シャルル港にて⑤

「休みにしましょう!」

 翌日!

 朝一に提案。お金は一週間も休みなしに頑張ったおかげで、なんと百リリルもあるのです! 働かなくても、ちょっといい宿に泊まっても、少し豪華な食事をしても、(アタシ一人なら)一週間くらい暮らせちゃう! あいにくこちとら三人なんですけど。

「そうだねぇ。アリアに来てからずっと働きづめだったしね」

「やすみ、うん、さんせい」

 元々の才能があったのか、地頭が良いのか。あいつは思ったよりも早く大陸後を習得していた。勿論、アタシの指導の賜物でもある訳なんですけどね。依頼を片づけた後に一刻ほど、勉強の時間を設けていたのよ。いやー、働き者だアタシ。

 でもまぁ、アタシにもメリットはある訳で。余程難しい内容でなければ翻訳魔法を使わなくても良いのが嬉しい。ほら、マナの垂れ流しはとてもじゃないけどお勧めできないからさ。

「どこ、いく?」

「タケシは、どこ、いきたい?」

 ベルはあいつがお気に入りの様子。伝わりやすいように、いつもよりゆっくり、話してあげている。まー、悪い人じゃないのは分かるよ、アタシでもさ。まともな食材で作らせたら、なかなか美味しい料理を作るし。その分お金は浮くし。少しは認めてあげても良いんじゃないかしら? 少しはね? お荷物なのは変わりないけれど!

「おみせ」

 翻訳しているときは強気なのに、大陸後を使うとたどたどしい感じ。ベルが子供みたいに扱っちゃうのはその拙さもあるのかも。

「お店かぁ。なんのお店?」

「さかな」

「じゃ、フィッシュマーケットに行きましょうか」

「お、良いね~。観光名所だよね、一度行ってみたかったんだ!」

「朝市の朝食が美味しいらしいのよね」

「あれでしょ、海鮮の串焼きとか、フライとか、生魚とか!」

「レモンをかけると美味しい、って聞いたわ。それじゃ、行きましょう!」

 あいつはちなみにきょとん、としてた。まだまだ会話についてくるには難しいみたい。今日は宿の朝食を遠慮させてもらおう。美味しいお魚が入らなくなっちゃうからね。

 大通りに出て、のんびりと。魚市場は港の近くだった。所々に停留所がある。乗合馬車があるらしい…と思ったら、目の前を軽快に駆けて行った。ほとんど満席。行きかう人もとっても多い。今日は平日なんだ。平日にお休みできるなんて、なんだか贅沢…いや、アタシら土日も働いた。

 皆、職場や私塾に向かうんだろうな。手ぬぐいで汗を拭いつつ、せかせかと歩く人。今日も日差しがさんさんだ。重たい荷物を担いだ丁稚は買い出しかしら。前掛は色とりどりで、でかでかとお店の名前。お魚屋さんが多いのは土地柄かしら。アタシが納品したお肉屋さんもある。ジビエを扱っているのね。他にも大工がいたり、竹ぼうきで道を掃いてる人もいる。おはようございます、どうもどうも、おはよう、今日もいい天気ね、また暑くなりそうだ。思い思いの挨拶が飛び交う。

「ほーんと、良い街だなぁ」

「私もそう思う~。色んな国を見たけれど、ここが一番だね」

「ええ。活気が溢れて、素敵だわ」

「シルバは寂しかったからねぇ」

「寂しいというか、堅苦しいというか」

 アタシたちがここに来る前に滞在していたシルバ、ってのは宗教国家でさ。国のトップは教皇が務める、って珍しい所でさ。お陰で戒律が厳しいんだぁ。お酒は碌に飲めないし、お肉だって正月やら大きなお祭りの時か、或いは病気でもしないと食べられなくて。楽しみがぜーんぜん、無いの。ま、裏じゃ皆肉酒の類は食べてるけどね。そんな堅苦しいお国柄なのに、傭兵の依頼だけはすっごく多いの。そりゃ、アタシも稼がせてもらったから、文句は言えないけれど。ミルドガルドって、西と東で仲が悪くてさ。何百年か前に大陸戦争、って言って東西に別れた大戦争をしたこともあるくらい。決着はつかなくてさ、お互い死人こさえて一応休戦、している状態なのだけれど、未だに小競り合いは続いているの。シルバって一応、西側の盟主的な立場だからね、余計戦争が多いんだよ。

 なんてことを、一応あいつにも翻訳してあげた。

「連合国と枢軸国みたいな感じだな。地球にもそういう戦争、あったよ」

「そうなの? 結果は?」

「あんまり、ミルドガルドと変わらないかも」

「人間のやることだからねぇ」

 達観したように、ベルがくるん、と一周舞った。

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