第100話 騎馬戦の勇者3
『おーとっ! 澄空騎馬の様子が、何やら違うー! 五帝・汎用装甲(エンチャント)二雲楓が生み出した超高校級の盾に立ち向かう術が見つかったのかー!? ちなみに、いくら参加選手が持ち込んだとはいえ、非参加選手の作りだしたBMP能力の使用はルール違反っぽいですが、明確な禁止規定がないため、新月学園体育祭実行委員会権限により今回はOKとします! 次までにはルール改正しますね!』
…………そんなんありか?
などと、ある意味男らしい実行委員会の姿勢にツッコんでいる場合ではない。
「幻想剣(イリュージョンソード)は使わないのか……?」
「油断するな、大岡。あいつの具現化は一瞬だ。使わないように見せるポーズかもしれない」
「いや、幻想剣(イリュージョンソード)にこだわるのがそもそも危険だ。あいつの複写は無限。KTI情報収集班が補足できていないBMP能力があるのかもしれない」
「魔人め……」
俺が幻想剣(イリュージョンソード)を召喚しないことに疑問符を浮かべる大岡氏に、それまで無口だったマウントブロッカーズ(※騎馬してる人達らしいよ)の面々が口々に忠告をする。
忠告はいいが、本人が了解していない二つ名を勝手に広めるのは止めて欲しい。
と。
「どっちでもいい! 俺のやることはただ一つ! 二雲先輩から託された、この汎用装甲(エンチャント)で、奴を倒すだけだ!」
大岡が吠え。
「「「良く言った、大岡!」」」
虹色の盾を構えた大岡騎馬が突進してくる。
確かにその通り。やることは変わらない。
「三村」
「了解!」
俺の合図に合わせて、澄空騎馬も動き始める。
お互いの距離はそれほど離れていない。
その距離はすぐに縮まり。
接触寸前。
「汎用装甲突撃(エンチャントチャージ)!」
という大岡騎馬の必殺攻撃に合わせて。
「超加速(システムアクセル)・連携機動(チームプレイ)!」
俺達、澄空騎馬が跳躍した!
風でできた大きな手に引っ張られるような感触。
三村の超加速(システムアクセル)が生み出す力場に引っ張られるままに、俺達は大岡騎馬の真上に移動する。
汎用装甲(エンチャント)は、大岡騎馬の『前面』を覆い隠す盾。
『上』は無防備なのだ。
「す…………」
「「「澄空悠斗ー!!!」」」
完全に意表を突かれた大岡騎馬の怒声。
だが俺達は容赦しない(※というより、自由落下なので、どうしようもない)。
なすすべのない大岡騎馬の上から。
俺達4人は自然落下して、押しつぶした。
☆☆☆☆☆☆☆
「び、ビックリデス……」
1-C応援席で観戦しながら、澄空騎馬vs大岡騎馬の結果にビックリするエリカ。
「うん。幻想剣(イリュージョンソード)なら、確実に勝てるのに。悠斗君は、合理的なのかそうでないのか、私には時々分からなくなる」
エリカのビックリとはちょっと違うビックリをする剣麗華。
「そうジャなくテ、三村さんが複数者同時機動ヲ成功させたコトに驚いているんデスよ」
「? ああ。確かにお互いが突進する状況で、正確に相手騎馬の上に落ちるのは難しいと思う。うまくいったのは偶然とも言える。だから、あえて不確実な方法を取った悠斗君が分からないと言ったの。あの方が観客受けはいいかも知れないけど」
「そういうことデモないんデスよ」
イマイチ噛みあわない麗華に、エリカは言う。
「三村さんは元々自分だけヲ加速するBMP能力の持ち主デスから、複数人を同時に引っ張るのハ、難しいと思うんデス。思いついたのガ今日の午前中なのデ、ほとんどぶっつけ本番デスし」
「ちょっと頭を切り替えればできると思う」
「……その『ちょっと』ガ、麗華さん以外にハ、凄く大変なんデスよ」
「そっか。これも、三村には『難しいこと』なんだ」
天才に凡人の苦労を説くのは、なかなかに自虐的な作業だ。
エリカは少しだけ、澄空悠斗の気持ちが分かった気がした。
☆☆☆☆☆☆☆
『なんとなんとなんとなんとー! 完全に空気かと思われた三村宗一の新技が炸裂ー! 単体機動と複数者同時機動を合わせて使うBMP能力者は意外と珍しい! 普段はチャラ男系でも、さすがは、ウエポンの名を冠するだけのことはあります! まさに! 【魔人の下側】ー!』
副会長が大変に盛り上がっていらっしゃる。
『魔人』はともかく、『下側』って単純に今の物理的な位置関係じゃないか。
あの、なんでも称号に結び付けるメチャクチャなネーミングセンスはディレイドマッスルズと被るな。
「……まさか、副会長もKTI関係者だったりして……」
などと暢気な想像をしていられるのには、もちろん理由がある。
さきほどの押しつぶし攻撃で、見事大岡を落馬させられたのだ。
多分に幸運の要素が強かったが、とりあえず勝ちは勝ち。
「こ、今回は、完敗だ……。だが、これで終わりじゃないぞ!」
と大声を出しながら、大岡忍とマウントブロッカーズの皆さんは退場して行った。
……もう少し格好いい捨て台詞を言っても許される状況とキャラクターの方々だと思うのだが、なんせ押し潰された直後だからな。仕方ない。
と。
「どうだ、澄空! 俺の新技・連携機動(チームプレイ)は!」
脇役適正を放棄した三村が嬉しそうである。
これで応援担当は俺一人になってしまったが、ここは素直に俺も喜ぼう。
「ああ。いつの間にこんな技を身に付けたんだ?」
「思い付いたのは、午前中の二人三脚の時だ。……まぁ、光速のライバルのおかげも、少しはあるが……」
セリフの後半で微妙にトーンダウンする三村。
光速のライバルとやらに、思うところがあるらしい。
まあ、何はともあれ。
「これで飯田先輩の騎馬とも互角以上に闘えるかもしれないな!」
と思う。
防御担当の小野。
攻撃担当の峰。
移動担当の三村。
応援担当の俺。
澄空騎馬は、それぞれの持ち味を生かした見事な騎馬となったのだ!
が。
「いや、ちょっと待ってくれ」
峰が口を挟んできた。
「どうした?」
「悪いんだが、今の技、少し問題があるぞ」
「問題?」
俺は首を傾げる。
「んー、なんというかね。使えないんだよ。あの技の最中は。僕らのBMP能力が」
小野が続ける。
使えない?
峰と小野のBMP能力が?
「澄空は影響範囲外だったから気付かなかったんだろうが、さっきの技は、三村の力場で複数人を同時に超加速状態にするというものだ」
「力場の影響を受けている間は、とてもBMP能力なんか使えないよ」
「あ」
峰と小野の言葉を聞いて三村が呟く。
そのまま、BMP能力についてのなんらかの議論を早口で行う、俺を除く三人。
どうも、何を言っているか良く分からなかったが、とりあえず要点だけまとめてみよう。
【説明:どうして、峰と小野はBMP能力が使えないのか】
1:単純に上に乗って動かされるだけの俺と違って、峰と小野は三村の力場の影響をもろに受けている。
2:これは、擬似的な超加速(システムアクセル)状態とでも言うべきものである。
3:よって、峰と小野がBMP能力を使うのは、三村が超加速(システムアクセル)を使いながら他のBMP能力を使うくらい難しい。
4:これを『ナンタラカンタラ(※ごめん、聞き取れなかったんだ)』理論という。
5:BMP能力の複数同時起動は、超高等技術なのである。
6:だから無理
という感じだ。
……良く分からん(※特に3あたりが)が、できないという以上できないんだろう。
「いや、待てよ? 峰と小野は無理としても、澄空はBMP能力使えるんじゃないか?」
三村が聞いてくる。
確かに、俺は超加速状態とやらにはなってなかったらしいが……。
「あんな超高速状態でBMP能力なんか使っても、俺の実力じゃ、的に当たらないと思うぞ……」
情けないが、こう言うしかあるまい。
俺のBMP能力は元々劣化状態な上に、使い手が優秀であるとも言い難い。
元々の素質もそうだが、色々なBMP能力を使えてしまう分、熟練度が上がるのが遅いのだ。
オリジナルを使う峰か小野なら大丈夫なんだろうが。
……。
…………。
……………………?
待てよ?
ということは?
「峰か小野が上に乗ってれば、良かったんじゃないか?」
と俺が言った時。
澄空騎馬の空気(※特に三村)が固まったような気がした。
「……」
「…………三村」
「……宗一君」
「あぅ」
少し状況がややこしい。
整理してみよう。
【説明:どうして俺が上になっているのか】
1:騎馬戦前、とても慌ただしかったから、賢崎さんが強引に決めた。
2:『1騎残ればいいんだから、わざわざ戦力を分散させる必要はない』というのが、俺達4人が1騎馬になった理由だ。
3:『どうせだから、注目されている澄空さんを上に置いた方が、観客アピール的に見栄えがする』というのが、俺が上になった理由だ。
4:つまり、騎馬の組み方自体には、戦術的意味はない。
5:ではこの時、三村が『俺の新技を使う場合に備えて、峰か小野が上の方がいい』と言っていたとしたら、どうだろう?
6:きっとその通りになったに違いない。
7:結論・三村が超悪い。
「やっちまったか……」
俺は嘆息する。
ルール上、競技途中で、騎馬と騎手の交代はできない。
俺は嘆息する。
「二回も嘆息すんな!」
三村が吠えた。
「全く、分かってないな、おまえら! 俺達1-Cチート部隊は、俺を除き、1年とはいえ、新月学園のなかでもトップレベルの実力者ぞろいだろ!? それが、戦術面のメリットだけでリーダーの澄空を下にしてみろ。いい笑い物だぞ!」
続けて三村。
別に俺がリーダーでもないし、戦術面のメリットを重視した所で笑われるような要素は一切ないと思うのだが……。
まあ、これ以上、三村をいじめても仕方がない。
と。
『おーっと! ついに、24組目の脱落者が出たー!』
副会長の声が響く。
視線をやると、そこには崩れ落ちた騎馬。
そのさらに先には……。
「ようやく、前座が片付いたか」
二丁拳銃を構えた先輩が呟く。
対人タイマンなら、五帝最強の天竜院先輩より強いかもと言われている男子生徒。
五帝。銃剣士(シェイプシフト)・飯田謙治先輩と、銀色に輝くものを胸に飾る騎馬が、仇敵を睨みつけるかのような視線で、俺達を睨んできていた。
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