第三章 決戦! ドラゴン…ドラゴン?

決戦! ドラゴン…ドラゴン?①

 アタシって損な性格してるよね?

 そりゃ、手持ちは多少は増えたけれど、働かないと食うに困るのは目に見えてますし?

 何しろアタシら三人ですから?

 翌日もギルドに行かないといけないし?

 ってか昨日、お休みにしてたのよね? 午後からバタバタで全然休めてないけど。アーノルドにも遭遇するし。

 って、言ってもね?

「エルフさん、俺たちも同行するぜ!」

 スキンヘッド組に出迎えされるとは思わないじゃない?

 Aランクだ! エルフだぞ! これなら勝てる! よっしやるぞ!

 なーんて、皆さん大盛り上がりで。

 いやいや盛り上がらないで?

 盛り上がらないで!

「歓迎されてるな?」

「歓迎されても困るんだけど」

 変に聴かれるとアレだから、小声でね、小声で。アイツの言葉は通じないからいいけれど。

「これはもう、観念するしか無いんじゃない?」

「なんでよ!」

 思わず声が出ちゃった。慌てて自分の口を塞ぐ。

「やあ、おはよう」

 相変わらず演者の真似事みたいに両手を大きく広げたアーノルドが現れた。癖なのかしら、アレ?

「皆には既に伝えていてね。ざっと三十名が参加してくれる」

「あのね、勝てるかどうか以前に、死ぬ可能性もあるの!」

「そこは上手くやってくれたまえ。全員、意思表示はしているからな」

 取り出したのは書面の束。分捕る。アリア語と大陸語の併記版。しっかりしてるわね? アリア語はまだ拙いから、大陸語の方を読む。にしても、アリアの文字って変わってるわね…。大陸側は多少の違いこそあれ、アルファベットが基本なのに。アリアは表音文字かしら。

「なになに、誓約書?」

 ベルが覗き込んだ。確かに、タイトルにはそう書いてある。曰く、生命の保証はしない。曰く、死亡時の手当はランクに応じて異なる…なるほど? あと、報酬は山分け…。視線を戻す。

「死んでも良い、ってことね?」

「その通り」

「アーノルド、貴方良い性格してるわ」

「お褒めの言葉と受け取っておきますよ。さ、あまり時間がない。十時にアリア軍と合流だからね」

 はー、と長めの溜息。人を集めて軍に参加させる、と言うのは確かに昨日、領館で言っていた、いたけれど…。凄いわ。本当に参加者を集めるとは思わなかったし。三十人でしょ? 当然、皆も昨日の事件は知っているだろうから、王国軍ですら容易ではない相手、と十分に理解していると思うのだけれど。アーノルドは一体どんな魔法を使ったのかしら?

「アーノルド」

「如何した、ペルル殿」

「名簿が欲しい。それから…そうね、アンタ、何がいい?」

「え、俺?」

「そ、手ぶらでしょう、武器くらい持たないと」

 今日はあいつがたまに着る、動きやすそうな恰好だ。チノ、とか言うパンツに、フードがついた外套。外套はふぁすなー、とかいう道具で開閉するんだとか。異世界では普通の恰好なんだって。

「うーん、銃とか…ないよな」

「ある訳ないでしょ!」

「どうしたかね、ペルル殿」

「こいつが銃が欲しい、と言うから」

「銃ならあるが…高いぞ」

「え、あるの? アタシ、銃ってあんまり好きじゃないんだよな…ま、良いわ。どちらにせよ買えないし。槍は?」

「槍か…うん、それで」

「アーノルド、手ごろで軽くて非力な男でも持ちやすい槍をお願い」

「そんなものはないが…細槍で良いか?」

「ええ」

「キミ、細槍を、それから名簿をお持ちしろ」

 背後で控えていたギルド職員が数名、ばたばたと去っていく。

「他に必要なものは?」

「糧食は?」

「既に用意した。私の決裁で、ギルドから荷駄隊を出す」

「じゃ、それで良いわ。軍との集合場所は…街道沿いだったわね」

 昨日打ち合わせした内容を思い起こす。

「その通りだ。ほら、これが名簿、それから細槍だ」

「アンタ、槍を持ってなさい。名簿は預かるわ。支払いは?」

「報酬から差し引いておく」

「そこは勉強しなさいよ…ま、良いわ」

 ギルドをくるっ、と見渡す。参加者三十余名。覚悟はできている様ね。

「参加者は外へ! アリア軍との集合はシャルル街道の入口だ! 全員、アタシについてきなさい!」

 おう、と野太い歓声が上がったの。

 ねぇ、一言だけ言わせてもらっても良いかしら?

 ヤダヤダ、行きたくなーい!

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