第107話 帰省

新月学園体育祭が終わり。

その翌日の登校日が終わった翌日。

……は一日爆睡していたので、その次の翌日。

……は、俺の(※たぶん)失われたらしい記憶のことを上条博士や緋色瞳さんや城守さんに聞いて回っていて、何の成果もなかったので、さらにその翌日。



俺は、駅のホームに一人で立っていた。



唐突だが、これから旅行に行こうと思う。

行先は(※たぶん)俺の故郷。

帰省というやつである。(※たぶん)誰も待ってないけど。


なんでいきなり帰省なんかしようと思ったかというと……。



○昨日のAM:上条博士のところに、失われたらしい俺の記憶について相談に行く。

●結果

物理的な異常は全く見受けられないとのこと。

ちなみに、「ま、BMP関係の異常は、ほとんど医療機器じゃ発見できんのだがな。はっはっは」とのことである。

役に立たない世界的権威だ。


○昨日のPM:上条博士の診断結果を踏まえて、緋色瞳さんのところに相談に行く。

●結果

アイズオブクリムゾンの封印は完全に解けており、BMP能力による記憶障害とは思えないとのこと。

でも、上条博士が医学的に異常はないと言っているなら、BMP能力以外による記憶障害の可能性も低いとのこと。

また、自分のアイズオブクリムゾンが引き金になっている可能性は高く、この事態は自分の責任である。

よって、この問題に全力で解決策を探すのはもちろん、どんな償いでもするつもりである。と、何だか俺が悪いことをしている気になるくらい恐縮していたので、逃げるように帰って来た。


○昨日の夜:上条博士の診断結果と緋色瞳さんの見立てを踏まえて、BMP管理局の城守局長に相談に行く。

●結果

「あの二人に分からないのなら、管理局の誰にも分からないでしょう」と、まあある意味予想通りの答えの後で。

「そうだ! どのくらい効果があるかは分かりませんが、悠斗君の実家に行ってみるというのはどうでしょう? ちょうど体育祭後の長期休暇中ですよね。息抜きにもいいかと思いますが」ということで鍵を貸してくれた。


こんな感じだった。

ちなみに、なぜ俺の家の鍵を城守さんが持っているかというと、この10年間、BMP管理局(※というより城守さん)が、俺の家の管理をしてくれていたらしい。

有難いことである。


まあ、そういう訳で、本当に記憶が戻るヒントになるかどうかはともかく、とりあえず一回自分の家を見てみようということだ。



「それはともかく……」

と、辺りを見回してみる。

知り合いらしき影は見えなかった。


実は、昨日のうちに、近しい人達にはメールを送っておいたのだ。

だから、ちょっとだけ(※ほんとにちょっとだけ)見送りに来てくれるかなあ……、なんて考えるくらいは別に罰も当たらないだろう。

「まぁ、みんな忙しい人たちだからなぁ」

軽く、ぼやいてみる。

だいたい、一緒に住んでいる麗華さんにしてからが、玄関までの見送りだったくらいだからなぁ。


「いっそ、もっと早くに予定を立てて皆を誘ってれば……」

見送りなどと言わず、一緒に旅行に行けたかもしれない。

それはなんだか、とても楽しそうなことに思えた。


「ま、いっか」

また、そんな機会もあるだろう。

と、気分の整理をつけたところで。



ちょうど、新幹線がホームに入って来ていた。



☆☆☆☆☆☆☆



「どう、エリカ?」

「は、はイ。気付かれテいないト思いマス。ア、今乗りこみましタ!」

「というか、少しくらい気付く素振りをしてくれないと、逆に心配になりますね」

まるで、スパイ映画よろしく壁に張り付いて、ターゲット(=澄空悠斗)の様子を窺う三人の少女がいた。

言わなくても分かるかもしれないが、一応上から、麗華・エリカ・藍華である。


尾行スキルを云々言う以前に、そのどうしようもなく目立つ容姿からどうしようもなく目立ってしまっている三人だったが、悠斗は一切気がつかずに新幹線に乗り込んでしまった。

BMPハンターとして賢崎藍華に心配されるのも当然である。

……いや、そんなことより。


「ねぇ、達哉。どうして、僕らは隠れているのかな?」

一歩引いた場所から、心底不思議そうな顔で問いかける小野倉太。

「剣達が隠れていたからだろう」

と、剣・賢崎・三村・エリカを見る峰。

「私ハ、『すんごイ美少女二人の後ろニ、見るからにチャライ男がいたゼ。通報スッカ』とイウ声を聞いテ、心配になっテ来たんデスガ」

と、剣・賢崎・三村(※主に三村)を見ながら言うエリカ。

「俺は、『すんげえ美少女二人組がいたぜ! なんかの撮影か?』『いや、あれは二次元から降臨された天使様に違いねえ!』という声を聞いて来たんだが……。というか、通報されそうだったの、俺!?」

と、三村。

「私は、隠れているソードウエポンを発見したので、様子を窺いに来たのですが」

と、剣麗華を見て、賢崎藍華。


という訳で、どうやら剣麗華が原因らしいので、全員の視線が麗華に集中する。


と。


「悠斗君は、無防備すぎる」

「ム、無防備……デスか?」

麗華の唐突なセリフに、エリカが疑問符を浮かべる。

「そう。ついこの間、Aランク幻影獣に名指して襲われたばかりなのに、一人で旅行なんて危なすぎると思う」

「じゃあ、剣が付いて行けば良かったじゃないか?」

という三村の当然の疑問に。


「提案されなかった」


軽くむくれる麗華。

文章だけでは伝わりづらいかもしれないが、異様に可愛い状態である。

エリカが、「はウっ」と胸を押さえる仕草をしたところからも、それは明らかである。


いや、それはともかく。


「で、結局、澄空は一人で行ってしまいそうなんだが。いいのか?」

「大丈夫、チケットはもう買ってある」

峰の問いに、何が大丈夫なのかは分からないが、とりあえず胸を張る麗華。

「尾行するんですか?」

と、賢崎藍華。

「尾行じゃない。タイミングを見計らって、できるだけ自然に声をかける。同時に乗らないだけで、尾行じゃない」

尾行ではないらしい。


「じゃあ、私は行ってくる。悠斗君には、みんなが見送りに来ていたこと伝えておくから」

と、麗華が歩きだそうとした時。

「あら。私も行きますよ」

藍華がチケットを取り出した。

「? なんで、ナックルウエポンが?」

「護衛は多い方がいいかと思いまして。邪魔ですか?」

「そんなことはないけど」

「良かったです。あ、それから……」

麗華に並びかけた藍華が、ふと振り向く。



「チケットがあと4枚ほどあるんですが、皆さんもどうですか?」

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