第14話 どこにでもある『特別』

翌日。

昨日の激闘(麗華さんしか闘ってないけど)が嘘のように、平和な教室。

その静寂を破る乱入者が現れた!


「澄空!」


このクラスのもう一人のBMPハンター、三村宗一だ。


「聞いたか! 澄空!」


「もちろんだ。新月学園の学食が、ささみチーズフライの販売を一時停止するという話だろう?」

悲しむべきことだ。

「誰が、ささみチーズフライの話をしてるんだよ! 他にも、うまいモンはあるだろうが!」

何を言っているんだ、こいつは?

「いくら、おいしい料理を並べていても、『ホーム』となる料理は必要だ。ささみチーズフライ、ささみチーズフライ、ラーメン、ささみチーズフライ、ささみチーズフライ、トンカツ……といった具合に」

「だったら、『ホーム』を変えろよ! 牛丼、牛丼、カツ丼、牛丼、牛丼、鳥の唐揚げ……といった具合に!」

「む」

なるほど、一理ある。

だが、しかし。

「それは、ささみチーズフライに対する裏切りにはならないだろうか?」

「……な、なるほど。そう言われると難しいな……」

「だろう?」

言ってて、自分でドツボにはまっている気がしてきた。

今、別のものを食べると、もう二度とささみチーズフライは食べてはいけないということになってしまうのだろうか?


「で、三村。本当にささみチーズフライの話をしに来たの?」

横から麗華さんの声がする。


何を言っているんだ、この美少女は?

他の話をしているように見えるのか?


「っと、そうだった。澄空のせいですっかり脱線しちまった」

え? 違うの?



「これだよ、これ」

と、三村が差し出してきたのは、薄っぺらいわら半紙だった。


「なになに」

『季報・新月』と書かれてある。どうやら、校内新聞の類らしい。

「この学校、校内新聞とかあったんだな」

「二年前まではな。そんで、これが二年ぶりに復活した『新、季報・新月』だ」

ほう。それは、確かに大ニュースだ。

誰が復活させたのかは知らないが、大した人物に違いない。


肝心の紙面は、と。


「衝撃! 深夜の激闘。寄生型幻影獣対BMPヴァルキリー」

麗華さんが、後ろから見出しを読み上げる。


「昨夜、20:00頃、新月学園にほど近い路上。偶然居合わせた本誌記者の眼の前で、寄生型幻影獣と、有名なBMPハンターであり、本校の生徒でもある剣麗華さんとの戦闘が繰り広げられた。人間の精神に寄生し操るという危険極まりない能力を持つ幻影獣に対し、剣麗華氏は、精神体を攻撃する『干渉剣・フラガラック』で応戦。圧倒的な強さでこれを殲滅し……」


そこに書かれていたのは、まぎれもなく昨日の戦闘の一部始終だった。あと、麗華さんの普段の学園生活とか。

なぜか、俺の体育館での『審判の獣』騒ぎも書かれていた。

ついでに、季報・新月を復活させた『本誌記者』とやらの顔写真も載っていた。もちろん新月学園生だが、勝気な瞳が印象的な、なかなか可愛い子だった。


「しかし、いい文章書くなー。まるで、見てきたみたいだ」

「……おまえの目は節穴か、澄空。ちゃんと『偶然居合わせた本誌記者の眼の前で、』って書かれてるだろうが」

「ああ、確かに」

しかし、待てよ。あの場所には、俺たちの他には委員長しかいなかったはずだが。


「いや、だからな。澄空……」

物覚えの悪い子に対するように、少しいらつきはじめる三村。

……なんだというんだよ。




「新、季報・新月。楽しんでいただけましたか!」


ガラっとドアを開けて、良く通る声が教室を走り抜ける。

見ると、季報・新月に載っている『本誌記者』がそこに立っていた。

写真と同じ、勝気な目が魅力的な女の子だ。


「ああ。凄く良かった。主役は麗華さんなのに、なぜか俺のことがちょろちょろ書かれているのは気になるけど、この臨場感は凄いね。いったいどこで、あの闘いを見てたんだ?」

と、俺としては褒めたつもりだったんだが。

なぜか、記者さんは、ぽかんとした表情をした。

……え。俺、またなんかした?


「澄空よ……」

「か、彼は大物だから……」

「というか、あれ、本気で言ってるのか?」

「澄空君は、天然だから。ネタとかじゃないと思う」

「にしても、ベタだよな」

「でも、委員長、ほんとに別人みたい!」


クラスメイトの訳の分らない非難を浴びる。

疎外感を感じた俺は、三村と麗華さんを見た。


「澄空……。おまえ、ほんとに気付いてないのか?」

「三村。悠斗君を責めてはいけない。きっと、昨日の戦闘で疲れている」

麗華さんのフォローになっていないフォロー。

だって、昨日、俺、何もしていないし。



「もう、これでどう!」


と、記者さんが、颯爽とした姿で眼鏡をかける。あれ、どこかで見たような。


「だったら、これでどう!」


と、どこかで見た女の子が、髪をみつあみにする仕草をする。


「って、委員長!」


それは、まごうことなき委員長だった。

俺は、慌てて、季報・新月に目を移す。


でも、

「本誌記者『新條 文』」

ほら見ろ。どこにも委員長なんて書かれてないぞ。


「それは、委員長の本名だー!」

「それは、委員長の本名だー!!」

「それは、委員長の本名だー!!!」

「それは、委員長の本名だー!!」

「それは、委員長の本名だー!」

クラスメイトの大合唱。


怒られました。



「ほんとに、澄空くんは、つかみどころがないですね」

委員長が、呆れたように、言う。

いや、単に馬鹿なだけですよ。


「BMPハンター専門のライター。これが、今日から私が目指す『特別』です」

勝気な瞳には一点の曇りもなく。

委員長は、清々しい声で言い切った。


そうだな。うん。

きっとそうなんだろ。


「だから、これから、よろしくお願いしますね」

俺に向かって、礼儀正しくお辞儀をする委員長。

ん、あれ?


「え? 麗華さんをメインで取材するんじゃないの?」

「何を言ってるんですか? これから、澄空君が世界一のBMPハンターになるんでしょう?」


涼しい顔で大型爆弾を投下する委員長。


「い、いや。俺はまだ、BMPハンターになれるとは……」

「委員長さん」

しどろもどろになる俺を見かねたのか、麗華さんが助け船を出してくれた。助かった。


「委員長さんは見る目がある」

麗華さーん!


「まだ能力も目覚めてないってのに、大変だな。澄空」

人ごとのような口調で、三村が言う。

そして、『絶対に悠斗君は、まかせておけっていうに決まっている』光線を出している麗華さん。


「取材、してもいいですよね?」

勝利を確信したかのような委員長。


俺は……。


「………ま、まかせておけ……」


結構、ヘタレだった。

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