第106話 もう一つの『KTI』
待っていたKTIメンバーの内訳は、二雲楓・河合渚・前田朱音だった。
「調子はどう?」
出会いがしらに、楓から声をかけられる。
「ん? 特に何も?」
と返してから。
(あ、これは、『昨日激しい体育祭をしたから、今日まで疲れが残ってない?』という意味で聞かれたんだ)とばかりにポンと手を打ち。
「ん。大丈夫。疲れは全く残ってない。二雲先輩たちは、大丈夫?」
この返答は良くできてる、とばかりにドヤ顔で答える麗華。
が。
「……大丈夫じゃ、ないみたい」
反省する麗華。
三人の眼の下のクマに気付いたらしい。
「私はともかく、渚は貴方に、朱音は賢崎さんにこっぴどくやられたからね」
嫌みな色は見せずに、楓が言う。
「いや、それより、体育祭の後のミーティングが堪えたんだけど、リーダー?」
「別にリーダーのせいじゃないでしょ、渚ちゃん」
「?」
渚と朱音のセリフに疑問符を浮かべる麗華。
「何かあったの?」
「あ、ごめん。こっちの話だから気にしないで」
それよりも、と続ける楓。
「実はチーム名を変えようと思ってね」
いきなり、妙なことを言いだすKTI首領。
「チーム名って。KTIを変えるの?」
「あ、いや、KTIはそのままなんだけど……読み方を変えるというか」
「まだ決定じゃないんだけど。会議に諮る前に、剣さんに意見を聞いておこうというか……」
麗華の問いに、歯切れ悪く答える渚と朱音。
「????」
「私達にとっても色々考えさせられる体育祭だったし、まるで狙ったようなタイミングで古い映像記録が出てきてね」
疑問符を浮かべる麗華に、あまり解説になってない補足を入れる楓。
「だから。ちょっといい?」
「?」
楓が麗華の耳元に顔を寄せる。
楓も低くはないが、麗華の方が少し背が高い。
何事か呟き、楓の顔が離れる。
「?」
「……」
「??」
「…………」
「?」
「……何か言ってよ」
無表情のまま、クルンクルンと首を傾げ続ける麗華に、痺れを切らした楓が言う。
「『ソレ』で、これからどうやって対決するの?」
「べ、別にやることは変わらないわよ。ただ、名前を変えるだけ」
「でも。何かを変えようと思うから、名前を変えるんじゃないの?」
「変えるというか……戻す、かな」
イマイチ説明が分かりづらい。
が。
「まあ、やることが変わらないのなら、その名前でいいと思う。『ソレ』で対決とか言われると困ったけど」
麗華は、あまり気にしないようだった。
「そんなの私達だって困るわよ……」
そして、微妙な表情で前田朱音が呟く。
まあ、それはともかく。
「せっかくだから、悠斗君にも会っていくといい。悠斗君、KTIの人達にますます嫌われたんじゃないか、って心配してたから」
「ああ、そうね」
汎用装甲(エンチャント)二雲楓が同意し。
「彼にもちゃんと挨拶をしないとね」
集積筋力(ディレイドマッスル)河合渚が続き。
「でも、悠斗様、勉強で忙しそうだし。また、今度にした方がいいんじゃない?」
俊足(ライトステップ)前田朱音のところで、空気が固まった。
「……」(麗華)
「…………」(楓)
「………………」(渚)
「(汗汗汗汗汗汗)」(朱音)
「……悠斗、『様』?」(麗華)
「「ち、ちちち違う(のよ)、剣(さん)!」」(渚&楓)
渚と楓が、両側から朱音の口を塞ぐ(※ちなみに、その上から朱音自身も自分の手で口を抑えている)。
「KTIは対美少女部隊だからね。男子の追っかけなんか、する子はいないわ!」
「しそうになってる子はいるけどね……」
「余計なこと言わない」
なぜか、渚が楓に怒られる。
と。
「ま、まあ。そういう訳だから。澄空君には、貴方の方から伝えておいてくれるかしら?」
逃げるように後ずさりながら、楓。
「それはいいけど……。『様』って?」
「なんでもない。なんでもない! それじゃあ、またね、剣!」
朱音の口を抑えたまま、引っ張りながら渚。
そのまま。
「ごめん、渚ちゃん!」「あのタイミングで言う!? 普通!」「TPOを考えなさい!」などと言いながら、三人は去って行った。
後には、事態を全く把握できずにポカーンとする、廊下通行中の新月学園生達と。
それ以上に、事態を把握できない剣麗華が居た。
「なぜ、『様』?」
分からない。
悪意を持っているわけでないのは分かるが。
女子高生が、下級生の男子生徒に、しかも昨日までどちらかというと険悪だったはずの相手に、いきなり『様』付けする意味が分からない。
と。
「…………ん?」
ふと視界に入ったものが気になって、そちらを向く。
教室最後尾の窓際から二列目の席。
澄空悠斗が、まだ賢崎藍華に勉強を教わっている。
……教わっているのだが。
「近くない?」
思わず呟く。
距離の関係だろうか。
麗華が教室を出る前より、二人の距離が(※物理的に)近く見える。
あの距離は、断じて、クラスメイトに勉強を教える距離ではない(※ような気もする)。
では、何の距離かというと、それは分からないのだが。
「『悠斗様』ねぇ……」
「大丈夫かな、KTI」
「まぁ、昨日の悠斗様格好良かったしね」
「あんたも言ってるじゃない」
「あんなの見せられちゃなぁ……」
「飯田先輩が五帝の称号を譲るとか言ってるらしいし、新月イケメン勢力図が書き変わるかなぁ……」
通行人の声が耳に届く。
そして、気がつく。
賢崎藍華やKTIだけじゃない。
澄空悠斗に対する学園全体の空気が、昨日までと何か微妙に違う。
というか、あの辺の女子生徒も『様』って言った!
「落ち着こう」
麗華は落ち着いた。
これは通常事態ではないが、異常事態でもない。
きっちり論理的に説明できる。
第5次首都防衛戦参加者以外には、今まで漠然と『凄い』ということしか分からなかった澄空悠斗が、本当に『凄い』ところを実演し、尊敬を集めているだけというだけの話だ。
「剣さんも、うかうかしてられないね」というセリフが聞こえたような気がするのは、気になるような気もするような気もするが。
「……」
『近く』なったナックルウエポン。
『様付け』する俊足(ライトステップ)。
そして、全体的に好感度がアップしている新月学園その他生徒。
「…………」
異常事態ではない。
困った事態でもない。
が。
「私、ひょっとして、何か失敗したかな?」
危機的事態ではあるかもしれない。
◇◆おまけ◇◆
『魔弾(グレイズ)十六夜朱鷺子さんに突撃取材』の映像記録(※だいぶ古い)。
記号説明:十・十六夜朱鷺子。記・記者の人。
記:「では、改めまして。長年のBMPハンター活動お疲れ様でした」
十:「どうも、ありがとう」
記:「しかし、やっぱりもったいない気もします。このあいだの中央区の攻防戦でも、鬼神の如き戦いぶりを見せられたばかりなのに」
十:「そうでもないのよ。ちょっと大失敗をやらかしてね。さすがにもう限界かなって」
記:「そうなんですか……。非常に残念ですが、仕方ないですよね。……では、今後はどのようにされるつもりなんでしょうか?」
十:「後進の育成……かな? 柄じゃないけど、私にはそれくらいしかできることないしね」
記:「後進の育成ですか。母校の新月学園で教鞭をとられるのですか?」
十:「それこそ柄じゃないわよ。(※小声で)マリもまだ小学生だしね……」
記:「? そうなんですか? 十六夜さんが新月学園で設立したKTIという組織は、優秀なBMPハンターを輩出し続けていると聞いています。教師も向いていると思うのですが」
十:「あはは。違う違う。KTIは私が作ったんじゃないわよ」
記:「え、そうなんですか?」
十:「卒業した後、講演会か何かで新月学園に呼ばれてね。その時、『私を見なさい! こんなおデブちゃんでも、BMP能力さえ磨けば、お金ガポガポ、男もがっつり寄ってくるのよ!』みたいなことを言ったらしいのよね」
記:「そ、それはまた……」
十:「素直な子が多いというか何と言うか。逆に私がビックリしたわよ。なんで、創設者になってるのかしら、って」
記:「それだけ影響力が強いということでしょうか。……しかし、こういうことを聞いていいのかどうかは分からないのですが。何と言うか、いわゆる容姿に恵まれた女の子たちを敵視しているという話もあるのですが……」
十:「ああ、それなら大丈夫よ。それは、単なる照れ隠し」
記:「? 照れ隠し……ですか?」
十:「可愛い子なら何でもかんでも大嫌い、って訳じゃないらしいのよね。才色兼備というか、容姿にも恵まれた実力者というか。要は『輝いている』女の子をターゲットにしてるのよ」
記:「というと?」
十:「羨ましいのね、要するに。好きな子につい意地悪したい心理の同性ヴァージョンというか、そんな凄い女の子に対等の相手として見てもらいたいというか」
記:「ああ、なんとなくわかる気もします。BMP能力を使う女の子って、本当に格好いいと感じることありますもんね」
十:「いいと思うのよ、私は。BMP能力者は、数ある職業のなかからBMPハンターを選ぶんじゃなくて、BMPハンターになるかならないかの二択しかないからね。確たる目的意識を持たずにハンターになっちゃう子も多いのよ。そんな子が成長するまで待ってくれるほど、幻影獣も世界も優しくないしね」
記:「…………」
十:「動機もきっかけも何でもいいの。とりあえずは強さよ。本当に大事なものを見つけるまでは、劣等感でも嫉妬でも何でもバネにして、とりあえずは強くならないと」
記:「素晴らしい考え方だと思います。それで『Kawaikunakutemo Tsuyokereba Iinjanai』なんですね」
十:「照れ屋さんが一生懸命頑張ってる、って感じでいいわよね。願わくば、その先があることを教えてくれるような素敵な美少女と彼女たちが出会えるといいんだけど」
記:「その先、ですか?」
十:「そ。実は、KTIの読み方をちょっと変えると、それっぽくなるのよ」
記:「ほう。どういった読み方か、聞かせていただいてもいいですか?」
十:「あはは。いいわよ。ちょっと恥ずかしいけど」
記:「はい」
十:「『Kawaikutemo Tsuyokutemo 【I】ganakerebadamenano!』かな」
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