第7話 空と涙
「ハルさん!絶対に手を離さないでくださいね!」
「だぁいじょうぶだよぉ」
俺は今、空を飛んでいる
...それもハルさんにお姫様抱っこされて
離陸の前にこの方が安定感があると説得されてこの体制になったが、とんでもなく恥ずかしい
たとえ誰も見ていないとしても、恥ずかしいものは恥ずかしい
なのに原因であるハルさんの手の温かさが、冷たい空気に晒されていた俺の体の芯に滲んで、なぜか安心感が俺の体を薄く包む
手を握られていたときに見た手では、絶対に身長も高く体重も重い俺のことを支えられるはずがないのに、この安定感はどこから出てきているのかさっぱり分からない
仙人の秘術でもあるのだろうか、とちらりとハルさんの方を見ると、花が開くような美人が目の前の景色に目をキラキラと輝かせて笑う姿に思わず鼓動が速くなる
(なんで!緊張!?)
なぜか早くなる心臓についハルさんの体に顔を近づけて力を入れてしまう
「ほら!クロ!社があんなに小さいよ~!見える~?」
「見たくないです!」
思わず体を近づけた俺が怖がっていると思ったのか、ハルさんは悲鳴をあげて体にくっつく俺に、わくわくと景色の実況をしてくる
空を飛んでも全くハルさんの態度は変わらない
いつものようにへらへらと笑って楽しそうに言葉を紡ぐ
飛ぶまではハルさんに力を入れないように入れないように...と優しく抱いていたハルさんの首にも、つい力がどんどんと込められていく
「ほら~クロ~速くするよ~」
「いや、やめ!ハルさん!ねぇ!降ろしてー!」
誰もいない空に響くハルさんのころころとした笑い声と俺の悲鳴
2度と空は飛びたくないと強く思った
「足が...ガクガクする...」
「いやぁ~楽しかった~」
俺の家の近くの山の頂点に降りてからぶるぶる震えている俺を、ケラケラ笑い続けている
ハルさんの弾けんばかりの笑顔を見てから止まらない鼓動を誤魔化すように、強く自分の胸を叩いて笑い続けるハルさんを少し睨む
ハルさんはひとしきり笑い終わるとふわふわと街が見えるところまで歩き、こちらに質問を投げる
「クロ、ここは何が有名なの?」
質問に答えるべく、笑い続ける膝を必死に抑えて初めて下に広がる自分の住む街を見る
「石置は都に続く大きな道の外れにある山に囲まれた小さな交易街です」
「にしては田が少ないね」
「えぇ、外れと言ってもこの街を突っ切って囲む山を越えると都への近道になります、なので危険を省みず何組もの商人が街に入ってこの山を越えて他の商人より早く都に入ろうとするんです」
下に広がる街に見覚えのある家があるのを見つけて、ほっと息を吐き、足についた泥を叩いて落とす
「ハルさん、行きましょうか」
声をかける俺に、ハルさんは母親のような笑顔を向けるとうん、と小さく頷いた
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