追放された銀河帝国皇女は、宇宙海賊となって復讐の旗を掲げる

英 慈尊

旗揚げ

 流れ星に人が願いを託すのは、今も昔も変わらない文化である。

 しかし、託す内容に関しては、大きな違いがあった。

 かつての人類が夜空を眺めて祈ったのは、恋愛や成功……その他、様々な希望に満ちた願いだったに違いない。

 今、ガラクタに覆われた大地の上で捧げる祈りといえば、ただ二つだけだ。


 ――この辺りへ落ちて来ませんように。


 ――落ちてくるなら、使い道のあるゴミでありますように。


 ……この、二つである。

 何故ならば、帝国暦〇二三七年の現在、銀河のゴミ捨て場とされた地球に降り注ぐ流れ星は、多くが隕石ではなく、投下されたデブリであり……。

 宇宙での作業や、あるいは戦いに用いられたそれらは、ナノフィルムコーティングが施されているため、大気圏突入時の摩擦熱ごときでは燃え尽きることがないのだ。


「この辺りへ落ちてきませんように……。

 落ちてくるなら、使い道のあるゴミでありますように……」


 ゆえに、その少女もまた、夜空に瞬いた流れ星を見て、そう祈りを捧げていた。

 ボロボロのオーバーオールで身を包んでいるというのもあるが、とにかく地味な少女である。

 腰まで伸びた黒髪は、二つ結びの三つ編みとなっており……。

 分厚いレンズの入ったメガネをかけているため、顔立ちははっきりと分からない。

 ただ、オーバーオールの肩ひもを押し上げるそのバストは、豊満なものであった。


 果たして、少女が願った事柄の内、一つは叶わなかった。

 落下してくるデブリは、徐々に大きさを増しており……。

 その軌道から、付近に落下することが地球居住者としての経験で察せられたのである。

 では、もう一つの願いはといえば……。


「降下カプセル……!

 それも、見たことないタイプだ!

 もしも最新型なら、お金になる!」


 どうやら、こちらは叶ったようだ。

 何故、そのような物が投下されたのかは、分からない。

 しかし、明日をも知れぬ地球暮らしとしては、せっかく落ちてきたお宝を見過ごすことなどできなかった。




--




「まるで棺桶だ……」


 カプセルの効果地点……いや、落下地点というべきか。

 山積していたデブリを粉砕……あるいは、巻き上げて形成されたクレーターの中心に、それは突き刺さっていた。

 丁度、人一人が収まれる大きさのカプセルである。

 特徴的なのは、余分が存在しないことだ。

 姿勢制御用のブースター類すら取り付けらておらず、本当にただただ、大気圏を突破し地球に降り立つためだけの乗り物であることがうかがえた。


「かなりの衝撃だったはずだけど、中の人、生きてるのかな……?」


 そうつぶやきながら、カプセルの様子を確かめる。


「できれば、死んでいる……いや、何も入ってないのが一番かな。

 帝国人が入ってたら、多分ファミリーに引き渡さないとだし」


 独り言をつぶやきながら、ハッチの開閉ボタンを探す。

 しかしながら、そのようなことをする必要はなかった。

 少女が何かするまでもなく……。


 ――プシュッ。


 という空気が漏れ出す音と共に、ハッチが開いたからである。

 そうして内部の様子が明らかになると、どうやら、今度の願いは叶わなかったのだと知ることができた。

 まるで、棺へ詰められた遺体のように……。

 腕を組まされた人間が、カプセルの中に収まっていたからである。


「綺麗……」


 その人物を見て、思わずそうつぶやく。

 内部へ収まっていたのは、自分と同年代の少女であり……。

 そして、見たことがないくらいに美しかったからだ。


 顔立ちは猫科の幼獣を思わせる愛くるしさで、輝くような金髪はウェーブがかって肩まで伸ばされている。

 そして、着ている装束はといえば……これは、絵本の中でしか見たことがないような、真紅のドレスだったのだ。


 思わず、一切の動きを止めて見とれてしまう。

 そうしていると、カプセルへ収められた少女がくわと両目を見開いた。


「ひっ……」


 碧い目で見据えられ、思わずたじろいでしまう。

 それほどまでに、彼女の眼力は強く、見えない圧力のようなものさえ感じさせたのだ。


「二つ聞くわ。

 ここは天国……じゃ、なさそうだから、地球なのかしら?」


「あ、はい……そうです」


「そう……。

 ちゃちなカプセルだから心配してたけど、とにかく無事には降りれたのね。

 まあ、そうでないと刑の執行にならないんでしょうけど」


 一歩、金髪の少女が踏み出す。

 そして、ハイヒールでしっかりと地球の大地を踏みしめると、輝くようなその髪をばさりとはらった。


「質問の二つ目よ。

 あなた、お名前は?」


「み、ミカ……です」


「そう、いい名前ね」


 圧倒されながら答えると、金髪の少女は右手をかざし、ミカにこう告げたのだ。


「私は、オリガ・カーネイン・ロンバルド!

 銀河帝国の第一皇女よ!

 あなたには、私のために食事を用意させてあげる!」


「えっ……?」


 思わず、そう言ってしまう。

 しかし、オリガなる少女の顔はいたって真面目であり、冗談で言っているわけではないことが直感できた。

 そして、その態度には問答無用の迫力があるのだ。


「ええーっ!?」


 ミカの悲鳴が、クレーター内に響き渡った。




--




 皇女を自称する、このオリガという少女……。

 とにかく、よく食べる。

 四方をジャンクパーツで囲まれたドック内には、ナイフとフォークの音が豪快に響き渡っていた。


「どれも美味しいわ!

 あなた、お料理上手なのね!」


「はあ……。

 どうも……」


 ミカが苦労して蓄えてきた食料を、恐るべき勢いで消費しながらの言葉に、曖昧な笑みを浮かべてうなずく。

 何故、こんなことになっているのか……。

 見捨てることのできない自分の優柔不断さと、拘束することもできない腕っぷしの無さを呪う。

 前者があれば、土地勘もない彼女をガラクタの山で撒くなどたやすかっただろうし、後者があれば、さっさとふん縛ってファミリーに突き出すだけだった。


 そんなミカの心中をよそに、オリガは食べる。

 とにかく、食べる。

 まるで、胃袋の代わりにブラックホールでも仕込んでいるかのようだ。


「あの、食べながらでいいんですけど、聞きたいことがあるんです……」


「何かしら?」


 本当に、一切食べる手を止めないオリガに、聞きたくてたまらなかった質問をぶつける。


「本当に、皇女様なんですか……?」


「そうよ。

 太陽のごとき第一皇女オリガといえば、この私のことよ」


「その皇女様が、何でまたあんなカプセルに入れられ地球へ……?」


「……たのよ」


 ぴたりと動きを止めたオリガが、何事かつぶやく。

 そして、肩をわなわなと震わせ、今度はハッキリと告げた。


「――追放されたのよ!

 あんのクソ親族共、絶対に許しちゃおかないわ!」


「追放って、何したんです?」


「何も」


 ミカの言葉に、オリガは遠くを見るような目をする。

 おそらく、かつてあった出来事を思い出しているのだろう。


「遺伝子鑑定で、私が不義の子だということが判明して、母はその場で銃殺。私は地球への流刑よ。

 何よ! ちょっと皇族の血が入ってないだけじゃない!」


 ――じゃあ、皇女ではないのでは?


 喉元までせり上がってきた言葉を、どうにか飲み込む。


「とにかく、私を今まで持ち上げてきた連中が揃って手のひらを返して、あのクソ狭いカプセルに押し込められてドボンよ!

 必ず、復讐してやるわ!」


「はあ……大変ですね……」


「何、他人事みたいに言ってるの?

 あなたも一緒にやるのよ?」


「……はあ?」


 意表をつく言葉に固まっていると、オリガが周囲の空間を見回す。

 ここは、かつての時代に建設された地下ドックであり……。

 内部には、これまで拾い集め、修理してきたジャンク品が整然と並べられていた。


「あれらを見れば、あなたが腕の良いメカニックであることはすぐに分かるわ。

 特に気に入ったのは、あれね」


 オリガが、目をやった先……。

 そこでハンガーに固定されているのは、一機の人型機械であった。

 全長は十二メートル余り。

 曲線で構成されたシルエットは、どこか中世の騎士を彷彿とさせ、機体の各所には空間機動力を高めるためのバーニアが装備されている。

 ネイビーブルーで塗装された全身の装甲は、長年の酷使によって所々が薄汚れているものの、機能に何の問題もないことは、これを整備するミカが誰よりもよく知っていた。


「オリオン……二世代前のナイトギアね。

 なかなか、男前じゃない」


 横一文字のバイザーが備わった頭部を見上げて、オリガがそうつぶやく。

 この機体を褒められるのは、我が子を褒められているようで、少しばかりこそばゆい。


「というわけで、喜びなさい!

 今、この瞬間から、私があの子のパイロットを務めてあげるわ!」


 しかし、そう言われてハッと我に返る。


「い、いやいやいや!

 あたし、一介のジャンク屋ですから!

 そんな帝国への復讐だの何だの、付き合えません!」


「そう、ジャンク屋さんなのね」


 ぶんぶんと腕も首も振りながらの声に、オリガがうんうんとうなずいてみせた。


「差し当たって、明日はどんな仕事をするのかしら?」


「え、明日ですか?

 えっと……とりあえずは、あの子に乗って、オリガさんが乗ってきたカプセルを回収して……」


「それをそのまま売るなり、バラして他の機械に流用したりするの?」


「まあ、そんな感じです」


「了解したわ!

 そして、ご馳走様!」


 パンと手を叩きながら、オリガがそう告げる。

 あれだけあった料理は、いつの間にか食べ尽くされていた。


「千里の道も一歩から!

 まずは、あのクソッタレ共に押し込まれたカプセルを使って稼いで、手勢を確保していきましょう!」


「いや、その……」


「それじゃあ、おやすみ!」


 言うが早いか……。

 オリガはその辺に転がっていたシート類を整え、簡易な寝床を作るとその上に横たわる。

 そして、数秒後には安らかな寝息を立て始めたのだ。


「はあ……」


 そんな自称皇女……皇族の血を引いてないらしいので、本当に自称皇女の姿を見て、ミカは溜め息をついたのだった。




--




 翌日……。

 ミカが後部座席、オリガが前部座席という形で乗り込んだオリオンは、昨夜、降下カプセルが落着したクレーターへと降り立っていた。

 意外であったのは、オリガがナイトギアの扱いについて習熟していたことだろう。


 起動手順に関しては、淀みなく……。

 ナイトギアの特徴である機体各所のバーニアも、難なく使いこなしていたのだ。


「実際に乗るのは初めてだけど、聞いた通りいい機体ね。

 パワーこそ最新機には劣るけど、機動性にも運動性能にも不足はないわ」


 とは、彼女の弁である。

 しかも、空中飛行をやめてクレーターに着地した際は、一切の振動を生じさせなかったのだから、その腕前がうかがえた。


「すごい……あたしが操縦すると、いつも大きな衝撃が起きるのに」


「操縦すれば、あなたがどれだけ手をかけてこの子を育ててきたか分かる。

 そんな子に、いらないダメージを与えるような真似はしないわ」


 前部座席に座ったオリガが、何ということもないようにそう告げる。

 自分でも単純なものだとは思うが、その言葉がミカには嬉しかった。

 手をかけた機械が、大事に扱われる……。

 それこそが、メカニックの本懐なのだ。


 少しだけ、このワガママな自称皇女に親近感と好感を抱いた、その時である。


『おいおいおい、今日はナイトギアでお出かけか!?

 ミカちゃんよおっ!』


 いかにも粗野な声が、上空から響き渡った。


「あら、お知り合い?」


 そう言いながら、オリガがカメラを上空に向ける。

 すると、カメラに映し出されたのは、三機のナイトギアであった。

 しかし、そのシルエットはオリオンと大きく異なる。

 全体的に分厚く、マッシブな外観をしており……。

 全身に備わったバーニアから発されるビームジェットも、オリオンのそれより太く、激しいのだ。

 四角形のカメラを頭部に備えた、この機体は……。


「アルゴ。

 一世代前の……オリオンからすれば、子供か弟に当たる機体ね。

 でも、私はあれ好きじゃないのよね。

 装甲と出力にモノを言わせる設計なんて、エレガントじゃないわ」


 上空の機体に関して、オリガがのん気な感想を述べる。

 一方、後部座席のミカはといえば、これは気が気ではなかった。


「ジ、ジンファミリーの皆さん……!

 な、何かご用でしょうか……?」


 外部スピーカーをオンにして、そう呼びかける。

 すると、上空のアルゴたちはうなずき合うような動作をし……。


 ――ズズンッ!


 という音を響かせ、クレーター内に降り立ったのだ。

 先にオリガが見せた繊細な着地動作と比べれば、いかにも荒々しい操縦だった。


『まあまあ、そう怖がんな。

 ミカちゃんには、いつも世話になってるからよ』


『そうそう、格安でマシンのメンテをしてもらってな!』


『もう少し大きくなったら、あっちのメンテでも世話にならせてもらうぜ!』


『そいつはいいや!』


 三機のアルゴから、品の無い笑い声が響き渡る。


「……何、こいつら?

 下品な男ね」


 顔を真っ赤にするミカへ、振り返ったオリガがそう尋ねた。


「あ、あの人たちはジンファミリーって言って、この辺りをまとめている怖い人たちです……」


「つまり、領主みたいなもの?

 地球の領主は、ずいぶんと品がないのね」


 そんな会話を交わしていると、男たちの笑い声が止む。

 そして、一機がクレーターの中央部……そこに突き刺さっている降下カプセルを指差したのだ。


『実は、昨日の夜、降下カプセルが落ちてきたって目撃があってよ。

 それで様子を見に来たんだ。

 もし、帝国人が地球へ入り込んだなら、ファミリーの名にかけて生かしちゃおけねえからな。

 見たところ、中身は空みたいだが……。

 なあ、ミカちゃん。

 これに入ってたはずの人間について、何か知らねえか?』


「やっぱり……」


 そうつぶやいて、前部座席のオリガを見やる。

 地球居住者にとって、帝国人は全て敵だ。

 彼らがデブリを投棄することによって、母なる星のダメージはどんどん蓄積しているのだ。


 だが、目の前でオリオンを操るこの少女は……。

 ミカは、彼女を売り渡したくないと考えている自分を感じていた。

 傍若無人である。

 ワガママである。

 おまけに大食いだ。

 しかし、彼女には……どこか、憎めないものを感じてしまうのである。


 どうすれば、この状況を切り抜けられるか……。

 そう考えている間に、オリガが動いていた。

 彼女は外部スピーカーをオンにすると、高らかにこう言い放ったのだ。


「あら、それならここにいるわ。

 そう、そのカプセルで地球に降り立った私こそ、銀河帝国第一皇女オリガ・カーネイン・ロンバルドよ!

 あなたたち、ナイトギアを持っているなら丁度いいわ!

 私の配下となる栄誉を与えてあげる!」


「ちょ、オリガさん!」


 制止したが、もう遅い。

 三機のアルゴは、少しばかりあっけに取られた様子であったが……。


『おいおい、ミカちゃんよ……』


『こいつは、まずいんじゃねえか?』


『本当かどうか知らねえが、何で同じ機体に帝国のお姫様が乗ってんだ?』


 オリオンにとって、次世代機に当たる機体からは確かな殺気が立ち昇っており……。

 しかも、三機共が、腰部で折り畳まれていたエンチャントソードを引き抜いたのだ。

 刀身がビームフィールドで包まれたのは、起動した証拠である。

 それに対して、こちらのオリオンは丸腰だ。

 そもそもが、デブリ回収用の重機として運用しているため、武装するなどという考えそのものがなかったのである。


「あら、やるつもり?」


 だが、オリガは落ち着いたものだった。

 どころか、機体を軽く構えさせ、片手でちょいちょいと挑発する仕草までしてみせたのだ。


『野郎、舐めやがって……』


『だが、どうする?

 ミカちゃんまで乗ってるみたいだぜ?』


『そんなもん、腕でも足でも叩き切って、コックピットから引きずり出せばいいだけだ』


 どうやら、話がまとまったらしい……。

 三機のアルゴが、それぞれ手にしたエンチャントソードを構えた。


「オ、オリガさん……!」


「心配いらないわ。

 こいつら、雑魚よ」


 横からオリガの顔を覗き込むと、不敵な笑みを浮かべているのが見える。

 そうこしている内に、アルゴの一機が仕掛けてきた。

 大上段に振りかぶっての――斬撃。

 しかし、それが当たることはなかった。


「踏み込みが甘いわ」


 オリガがわずかにレバーを操作すると、オリオンは切っ先が触れる寸前のところまで下がり、これを回避したのだ。

 しかも、それだけではない。

 地面に深々と刃を突き立て、おじぎをするような格好となった敵機……。

 その手首へ強烈なスタンプを見舞い、完全に破壊せしめたのだ。


「重装甲も、関節部には及んでないわよね」


 涼しげな声で、オリガがそう告げる。

 そして、彼女が再びレバーを操ると、オリオンはそれに応え、千切れたアルゴの手に掴まれたままのソードを拾い上げた。

 そのまま、横薙ぎの斬撃をくれる。


 ――ズズン!


 得物を奪われ、首を切り飛ばされたアルゴは戦闘不能となり、仰向けに倒れた。


「まだ続ける?」


 ソードからアルゴの手を引き剥がしながら、オリガが尋ねる。


『野郎っ!』


『舐めるなっ!』


 すると、生き残ったアルゴたちは、今度は同時に切りかかってきた。

 だが、結果は同じ……。

 オリガに操られたオリオンは、いずれの斬撃も最小限下がるだけで回避し、返しの一撃でそれぞれの手首を切り飛ばす。

 ミカには知る由もないが、これは剣道で言うところの引き小手であった。


 完全に動きを掌握し、最小動作で回避してのカウンター……。

 これは、圧倒的な技量差があってこそ可能な技である。


『う……』


『うう……』


 手首ごと武器を失ったアルゴたちが、恐れおののきながら下がった。


「仕上げね」


 オリガは、そんな彼らが撤退することを許さない。

 バーニアの最大出力では劣っていようとも、機体は圧倒的に軽量なオリオンであり、瞬発的な加速力ではこちらが勝っている。

 オリガはそれを活かし、たちまち接近すると、両機の首を切り飛ばしたのだ。


「さあ、今日からあんたたちは私の配下よ!」


 コックピットハッチを開き、赤いドレスを風にはためかせたオリガがそう宣言する。

 どうにかアルゴから脱出したジンファミリーの男たちは、それに一も二もなくうなずく。


 ――すごい!


 そんな光景を見たミカの胸に、熱いものが込み上げた。


 ――この子が、こんな風に戦えるんだ。


 ――オリガさんさえ、乗ってくれたなら!


 それが、オリガの仲間となることを決断した瞬間だったのである。




--




 圧倒的……そういうしかない、戦いであった。

 敵機はいずれも旧式のアルゴであり、指揮官機に至っては、それより更に一世代前の機体であるオリオンだ。

 通常ならば、この輸送艦隊を護衛する帝国軍のナイトギア隊が負けるはずなどない。


 しかし、結果は……敵の圧勝である。

 一人一人が高い技量を誇る上に、スペースデブリへ伏兵を潜ませることで挟み打ちの形を作った敵たちは、瞬く間に帝国のナイトギアを殲滅したのであった。


 これほどのことが出来る襲撃者とは、何者であるか……。

 その答えは――海賊である。

 襲撃者たちのナイトギアは、いずれも胸部装甲にバラとドクロの合わさったマークが描かれているのだ。


『感謝しなさい!

 あんたたちが運んでいる物資は、この宇宙海賊スカルローズが役立ててあげるわ!』


 指揮官機であるオリオンから、そのような通信が輸送艦隊へ入った。

 そして、これこそは……。

 地球でならず者たちを配下に収め、宇宙海賊を結成するに至ったオリガ皇女による、復讐の始まりだったのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

追放された銀河帝国皇女は、宇宙海賊となって復讐の旗を掲げる 英 慈尊 @normalfreeter01

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ