決戦! ドラゴン…ドラゴン?⑥

「ペルル殿! これはいかなることか!」

 ほーら、朝から雷が落ちたのよ。相手はレオナード…ではなくて、予想通りと言いますか、やっぱりカーライルちゃん。ホント血管切れないかしら…少しは心配しておくわ。

「大丈夫ですよ、皆動けますから」

 皆、ってのは言い過ぎかもしれない。八割方は動ける、が正解。特にレベッカが酷い。飲みやすいから、ってついつい杯を重ねちゃったやつね。聞くまでもなく二日酔いだわ。

「準備もできておらんではないか!」

「いやー、不慣れなもので。ジャック、急がせて」

「はいよ」

 後の惨状はジャックに任せておこう…。王国軍は流石に訓練されていて、テントも畳み整列も済ませていつでも進軍おっけー、の状態だからね。朝ごはん食べてる子がいるうちとは大違いですわ。まぁ、流石に酷いとは思うけれど…そもそも傭兵部隊ができちゃってるのがおかしい。傭兵団として戦闘に参加することはあるけれど、そう言うのって所謂請負契約でさ、正規軍が直接指揮する立場には無いし。普通は中身は傭兵でもトップは正規軍、って場合が多いのよ。勿論、こういうのも契約でちゃんと定められているのだけれど…やっぱりアリアの傭兵は戦争経験が少なすぎるわ。ジャックのパーティーが唯一まともに動いてる。

「ともかくも、後から追いますので。作戦は各所に別れて捜索、ですよね?」

「ふん、貴殿らに頼らずとも我らが仕留めてくれるわ。このポンコツが!」

 って、捨て台詞も残してカーライル隊が去っていったのだけれど。弓を構えなかった事を褒めて欲しいわ。…まぁ、こちらが悪いのだけれど。

「あいつ、やーな感じ」

「言い返せる状況ならね、良いのだけれど」

 ベルと一緒に振り返る。ばきっ、と大きな音がした。

「あのテント、柱が折れたね」

「…ええ、折れたわ」

 雑に扱うとなんでも壊れるのよね? 例えテントでもさ。

「あれって確か、借り物だよねぇ」

「ベルさん、それ以上言わなくて良いわ」

 やむを得ない事故、という事にしよう。アーノルドから借りた奴だ、また報酬から天引きされちゃう。


 一応、位置関係を確認しておきましょうか。

 ドラゴン、とやらに襲われたベントリー村は野営場所から西に半日の距離なの。片眼鏡のキーファーが主張する十キナ圏内の最東端、ってこと。ここからは部隊を分けての捜索ね。

 これまでは田園地帯をのんびりと歩いてきたのだけれど、ここからは鬱蒼とした森に入る。ちょっとした丘陵になっているみたいで、パッと見ただけでも上り坂が続くみたい。峠を越えて下に降りるとベントリー村、って訳。ベントリー村は盆地にあるみたいね、地図を信用する限りは。

 ともかくも。カーライルが南に、グレイグが直進、メルヴィルが北へと進軍していった。街道は直進方面だけだから、木々を掻いくぐり、下草を漕ぎながらの進軍だ。大変そう。本陣はこのまま、野営地に置くみたい。一日捜索して、何もなければ戻って本陣を一日ずつ前進させる、とのこと。時間かかるなぁ。慎重ではあるけれど。

「俺達はどうする?」

 ジャックが言った。

「ともかくも、街道を進みましょう。どの部隊でも支援にいけるように」

「分かった」

「それから、部隊も前衛後衛に」

「後衛はどうする?」

「レベッカは無理でしょ」

「ああ」

「ジョージに」

「了解」

「アタシらが偵察に行くわ」

「タケシは?」

 そうねぇ。

「前衛に。言葉、通じにくいけど」

「ま、何とかなる。戦場じゃ多国籍だからな」

「それもそうね」

 全員が全員、大陸語が話せる訳じゃないのよ。ジャックは優秀な方。

「昼に一度、戻るわ」

「分かった。前進させる」

「よろしく!」

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