第98話 騎馬戦の勇者

◇◆

最終種目:騎馬戦

主な騎馬(白組):澄空号(騎手:澄空悠斗、フロント:三村宗一、ライトウイング:峰達哉、レフトウイング:小野倉太)、大岡号(騎手:大岡忍、騎馬:KTI親衛騎団・マウントブロッカーズの皆さん)

主な騎馬(紅組):飯田号(騎手:飯田謙治、騎馬:KTI親衛騎団・ゲイルランナーズの皆さん)

条件:男子限定

新月学園体育祭用特殊ルール:BMP能力使用全解禁。直接攻撃可。騎手の身体が地面に付いたら負け。紅組白組は関係なし、自騎以外はすべて敵。最後の一騎になった時点で競技終了。

◇◆


どうも事情が良く分からない。


騎馬戦開始直前までグースカ寝て、ミーシャ先生に起こしてもらい次第運動場に駆け付けて。

『さぁ、いよいよ最終種目だ!』とばかりに意気込んでいた俺を待っていたのは。



正座して、クラスメイトの非難を全身に浴びている三村と小野の姿だった。



一体、何が?

と。

「澄空」

峰が話しかけてきた。


「なんだ?」

「俺は間違っていたのか?」

「…………」

なんのこってすか?


真面目な顔をしている(※真面目でない顔などあまり見たことないが)ので、冗談を言っている訳ではないのだろうが、全く意味が分からない。


「確かにこれは体育祭で、三村と小野はルール違反をした。しかし、これが実戦だったら、俺は後悔しないでいられただろうか?」

説明をプリーズ。

相談するのなら、せめて前提となる物語を語ってください。


でも、語ってくれそうにないので、なんとなく視線を移して、三村達を見る。

なぜか紅組のエリカが三村と小野を庇っていた。

その後ろで、小野がミーシャ先生に小突きまわされていた。


聞こえてくるセリフを並べるとこんな感じになる。

「待ってくだサイ、皆サン! 三村さんト、小野さんハ、私ヲ庇ってくれたんデス! 責めるナラ私を!」

「エリカ! いいんだ! 俺達が勝手にやったことだ。エリカが謝る必要なんてない!」

「えーと……。訳を聞いて欲しいんだけど? ミーシャ」

「聞いていいの、訳? その後、お仕置きが軽くなるとは限らないわよ? というか、間違いなくきつくなるわよ? (……といいつつ、どつく)」

どうだろう?

意味が分かる人、居るだろうか?


「澄空。教えてくれ。俺は、澄空悠斗のチームの一員として、正しいことをしたのか?」

「…………」

その前に、『澄空悠斗のチーム』ってやつ、いい加減にやめないか?


◇◆


状況はこれ以上ないくらい混沌としていたが、あまり時間もなかったので、賢崎さんが出て来て強引にまとめてくれた。


まとめると、こんな感じになる。

1・澄空悠斗は騎手をする。

2・三村と小野は騎馬として、澄空号を最後の一騎にさせなければならない。

3・させなければ精神的にリンチする。もしくは、クラスメート全員にファーストフード的なもので食べ放題を進呈する。(※白組所属の他のクラスにも、なんらかの物的お詫びをする)

4・峰もついでに澄空号の騎馬をする。


…………。

さすが、賢崎さん。

話が進んでる時は、凄く納得できる理由を並べていたのだが、こうやって改めて状況を確認してみると全く意味が分からない。

おまけに、棒倒しの時に何があったのか結局聞けなかった。

それどころではなかったのもあるが、俺は、賢崎さんが『もうここまで来たら、話さない方が面白いかもしれませんね』と小声で言ったのが忘れられない。


と。


「澄空。そろそろ始まるぞ」

俺の下。

前側の騎馬を務める三村が声を掛けてくる。

「あ、ああ。分かってる」

少し緊張している。

脚が地面につかないのは、ちょっと落ち着かない。

そもそも。

繰り返すが俺は目立たないヒトだったのだ。今まで上になんか乗ったことはない。


「しっかりしてよ、悠斗君」

左後ろの騎馬をしている小野にもたしなめられる。

「悪い……」

「もし負けて、クラスメイト全員に奢ることになったらミーシャに借金しないといけない。それは死ぬより恐ろしいんだよ」

そですか。


それはともかく、俺は非常に気になっていることがある。

「…………ハチマキは、いつ配ってくれるんだろう?」

ということだ。

BMP能力使用全解禁とはいえ、『ハチマキが取れれば負け』ルールがあれば、かなり危険度は下がると思うんだけど……。

「ハチマキはない。失格となるのは、騎手が地面に付いた時だけだ」

と答えるのは、右後ろの騎馬を務める峰。

いつにも増して真剣な表情である。

「俺が仲間を軽く見ている訳じゃないことを証明する」

などとも呟いている。

本当にさっきの棒倒しで何があった?


と。


『みなさん、準備はよろしいでしょうか?』

放送が聞こえる。

一瞬、賢崎さんの声かと思ったが、少し違う。

この声は……、生徒会副会長の櫃元彩夏さん……だったか?

『一部の団体と個人のおかげで例年になく盛り上がった新月学園体育祭も、いよいよ最終種目です』

……俺とKTIのことだろうな、たぶん。

『参加人数は26組104人。銃帝・飯田謙治、剛腕・大岡忍、そして、魔人・澄空悠斗と新月学園男性陣を代表する実力者がエントリーされました』

誰が魔人やねん。

『ハチマキなどという安全装置はありません。敗北条件は落馬のみ。紅白の組も関係ありません。自騎以外は全て敵です。見事100人斬りを達成して見せてください』

自騎の人数を引いてちょうど100人になるところが心憎いな、などとくだらないことも考えてみる。

『自騎の人数を引いてちょうど100人になるところが心憎いな、などと暇なこと考えた人はさすがにいないと思いますが、かなりハードな闘いになるのは間違いありません』

……緋色先生並みにSな人だな。

『紅白の得点差は図ったように僅差。この騎馬戦の勝敗で全てが決まります。というか、ぶっちゃけると、騎馬戦前に勝負がつくとつまらないので、意外に暗躍する副会長が、一生懸命不自然にならない程度に得点設定をしました。棒倒しで白組が勝ってしまいそうになった時はちょっと焦りましたが、三村君と小野君の裏切り行為のおかげで助かりました。グッジョブ』

ぶっちゃけるなよ。隠しておいたら普通にお手柄なのに。

というか、三村と小野の裏切り行為って何だろう?

『ということで!』

まあ、なにはともあれ。



『新月学園体育祭最終種目……騎馬戦。開始です!』

始まった!


◇◆

※『新月学園体育祭ダメージ無効化結界展開責任者二宮修一の報告書9:騎馬戦について』



新月学園体育祭最終種目・騎馬戦。

100年の歴史を持つ新月学園体育祭において、当初から例外なく最終種目として採用され続けた伝統の競技だ。

今年は異常に女性陣が強いのでアレだが、とりあえず新月最強の男を決める名誉ある闘いと言っていいだろう。


もちろん26組全てにチャンスはあるが。

順当に考えて、可能性が高いのは三組。


まずは、新月学園五帝。対人タイマンなら天竜院透子を抑えて新月学園最強(※ただし、ソード・ナックル両ウエポンを除く)とも言われる銃剣士(シェイプシフト)・飯田謙治の組。

次に、次期五帝候補の一人である金剛腕(ダイアモンドアーム)の大岡忍を騎手に、パワー系の精鋭部隊で固めたKTI親衛騎団組。

そして、大本命。澄空悠斗と小野倉太を擁する、我が峰達哉君の組。


興奮で鼻血が出そうな程だが、この種目の危険度は今までの種目の比ではない。

全力で、結界を張り続けなければ!

◇◆

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