?」


 その言葉に隣で潰れていたハーロットが目を覚ます。


「はいはーい! 私は今日も切れてまーす!」


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