第104話 vs『KTI』
「…………」
「…………」
KTI首領・二雲楓と豪華絢爛(ロイヤルエッジ)・本郷エリカは、揃ってポカーンとしていた。
あと、KTI四天王の他の二人もポカーンとしていた。
というか、大歓声に包まれた会場でも、3分の1くらいは同様の状態だった。
ブレードウエポンの説明は的確で、会場全体の事実の認識に齟齬はない。
ただ、ブレードウエポンが語った事実が、どれほどとんでもないことかという実感には、大きな齟齬があった。
「……あんな超加速状態で、すれ違い様に4つのBMP能力?」
「冗談でしょ……」
「…………」
KTI四天王マイナス1(※一人休んでる)は、呆然とするしかなかった。
現役女子高生とはいえ、すでにBMPハンター登録されている彼女らは、本格的な訓練に参加することも、大した役ではないが実戦に参加することもある。
だから分かる。
今の一連の連続攻撃が、どれほどのものなのか。
もうあれは、高等技術なんて名前ですませていいレベルのものではない。
「私達……。あんなのを相手にしていたの?」
「……手を抜いてたようには見えなかったのに……」
「馬鹿に……」
と、色々な感情が沸騰しそうになっているところに。
「うん。さすがは、悠斗君」
パーフェクトなスペックの割に、イマイチ空気を読むのが苦手な剣麗華が、賞賛の声をあげた。
「レ、麗華さん……」
エリカが慌てる。
「馬鹿にしないで!」
二雲楓が怒った。
「? 二雲先輩?」
「何が『さすが』よ! あんなとんでもない実力があるのなら、何で最初からやらないのよ! 空気読んだ? 接待プレイ? 馬鹿にしないで! 最後まで『勝てるかも』と思ってた私達は、ほんとに馬鹿みたいじゃない!」
激昂する汎用装甲(エンチャント)。
「悠斗君は、他の競技でも手なんか抜いてなかった」
「じゃあ、さっきの馬鹿げた超連携は何なのよ!?」
「……私にだって分からない。悠斗君は、私にとっても未だに謎だらけ」
あっさり白旗を挙げる麗華。
だが。
「二雲先輩は、本当に悠斗君が手を抜いてたように見えた?」
「…………っ!?」
全てを物語る一言に、二雲楓が息を飲む。
そうなのだ。
どうしてこういう展開になったのかは分からないが。
澄空悠斗が、今日、ただの一度も手を抜かなかったことだけは、誰の目にも明らかだったのだ。
「一生懸命で不器用で。でも、いざという時には凄いだなんて。漫画の主人公じゃない……」
力なく呟くKTI首領。
あまりにも予想外すぎる幕切れ。
悔しいとか憎いとか以前に、もう疲れた。
「ソードウエポンに勝てないからって、そのソードウエポンですら倒したことのないAランク幻影獣を倒した魔人をターゲットにする時点で……。もう、何か、変だったのかー……」
どこか投げ遣りに自省する二雲楓。
と。
「ごめんなさい。色々とお騒がせしたわね」
何やらすっきりした顔になったKTI首領。
「リーダー……」
「いいでしょ? もう」
「うん、私達も同意見」
という会話で、河合渚と前田朱音からも、緊張の糸が切れたように見えた。
そして、KTI四天王(※マイナス1)が、居住まいを正して。
「「「本日は、正々堂々と闘っていただきありがとうございました。KTI最終則を適用し、以後、貴方をターゲットとしないことを誓約します」」」
声を揃えて、宣言する。
「いや、『貴方達』かな?」
二雲先輩が補足する。
「私も、これ以上ないくらい全力で負けたし……」
河合先輩も異論はなく。
「悠斗君と仲良くね」
前田先輩が少しお茶目に言い残して。
KTIは、舞台を降り……。
「ちょっと待って」
降りなかった。
清々しい顔と空気で退場しようとしたKTIを、剣麗華が引き止める。
ここまでの反応の薄さから、まさか引き止められると思っていなかったKTIメンバーは困惑顔を浮かべるが。
「あ、そっか」
二雲楓が何かに気付いたように声を出す。
「賭けがあったわね。確か『飯田謙治が勝てば、剣麗華は負けを認めて、屈辱的なセリフを叫ぶ』だったかしら。確かに、私達が負けて何もしないのは不公平よね」
KTIは、嫉妬深くても騎士道精神は守る。
「どうしようか? この歓声じゃ屈辱的なセリフも聞こえないだろうし、ここでストリップでもやりましょうか?」
仕草で『ただし、私一人で許してちょうだい』と示しながら、服の裾に手をかける仕草をする二雲先輩は、色っぽいけど男前である。
が。
「別に罰ゲームをやって欲しいと言っているわけじゃない」
剣麗華は、珍しくむくれた顔で応じた。
「じゃあ、何?」
「うん。……えーと。できたらでいいんだけど。『以後ターゲットにしない』という誓約を取り消して欲しい」
「?」
KTIメンバーが疑問符を浮かべる。
言っている意味が分からない。
「『ターゲットにしない』をやめろって……。代わりにパシリにでもなれってこと?」
「違う。これからもターゲットにして欲しいという意味」
麗華が訂正するが、やっぱり意味が分からない。
「なんでそうなるのよ? ひょっとして、KTIはこれからも頑張って貴方の引き立て役になれってこと?」
「そんなことは言ってない」
「じゃあ、何なのよ? 分かってないなら言ってあげるけど、私達はもう懲りたの。貴方はレベルが違いすぎる。貴方が私達を相手にするのは時間の無駄でしょう?」
「違う」
「違わないでしょ? その顔で、その才能で、その家柄で、そのBMP能力で……。 一体、私達と絡むどんなメリットが貴方にあるっていうの!? 貴方は貴方に相応しい人間だけを相手にしていればいいじゃない! 私達凡人に構わないで!」
だんだんヒートアップしてくる二雲楓。
と。
「私も、そう思っていた」
「え?」
静かな麗華の声に、楓の熱が一瞬冷める。
「誰も私の相手はできないから、私も相手にしなくていい、って。私は、私と同じくらいの『レべル』の人だけを相手にしてればいい、と」
「…………」
「だから、城守さんに悠斗君のことを聞いた時は、きっと嬉しかった。私より強い相手なら、私が相手にすることができる、と。興奮したと言ってもいい。おかげで、あのホテルの人達には凄く迷惑をかけた」
4か月ほど前。
澄空悠斗と初めて会った時の思い出を話す。
もちろん、あの時の高級ホテル関係者と当時の宿泊者には、十分な謝罪と補償をしている。法的責任があった訳ではないが。
「なら、めでたしめでたし、じゃない。私達と何の関係があるの? ノロケ?」
剣麗華に中傷する意図がないのは分かるのだが、どうしても口調がきつくなる二雲。
「ノロケじゃない。それに、めでたしめでたし、でもない」
「なぜ? 超レベルの者同士、分かり合える人ができて良かったじゃない?」
「良くない。悠斗君は訳が分からない」
「?」
ふと、二雲楓の表情が素の疑問顔になる。
麗華の表情と物言いが、小さい女の子のソレに感じられたからだ。
「私の対人経験が少ないのは確か。一般常識に欠けるところがあるのも認める。でも、それにしたって悠斗君は複雑過ぎる。特に昨日の夜は酷かった……。ただでさえ悪い意味で普通でない私なのに。どんなに考えても悠斗君を理解するのはいつも大仕事。関係ないけど、悠斗君が私を理解するのに私と同じ労力を払っていないように見えるのも、少し不満ではある」
「ぷ」
二雲楓が軽く吹いた。
最後のただの愚痴やん。
「何がそんなに複雑なのよ?」
河合渚が、少し楽しそうに口を挟む。
「色々あるけど。今、一番気になっているのは、悠斗君は友達が多いこと」
「友達?」
前田朱音も興味を持った。
「うん。二雲先輩や私の説が正しいとすると、悠斗君に友達が居るのはおかしい。三村達ぐらいならまだ分かる。……いや、分からない。三村達とも、私は、悠斗君が転校してくるまで友達になれなかった」
「レ、麗華さん……」
エリカが呟く。
「でもまぁ、三村達は比較的分かる。でも、悠斗君はそれだけに留まらない。BMP能力者でないクラスの皆とも、友達と言っていい関係を構築している。それだけじゃない。商店街の個人商店の人達とも良好な関係を構築している。例を挙げると、『ユウちゃん、今日もチャーハンに挑戦かい? そろそろ成功させないとレイちゃんも怒るぞ?』『いや、麗華さん美人だけど優しいから大丈夫ですよ。いざとなったら、レーヴァテインもあるし』という感じで、明らかに事務的でない会話を楽しんでいる。非BMP能力者で平均的な男子高校生並みの社交スキルだと思う。これはおかしい」
「ぷっ」
大真面目な麗華の主張に、KTIが3人揃って吹いた。
その顔には、嘲りや敵意は見えない。
「いつも聞いてばかりじゃ、能がない。今回は、私は自分で考えた。悠斗君に友達ができる理由について」
「どんな理由?」
「うん」
と、楓の質問に相槌一つ打って。
「本気で相手をすること」
と、麗華が言う。
「レベルが違っても?」
「これは私の想像だけど、たぶん悠斗君はレベルとか考えてないと思う。『時間の無駄とは思わない?』とか聞いたら、逆にびっくりすると思う」
「……かもね」
「本気で相手をするから、本気で相手をしてくれる。本気で応えるつもりがない人には、きっと誰も本気の想いを向けたりしない」
それは誰もがすぐに気がつく、人付き合いの基本。
しかし完全なる実践の難しい、人付き合いの極意。
「どうかな? 悠斗君に確認してないから、いまいち自信がない理論なんだけど」
本当に自信がなさそうに聞いてくる麗華。
対して、二雲楓は。
「いえ、凡人の私から見ても、完璧な理論に思えるわ」
もう敵意は見せなかった。
基本無表情な麗華の顔に、わずかな笑みが浮かぶ。
「ならば、やはり、さっきの宣言は取り消して欲しい。これからも、今日みたいに、私に『本気』を向けて欲しい。私も本気で闘う」
普段にない熱を込めて語る剣麗華。
「それで」
と、一拍溜めて。
「時間がある時でいいから、友達になって欲しい」
「…………」
KTIは黙ってしまった。
後味が悪い結末だけでなく、いい雰囲気で終わる結末も想像していたのだが。
さすがに、麗華がここまで言ってくるとは思っていなかった。
なんせ、剣麗華だ。
美人というカテゴリーを見直したくなるくらいの美人で、学術誌に論文を載せるような才媛で、剣首相の孫娘で、最高ランクのBMPハンターで。
KTIの『最終則適用』の美少女だ。
その彼女が、こんなセリフを言うなど思ってもみなかった。
「あなたほどの人にそこまで言わせるほど……。澄空悠斗は凄い男なの?」
「? 参考にはしたけど、これは私が自分で考えた理論。悠斗君は関係ないと思う」
二雲楓の問いの真意には気づかず、麗華は答える。
というか、そもそも質問する意味がなかった。
凄い男でない訳がないのだ。
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