シャルル港にて③

「ペルルさあ」

 ベルがくるん、と四枚の羽根をきらめかせながらくるん、と回った。昨日も通った道。今日は結局、鹿狩りにしたんだよね。周りにはアタシら三人以外、誰もいない。がらがら、と鳴るのは大八車の車輪。あいつに曳かせてるの。また持ち帰れないと大変だし。

「どうしたの、ベル」

「本当に受けるの? ドラゴン退治」

 いいえ、と首を横に振る。

「リスクが高すぎるわ。A、とは言わないけれど、Bランクが何人か加勢してくれるならともかく。お金は魅力だけれど…烏合の衆を指揮する自信は無いし」

「だよねぇ。シャルルを襲う、とかなら話は別だけどさ」

「ドラゴンなんて気ままなものよ。その内どっか、飛んでいくんじゃない?」

 なぁ、とあいつが声を上げた。汗びっしり。前髪がひと房、ぴとん、と張り付いている。

 シャルルは海風があるから、大陸の夏よりは涼しいのだけれど…大八車は軽くは無いし…その割には、ちゃんと曳いているわね。それなりに体力があるのかしら。

「ドラゴン、って、あの空を飛ぶ奴だよな」

「そうよ~」

「羽根が生えてる?」

「大抵はね」

「蛇みたいな、ながーいやつ?」

「そう言うのは…アタシは知らないわ」

「じゃ、西洋風かぁ」

「西洋風?」

「地球の話だよ。火とか吐くの?」

「吐くタイプと、吐かないのがいるわね」

「なになに、タケシ、なんだって?」

 ベルが聞いてきた。

「ドラゴンの種類について」

「なるほど…えっと、有名なのは…火竜、火を吐くやつ、もう一つ、火、吐かない、飛ぶ、速い」

 ゆっくり話したのはあいつが理解できるように、という事かしら。訳してあげる。

「火竜と、飛竜、ってとこか」

「そ。両方飛ぶけどね。火は吐かないけど、飛ぶことに特化した竜を飛竜と言うわ。火竜も飛ぶけどね」

「どっか飛んでいく、とは?」

「竜は他の動物とは違って、厳密な生息域が存在しないの。言うなら、この大陸全部が居住地、という事かしら。とはいえ、なんとなくの出現エリア、みたいなのはある…らしいけれど」

「らしい?」

「研究不足でね。ただ、一部の竜は人間により飼育されているの」

「お、じゃあ竜騎士がいるのか」

「良く知っているわね。そ、竜騎士団は各国、数の大小はあれど所有しているはずよ」

「憧れるなぁ…竜騎士。カッコいい」

「魔導士じゃないとなれないけどね」

「そうなの?」

「そりゃそうでしょ。空中じゃ槍が届かないし」

「遠距離攻撃専門かぁ…確かに戦闘機は槍は詰んでないし」

「セントウキ?」

「地球の空軍…ともかくさ、依頼のドラゴンってのは、要するに野良ドラゴン、ってことだ」

「恐らくそうね。脱走した可能性もゼロじゃないけれど…あまり聞かないわ。ドラゴンって帰巣本能が強いから」

「じゃ、村とか街を襲ったりするんじゃ?」

「その可能性もあるのだけれど…今のところ、被害の話はないし。その辺の野生動物でも食ってお腹が膨れればいなくなる、のが普通ね。わざわざ倒される可能性をかけて人を襲う、ってのは稀よ」

「なんか熊みたいだな…」

「そうね、近いかも」

 なんて話している内に、森が眼前へと迫ってきていた。時刻も良い感じ。

「じゃ、お仕事前に腹ごしらえにしましょうか」

「おうよ」

「今日のメニューはなぁに?」

 ベルが尋ねた。訳してあげる。

「今朝、パスタが手に入ったからさ」

 乾燥パスタ。便利なのよね、日持ちするし。加えて、ニンニクと唐辛子。

「ペペロンチーノだ」

 小枝を拾い、即席の竈を作って適当に組み上げる。火打石で着火。フライパン一つ。

「お鍋は?」

「使わなくてもできるんだぜ」

 持ってきた水でパスタを湯がく。塩を溶かすのも忘れない。パスタを皿に避けて、水をお玉一杯分だけ残して捨てると、今度はたっぷりのオリーブオイル。

「ペペロンチーノのコツはオリーブオイルだ。これをソースにする感じ」

 鷹の爪と粗みじんにしたニンニク。良い香り。塩を一振り。油が白濁する。乳化だ。旨味が出るのよね、乳化させると。パスタを戻して、絡めたら完成。手際が良いわ。昨晩の鷹のスープは失敗だったけれど、ちゃんと調理すれば美味しいものができるらしい。

「おいしー!」

 ベルは満点評価。アタシも…。

「あ、美味しい」

「だろ。ベーコンとかキャベツを入れても美味しいぞ」

「じゃ、今度はそうしましょ」

 しっかり食べて、気合いも充実した。

 じゃ、狩りに行きますか!

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