シャルル港にて②

 ということで。

 予想外の出費があったから今日も稼がなきゃ。

 稼がなきゃ!

 とまぁ、変わり映えもなくギルドに顔を出したの。掲示板へ直行する。周りにはギルドメンバーがちらほら。スキンヘッドのパーティはいないみたい。依頼にでも出かけたのかしら…流石に、ドラゴン退治には行かないと思うけれど。ドラゴンの種類は分からないけれど、いずれにせよCランク三人じゃ心もとないしね。

「今日は何にするんだ?」

「そうねぇ…」

「やっぱり、狩猟系じゃない?」

 ベルの言う通り。困ったときは狩りなのよ。

「ひと狩り行こうぜ」

 ぼそっ、と呟いたあいつの言葉は無視して、さてどうしたものか。イノシシは…ないわね。昨日二頭も狩ったからね。今日は…鹿の依頼がある。鹿のジャーキー、美味しいのよね。依頼主はイノシシと同じお肉屋さん…店舗名が違うな。ジャーキー専門店みたい。あら。これは後で買い付けに行こうかしら。

「なんかさぁ」

 あいつが言った。

「普通の依頼ばっかだな」

「普通って?」

「いや、なんか猟師みたいで」

「そんなものでしょ?」

「そうなのか…いや、なんかこう…魔石集めとか…」

「魔石?」

「モンスターを倒したらもらえる奴、みたいな」

「あのねぇ」

 流石に呆れちゃう。そんなにぽんぽんモンスターが出てきたら大変でしょ。ちなみに動物とモンスターの違いって実は明確ではなくて。人に危害を及ぼすようなものをなんとなく、モンスターとは言っているのだけれど。熊とか虎あたりが微妙なラインね。

「とりあえず、鹿にしましょ」

 と、依頼票を掴んだところで。

「あの、ペルルさん」

「あら、受付の」

 昨日受付してくれた女の子。なんだか慌てているみたい。

「あの、依頼をお受けになる前に、少しお時間を頂きたくて」

「どうしたの?」

「実は…」

「やあ! 君がペルル殿か!」

 テンションのたっかい、若干若作りした中年。ヒューマン。両腕を大きく広げて、舞台俳優の真似事みたい。というか、誰よアンタ。

「申し遅れました…私は統括責任者のアーノルド」

「統括責任者…というと?」

「要するに、ライアンズ商会シャルル支店の支店長、という事だよ」

「その支店長様がどんなご用件で?」

「聞けば、ペルル殿はAランクとか。ライアンズ商会でも指折り数えるほどしかいない、Aランク、と」

「ま、長年やっているからね。ヒトとは違うよ」

「その通り…人間は二十年もすれば老いにより身体が言う事を聞かなくなるのでね。当然に格下げの対象になるのだよ。その分、エルフは違う」

「どーも」

「そこで、一つ頼みごとをお願いしたく」

「というと?」

「この依頼を、受けてもらえないだろうか?」

 アーノルドが掴んだのは昨日見た、ドラゴン退治のもの。

「申し訳ないけれど、受ける気はないわ。理由を知りたい?」

「勿論」

「一つめ。アタシ達はパーティとしての機能は持っていない。ベルは回復と補助専門だし、こいつは…拾ったやつだけど、武器を触ったこともない。戦力になるのはアタシ一人。いくらAランクだろうと、ドラゴン相手に一対一で望むほどアホじゃないから。二つ目、追記事項が気になる。アリア王国軍なら、ドラゴン一頭くらいどうにかなるでしょう?」

「いやはや、その通り。流石Aランクと言ったところですね。むろん、利益相反するつもりはないよ。ご説明を?」

「どうぞ」

「一つ目。仮に王国軍が倒したとしても、半分の1,000リリルをギルドで保証しましょう。二つ目は、ギルドとして参加者を募り、ペルル殿の下に付けましょう。この条件では?」

「確認だけれど」

「なんでしょう?」

「ライアンズは大陸各地でギルドを運営している、一大商会よね」

「その通りです」

「その支店長様が、無達成でも報酬を出す理由は?」

「お答えしかねますな」

「各支店で勢力争いが酷い、と聞いたけれど」

「そのような噂話もございます」

「ちなみに、シャルル支店の数字は?」

 アーノルドが僅かに、苦々しく口元をゆがめた。ほんの一瞬だけれど。すぐに元の笑顔に戻る。

「まだ開設から日が浅いもので、とだけ」

「なら、それでいいわ。1,000リリルは広告代かしら?」

「そう捉えて頂いても構いません。もちろん、アリアとの調整も必要となりますが。Aランク傭兵が在籍し、ドラゴンと倒したとなれば」

「恰好の宣伝になる、と」

「ええ。依頼もギルド登録者も大幅な増加が見込まれます。先行投資とお考え頂ければ」

「でも、仮に王国軍が解決したとして、手柄を譲ってくれる保証はないでしょう?」

「なに、共闘という形でも十分…兵を出した、と言う実績と、それを率いたのがAランク、という事実さえあれば」

「うまく行くかしら?」

「そこは私の仕事ですので」

 はー、って溜息、漏れちゃったのは仕方ないよねぇ。1,000リリルの保証は魅力的ではあるけれど。リスクとリターンのバランスはどうかしら? 確かに一人よりは勝率は上がるけれど、ギルドで公募した傭兵どもが使えるか、と言うと、正直に心もとない。スキンヘッドが言う通り、Cランクで上位と言うなら、主力はDランクやEランクになるはず。功を焦って死傷者多数…なんてことも考えられる。

「損害の責任は?」

「無論、ギルドで。ペルル殿にご迷惑はおかけしません」

 経営者としては有能らしい。ヒトを駒として見れる時点で。

「…少し、考えるわ」

「おお、感謝します!」

「期待しないで欲しいのだけれど」

「いや、検討だけでもありがたいことですよ…では、良いご回答をお待ちしています」

 そう言って、アーノルドは慇懃に頭を垂れた。

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