第99話 騎馬戦の勇者2

パパパパン、という感じの小気味いい音が響いたと思うと、26組のうちの1騎が崩れ落ちる。


『おーと、バトルロイヤルの鉄則を無視して、いきなり大物食いを狙ったチャレンジャー達ですが! 銃剣士(シェイプシフト)飯田謙治に辿り着く遥か手前で、銃撃に沈んだー!』


いきなりの大音量でのアナウンス。

今までの種目でアナウンスなんかなかったやん、と言われるかもしれないが、別に今まで描写をサボっていた訳ではない。

本当に今までアナウンスなどしていなかったのだ。


『銃撃でありまーす! 比喩でもなんでもありません! 本当に銃撃なのであります! ダメージ無効化結界がなければ、えらいことです!』


NORINORIでアナウンスしているのは、たぶん生徒会副会長の櫃元彩夏さん。

副会長について、どっちかというと賢崎さん的なクール美女タイプだと思っていた俺は、軽くショックである。


いや、それはともかく。


「あれ……銃刀法違反じゃないよな?」

と、騎馬をしている三村に、一応確認してみる。

「本物にしか見えないけどな。正真正銘、飯田先輩の銃剣士(シェイプシフト)で具現化された銃だ」

三村が答えて来た。


俺達の視線の先には、飯田先輩が持っているシンプルな装飾の二丁拳銃。


「威力は、本物の銃と同じなのか?」

「ああ。しかもBMP能力だからな。幻影獣にも攻撃できる。まあ、幻影獣相手には攻撃力不足と言われることもあるけど」

「人間相手なら、必要十分以上だな」

俺たちは戦慄する。



BMP能力者は、実は人間(※及びその武器)に弱い。

あのBMP能力に対抗するには、防御系BMP能力のスペシャリストか、規格外ゼネラリスト(※麗華さんと賢崎さんのことね)でないと厳しいだろう。


あとは……。


「俺の砲撃城砦(ガンキャッスル)だな。撃ち合うには、少し分が悪いが」

と峰。

「近距離でなければ、僕の引斥自在(ストレンジャー)で止められると思うよ。……たぶん」

と小野。


方針的には、それしかないっぽい。

俺と三村が空気になってしまうのは問題だが……。


「大丈夫だ、澄空」

「ん?」

騎馬三村に言われて振り返る。


「俺たちは、実況を頑張ろうぜ!」

とてもいい笑顔で言う三村。

「…………ああ!」

脇役適正の高い俺たちは、瞬時に決断した。



と。



「うわわぁあああ!」


という悲鳴を上げて、俺達の眼前を4人の男たちがすっ飛んで行った。

そのまま、校舎にめり込まんばかりの勢いで突き刺さる。


「な!」

驚いて、飛んできた方を見ると。


「ツレないな、澄空悠斗チーム」

威圧感と砂塵を従えて歩み寄ってくる、一騎の騎馬。

「俺達の相手も、してくれよ」

どういう理由か知らないが、騎手役の生徒は右手を背後に回した独特の姿勢を保っている。

まるで、抜刀姿勢のようだ。


ポーズも気になるが、それよりなにより。



騎手と、その騎馬の男子生徒3人の胸で輝く、銀色のKバッジは一体何だ?



「KTI親衛騎団・大岡忍。決闘を申し込む」

「…………」

……いや、ちょっと待て。

確かに、どう見てもKバッジの亜種にしか見えないのは確かだが……。


KTI親衛騎団って、なんですか?


と、俺がいぶかしんでいると。

「しつこいぞ、親衛騎団! 棒倒しであれだけ目立ったんだから、もういいだろ!」

「いや、三村。これはチャンスだ。棒倒しでは、残念ながら闘えなかったからな。お前との闘いも意外に燃えたから是非もう一度やりたいが、KTI親衛騎団とも闘ってみたい」

「御免だ! アホ! 本気で殺されるかと思ったんだぞ、この冗談の通じない石頭が!」

三村と峰が騒ぎ始める。

一体、棒倒しで何があった?


「ダメージ無効化結界があるとはいえ、相当の痛みだったはずなのに、まだ心が折れてないとはね……。どうやら、もう少し楽しませてもらえそうだね、人間?」

そして、小野がなぜか若干悪役っぽい。

ほんとに、棒倒しで何があった?

一応、自騎以外は全て敵とはいえ、白組同士で闘うのはやっぱり変な感じだぞ(※俺達以外に、同組で闘っている騎馬はない。というか、なんでわざわざ同組戦闘可にしたのか分からない)



『おーとっ! さきほどの棒倒しで、新月100年の歴史を破り初めてその姿を現したKTI親衛騎団! さきほどの借りを返すため、そしてKTIへの忠誠を示すため! 今、最強の魔人・澄空悠斗に闘いを挑みまーす!』

ノリノリの副会長。

十六夜朱鷺子さん(※存命中)が創設したと言われるKTIが学園創立当初から存在していた訳はないのだが、アナウンス相手では誰もツッコめない。

ただ、『魔人』だけは何とかならないものか?



と。



「砲撃城砦(ガンキャッスル)!」

いきなり峰が砲撃した!

もちろんルール違反ではないが、普通の人は、ショットガン級の攻撃を、なかなかいきなり問答無用では撃てない。

戦闘時峰は怖い(※麗華さんと賢崎さんの次くらいに!)。


が、対応するように大岡が背中から何かを抜いた!


「…………え?」

「何……?」

俺と峰の声が重なる。

金属が弾け合うような甲高い音が連続で響いた後には。

全くダメージのない大岡号が居た。


その前には、虹色に輝く障壁。

あれは……。


「汎用装甲(エンチャント)……!」

「「「そんな馬鹿な!」」」

最初のセリフが小野で、次のセリフが残りのメンバーである。

鍵かっこの数で分かると思うが、俺も一緒に叫んでいる(いい加減、状況についていけないのが寂しくなってきたのだ)。


いや、そんなことより!


「なんで二雲先輩もいないのに、汎用装甲(エンチャント)が……!」

と三村が言うとおり。

あの障壁は、たぶん五帝・二雲先輩の汎用装甲(エンチャント)。

二雲先輩は、普通に観戦してるし、あのBMP能力、遠隔操作できるほど便利だとは聞いてないぞ?



「持ち運んできた」



大岡が答える。

…………って、何それ?


「だから、競技開始前に二雲先輩に出してもらって、それをずっと持ち歩いている」

大岡が言う。

いやまあ、現実にそこにある以上そうなんだろうけど、そんなことできるの?



「愛の力だ」

言いきりましたよ、この人。



「KTIも親衛騎団も敵性美少女もどうてもいい。俺にとっては、美少女は二雲先輩だけだ。彼女のためなら、俺にだって奇跡くらい起こせる」

なんか格好いいぞ、この人。

「棒倒しの借りは返す!」

そして、棒倒しで何があった?


「汎用装甲(エンチャント)は愛がなければ動かせない」

普通は愛があっても無理だ!


「汎用装甲突撃(エンチャントチャージ)!」

虹色の盾を構えたまま突撃してくる、大岡騎馬。

見た目は幻想的だが、あれは超高校級のBMP能力で生み出されたトンデモ盾。

生半可な攻撃では、話にならない。

このままだと物理的に潰される!


と。


「引斥自在(ストレンジャー)!」

小野の声が響く。

そうだ、この手があった。

小野の引斥自在(ストレンジャー)なら、虹色盾の防御力は関係ない。


このまま、弾き飛ばして落馬させてしまえば……!


が。


「ま、まだまだぁ!」

大岡が吠える。


なんでだ?

1メートルくらいは後退させたけど、それ以上動かない。


「キャンセルされたか……?」

峰が言う。……キャンセル?

「なるほど。あの騎馬の連中、今まで気付かなかったけど、マウントブロッカーズの奴らだな」

三村が言う。……また知らん単語が出てきた。


「新月学園内で結成されたBMPチームだ。基本的にパワー系なんだが、攻撃キャンセル特性が強い。3人揃うと、小野の引斥自在(ストレンジャー)すら無効化するとは驚きだけどな」

弱ナンパ風味男のくせに、物知りの三村が言う。

「KTI親衛騎団にはそんなメンバーまでいるのか……」

そして、『KTI親衛騎団』に関する詳細な説明を諦めて、何とかこのまま話を進めようとする展開重視の俺。


いや、そんなことより。

峰の砲撃城砦(ガンキャッスル)も、小野の引斥自在(ストレンジャー)も通じない?

え? これって、詰んだ?


「何を言ってるんだ、澄空?」

大岡が言う。

「おまえはまだ何もしてないじゃないか?」

いや、ほんとに何もしてないけどね。


と、しみじみ振り返る俺に。



「幻想剣(イリュージョンソード)を使えよ」



「お、おいおい……」

死ぬ気か?

いくらなんでも……。


「俺は、二雲先輩を信じている」

「え?」

「言ったろ? 汎用装甲(エンチャント)は愛がなければ動かせない」

「…………」

ノリや冗談で言っているのではないのは分かる。

しかし、いくらダメージ無効化結界があっても、幻想剣(イリュージョンソード)クラスになると、やはり危険なのだ。

重要な行事とはいえ、体育祭でそこまで……。


…………いや。

『たかが体育祭』じゃないのかもな。


「どうした! 臆したのか、澄空!」

「…………」

…………。

……やるか。



「劣化複写(イレギュラーコピー)。幻想剣(イリュージョンソード)。……だ」

「ちょっと待て、澄空」

「ん……。ん?」

幻想剣発動ポーズのまま、三村に呼ばれて固まる俺。


「わざわざ相手の誘いに乗ることはない」

と言われても。

「しかし、実際、もう詰んでるぞ? 幻想剣(イリュージョンソード)くらいしか……」


「俺に考えがあるんだ」

との三村の提案に、大岡騎馬から距離を取りながら密談する俺達。


と。


「そういうBMP能力があるのは確かだが、元々単体機動の君にできるのか?」

峰が疑問を口にする。

「上位BMP能力という訳じゃないけど、君がやるのは少し難しいと思うよ。頭の切り替えが必要になる」

小野も少し懐疑的である。

「二人三脚を見て思いついた付け焼刃だけどな。エリカと二人の練習ではとりあえずうまくいった。4人となると話は別だろうけど……」

三村自身も絶対の自信がある訳ではないらしい。


「どうする澄空? これが駄目なら、俺も幻想剣(イリュージョンソード)しかないと思う。ただ、KTI親衛騎団との闘いにケリを付けるには、これしかないと思う」

三村が決断を求めてくる。

『KTI親衛騎団』との闘いがいつ始まったのかは知らない俺だが、どうやらここは決断しなければならないらしい。


「俺の主観を言わせてもらえば、大岡が幻想剣(イリュージョンソード)に耐えられる可能性は高くない」

「僕も同意見だよ。ただ、宗一君の言う通り、彼らを完全に下すには、幻想剣(イリュージョンソード)じゃ微妙だね」

合理的な峰と、少し空気を読んでいる小野の意見。


誰の意見も間違っているとは思わないけど……。



…………。



「三村の案で行こう」

俺は決めた。


「澄空……」

「いいんだね、それで?」

「今、一瞬、抱かれてもいいと思ったぜ!」

言わなくても分かると思うが、上から、峰・小野・三村のセリフである。

もちろん抱きはしないが。

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