第一話 Pizza or Death
黒尽くめの衣服に身を包んだ丸坊主の中年男性が一人。
茶髪で髪の毛を逆立てたモヒカンで化粧の濃い女が一人。
黒髪短髪の際どいボンテージ姿の女が一人。
それぞれが奇抜な見た目をしていて、視界に入れてるだけでも胸焼けがするのだが……
行きつけの酒場の店先で、しがないピザ屋を営んでいる一般人のオレは──
なんでか知らないけれど──
理由もよく分からないけれど──
そんな風変わりな三人の殺し屋に囲まれていた。
「ククク、ピザ・ハンター……ようやく貴様を葬れると思うと、口元が緩んで仕方ないぞ!」
丸坊主の男がそう言って、オレに特殊警棒の様な黒い金属製の物体を向けてニヤリと笑みを浮かべると、舌を出して得物をベロォと舐める。なんて前時代的な所作だろう、と呆れざるを得ない。
「あのなぁ、さっきも言ったけどオレはピザ・ハンターとやらじゃねぇから。大体お前らなんなの? 何が目的なの?」
「ほう、この期に及んでまだシラを切るつもりか」
丸坊主の男がニヤリと笑い、更に特殊警棒を一舐めする。
「じゃあ逆にどうしたらピザ・ハンターじゃないって証明出来ンだよ?」
「そんな方法は……無いんだなぁ!」
丸坊主の男が一拍溜めて大声で叫ぶ。そして、ニヤリと笑い、特殊警棒を舐める。
「あっ、そうなんだ……」
思わず引き下がってしまったが、解決の糸口がまるで無い。というより会話出来てんのかコレ? しかもなんで、さっきから何か言う度に武器を舐めるんだよ、色々意味わかんなすぎて怖えーよコイツ。
「クク、怯えているな?」
特殊警棒を舐めながら丸坊主の男は腰を落として戦闘の姿勢に移った。
おいおい、ついに舐めながら喋り出しちゃったよ……そんな涎まみれの武器に殴られると思ったら怯えるに決まってんだろ。もしかしてそういう戦法なのか? などと眺めていると、丸坊主がニヤリと笑った。
何回笑うんだよ。
「俺は正々堂々と戦うのが好きでね、まずはお互いの自己紹介からいつも始めるのさ」
ベロベロと特殊警棒を舐めつつ丸坊主は言葉を続ける。
「俺の名は『ニードル』、アッカージェイル殺戮街より
「は? え? なんて!?」
早口過ぎる上に初耳の情報が多すぎて全然聞き取れねぇんだけど!?
「折角だ、見せてやるぜぇ……!」
「いや何を!?」
オレが呆気に取られている間に、丸坊主のベロォォォという一際長めの武器舐めが入り、そのまま特殊警棒を握る手元のスイッチを押す────────
「ぐああああぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」
丸坊主がスイッチを入れた瞬間、薄暗い路地一帯に青白い雷光が迸り、じじじじと耳の奥を直接揺らす羽音に似た異音が路地を満たす。発生源は恐らく、あの特殊警棒に仕込まれた機構かなんかだろう。
……無論、その電撃に打たれているのは丸坊主本人だ。涎で濡れまくっていたせいで、自分が感電していた。
あまりに唐突な出来事だった為、呆然と見守っていると、不意に電撃が止まり黒焦げになった丸坊主がフラフラとよろめいて膝をついた。
「や、やるな……ピザ・ハンター……! どうやら俺の負けのようだ……」
ニヤリと笑い、丸坊主はそのまま地面へと倒れ込むのを見届けてオレは残りの二人へと顔を向ける。
「今のはどう見てもオレがやった様に見えないよな?」
「クク、避雷針の二つ名を持つ『ニードル』が瞬殺か。流石はピザ・ハンターと言ったところだな!」
茶髪のモヒカン女がニヤリと笑みを浮かべて、オレの前に立つ。左手にはあまり見ないタイプのナイフを握り、右手にはびっしりとスパイクが備えられた鉄製の籠手を嵌めていた。
「ピザ・ハンター、私はニードルとは一味違うぞ?」
もうコイツらに話は通じねぇのか……?
半ば呆れつつも、モヒカン女の前でオレも一応拳を構えてみる。
こうしてると何やってるんだオレは?
……という悲しみにも似た感情が湧き起こされるが、今は我慢しよう。
「ようやくやる気を出したか、ピザ・ハンター! 私の名は『トゲ』! ニードルと同じくアッカージェイル殺戮街より来たりし暗殺者だ! 我が一族に伝わるスパイク殺法を思い知るがいいっ!」
「もうどれが名前でどれが技なのか全然分かんなかったけど、どうでもいいや」
ぼやいてみたが、モヒカン女に聞いている様子は全く見られない。
仕方なく適当に構え、突っ込んでくるモヒカン女を待ち受ける。そして、お互いの拳が届く間合いになると同時、小さな『かちっ』という音が聞こえ────────
「うわあああぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」
周囲に雷光が拡散し、中心にいるモヒカン女が青白い光に包まれ電撃が炸裂する。その様子はさながら安物の花火の如く瞬間的な眩い光を発したと思うと、消えた。
「ぐはっ──私の一族に伝わるスパイク殺法を鉄の籠手で更に上の段階へと昇華させたスパークスパイク殺法が破られるとは……!」
「スパスパ……なんだって?」
聞き返してみるものの、やはりモヒカン女は答えることはなく、ただニヤリと笑った。
「やはり、伝説は……本物だった、か……!」
オレの質問に答える前に、意味不明な事をほざきながらモヒカン女はばたりと倒れ込んで気を失ったようだった。
ここまで来ると、流石に次の展開も読めてくる。オレは最後に残った一人、黒髪短髪ボンテージ女の方に体を向けた。
「ぬあああぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」
何故か空から雷撃が降り注ぎ、ボンテージ女を稲光に包んでいた。バチバチと発光しながら苦悶の声を上げてボンテージ女はその場に倒れ臥した。
そして、がくがくと震える頭を持ち上げてオレを見上げると、残された力を振り絞って唇を動かして告げた。
「おのれ……ピザ・ハンター……ッ! がくっ」
その言葉を最後にボンテージ女も気を失い、結局一歩も動いていないオレだけが取り残される事となった。
そうして、しばし天を見上げて瞑目する。
どうしてこうなったとか、コイツら頑丈過ぎるだろとか、口で『がくっ』って言うのかよとか、色々な事はとりあえず横に置いといて。
思う事はただ一つ─────
「結局、ピザ・ハンターってなんなんだよ」
どうやら、まだまだ辿り着けそうには無い。そんな予感だけはあった。
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