第16話 避難所にて

「でも、わざわざ、俺を探しにきてくれたのか?」

並んで廊下を歩きながら、三村に話しかける。

この2か月の付き合いで、外見こそ弱ナンパ風味だが、なかなかいいやつだというのは分かっていたが、こんな時にまで他人を気遣える兄貴属性の持ち主だったとは。

「まぁな」

苦笑する三村だが、なんだか元気がない。

まあ、こんな状況で元気があっても、どうかとは思うが。


「なあ。澄空……」

「ん?」

「その……。おまえ、こんなところにいていいのか?」

「?」

「ああ……。聞き方が悪いよな」

珍しく言いにくそうにしている三村。なんなんだ?

「その、こんな一大事に闘えずに、悔しいとかはないのか……?」

「と言われてもな……。俺、まだ、BMP能力とやらが使えないし。ん? そういや……」

三村は闘わなくていいのか? と聞こうとすると。


「俺のBMPは121。ギリギリ能力が使えるって程度だからなー。邪魔になるから、来るなってことだろ」

これも三村には珍しく、自嘲気味に答えてくる。

「ふーん。どのくらいまで上げれば、呼んでもらえるんだろうな」

四捨五入して130になる125か。いや、まてまて単に数字の問題とは限らない。

能力特性があるだろうし、年齢制限もあるのかも。


などと、俺がいろいろと推論を述べるていると。

「おまえ、やっぱり、変わってるよな」

などと、失礼なことを言われた。

「それをいうなら、弱ナンパ男風味のくせに、おまえがナンパしてるの見たことないぞ。そっちの方が変わり者だい」

「悪かったな……」

と、にわかに真剣な顔になり。


「BMP能力者はさ、特に高BMPになるほど、幻影獣狩りに執着するんだ。俺なんかですら、こんなところで留守番させられて悔しい。なのに、おまえは……」

口ごもる三村。


「……?」

「……」

「…………?」

「……ぷっ」

笑われた。

「いや、おまえは大したもんだって話だよ! 剣がべったりなのもわかるなー」

と、なにやら一人納得したような三村。

こいつ、ひょっとして、情緒不安定になってるんじゃないだろうな?


「三村……?」

「いや、俺も大丈夫だよ。そだな。また、次があるし。今はおとなしく、二人でBMPヴァルキリー様のご帰還を待つとすっか!」



◇◆◇◆◇◆◇



俺は常々疑問に思っていたことがある。

それは『体育館を避難場所にするのは本当に正しいのか』ということだ。


内部構造は、むき出しで、なんだか強い力を受けると壊れそうだし、だだっ広くて寒そうだし。


だが、今日、その疑問が解けた。


最初にその光景を見たときは、さすがに驚いた。

行列を成す人々が体育館の中で次々に消えていくのだ。

なんと、体育館の中央に隠し階段が設置されており、そこから地下に降りれるらしい。

そして、地下は核の直撃にも耐えられるという、とんでもないシェルターになっている。

ついでに、5000人が一年間は生き延びられる仕様になっているらしい。


……普通に凄え。



◇◆◇◆◇◆◇



シェルターでは、意外な再会が待っていた。


「悠斗さん。お久しぶりデス」

「ほ、本郷さん!?」

「エリカでいいデス」

と言って、エリカは俺の手を取って振り回した。


「2か月も会えなくて、気になってましタ。悠斗さん。ちゃんと学校来てましたカ?」

「来てたよ、一応」

成果は上がってないけど。

「1-Cにいるのは知ってたんですケド、なかなか行きにくくてズルズル来てしまいましタ。こんな時に再会できるなんて心強いデス!」

……いや、なんの役にも立ちませんけどね。


と、いきなり後ろから首を絞められた。

「澄空ー」

「み、三村……?」

「学園一の美少女のヒモみたいな生活しておきながら、こんどは『金髪の妖精』となんだか怪しい雰囲気作りやがって……。いくらBMPセレブだからって、いったいどういう了見だ?」

おまえこそ、そのセンスの悪いニックネームはいったいどういう了見だ?

そして、誰がヒモだ。誰が!


「悠斗さんの転校初日に出会いましタ。いろいろと相談に乗ってくれて助かりましタ。一緒に幻影獣と闘ったりもして、頼もしかったデス!」

……おかしいな。俺の記憶とだいぶ食い違いがあるぞ?

「……やっぱりいいよな。高BMP能力者は。これは決して、俺が弱ナンパ男風味だから羨ましいわけじゃないぞ。男なら、誰でも羨ましい状態だ!」

そして、力説する三村。


弱ナンパ男風味って言うの、もうやめようか。


「三村さんは、121なんですカ! 羨ましいデス」

「いや、本郷さんだって119なんだろ。俺と2しか変わらないじゃないか」

「でも、120超えたらBMPハンター登録できマスよね。やっぱり、120の境は大きいデス」


避難中だというのに、なんだか盛り上がっている三村とエリカ。

核戦争にも耐えられるというだけあって、普通の避難所ほど雑然とした雰囲気はないが、それでもこんな状況だ。

よくそんなに盛り上がれるなー。


「いやいや、BMPハンター登録したところで、120をギリギリ越えたような高校生には仕事なんて回ってこないんだよ」

「そうなんデスカ?」

「まったく。仕事さえくれれば、いくらでもやってやるのに! 187もあれば、仕事なんて選び放題なんだろうけどなー」

ひょっとして、俺のことか?

俺も仕事なんてもらってないぞ。麗華さんは、時々行ってるみたいだけど。


「でも、悠斗さんはBMP能力が覚醒していないのデハ?」

「そうそう。だから、剣のヒモみたいな生活してんだよ。高校生でヒモって凄いよなー」

……ヒモじゃないやい。


新月学園地下シェルターは、広大だ。

避難してきた人も一か所に押し込められるということはなく、50人くらいずつ別々の部屋に分かれて入っている。

長期避難を前提としているからか、ちょっと小奇麗な集会場といった雰囲気だ。

もちろん長期滞在したいとは思わないが。


その時だった。


『緊急事態発生! 緊急事態発生!』


突然、シェルター内に警報が響く。

今日は、緊急事態の大安売りだな。

もう驚くまいて。


『Bランク幻影獣が一体、この新月学園を目指して侵攻してきています! 現在、首都の国家維持軍は東方砦に集結しており、救援には時間がかかります! 非常事態につき、対幻影獣結界を最高出力にて稼動します! 精神干渉により、人によっては精神状態が若干不安定になる恐れがありますので、みなさま、気をしっかりお持ちになってください!』


驚いた!


「び、Bランク幻影獣……!」

避難した人たちも絶句している。


幻影獣は、おおまかにAからDの四つのランクに分けられている。

Dランクは危険度の低い幻影獣。三村と初めて会った時のウサギみたいなやつがこれにあたる。

Cランクは一般的な幻影獣。麗華さんがフラガラックで一蹴したやつはこれだな。Cの強い方だ。今、東方砦に向かっている幻影獣の軍団も全部これだ。

そして、Bランク。

これは、いわゆるボスクラスにあたる。

日常でほとんど現れることはない。

一体で、軍団に匹敵すると言われ、その大きさも強さも桁違いだ。

もっと分かりやすく言うと。


超ヤバイ。

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