番外編 神話は語る

 都へ繋ぐ大通りの空は晴天、今日もいつもと変わらぬ人通りで、子連れに老夫婦に荷物を持った商人に...とさまざまな人が道を歩く

 そんな大通りの少し外れた細道で、いつもなら我が物顔で道を占拠している子供たちが、今日は一箇所に固まって座っている

 子供達の中心には15、6ぐらいに見える少女が、子供たちと同じ目線になってお話をしている

 どこかのお嬢様なのだろうか、綺麗な白い着物に桃色の帯締めを締め、綺麗な黒髪をおさげにして結んでいる

緑色の大きな瞳を優しく細めて遊んでくれと乞う子供たちをいなしていく

 1人の少女が足を掴んで声を張る

「おねぇさん!おもしろいおはなしきかせて!」

好奇心がありあまる子どもたちは少女の一言に賛成しておはなしして!と飛び跳ねる

「じゃあ神様のお話をしましょうか」

少女はまだ幼さの残る優しそうな顔を柔らかく崩し、自身に集まる子どもたちに神話を語る

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 むかしむかし、まだ天神が世を作ったばかりの頃でした

天神は各地に世を治める神を創り、その地を管理してみよとおっしゃられました

 管理をしてみよと言われた神々は、相談し合い地面を創ることにしました

 地面を創った後ある神は、1人でその地を治め始めました

そしてまたある神は自分の部下を創り治めました

 我々が住むこの地の神は夫婦神になり、子供を産んで子供と共にこの地を共に治めることにしました

まず一番最初に生まれたのはは春戦ぐ神、次に夏拓く神、3番目に秋凪ぐ神、最後に冬鎮む神が産まれました

この4柱の兄弟神が産まれたことで四季が順番に巡るようになったのです


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「そのおはなしきいたことあるよ!」

子供たちの中の1人の少女が手を上げて高い声を響かせる

「つまがみさまがじめんにはいっちゃうんでしょ!」

 少女の声に反応して他の子どもも手を上げて自分もと言い始める

 変わらない微笑みを付けた少女は、指を一本立てて子どもたちに問いかける

「じゃあ5人目に生まれた神様は知ってる?」

しらなーい!という子供たちの興味津々な合唱へふふ、と静かに笑うと少女は続きを話し始める

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 自らが産んだ兄弟神が仲良く地を治めていることに喜んだ夫婦神はもう1柱神を産みました

 産まれた神は死を運ぶ死墜つ神でした

死墜つ神が産まれたことで地に棲む全てのものに四季が巡った後死が巡るようになりました

 この事に酷く心を痛めた母神は、死墜つ神と共に地の深くに国を創り、死が巡った者達をもてなす事を父神に話すと、産まれたばかりの死墜つ神と地の深くまで続く穴を通して地の深くへと沈んでいき、その穴を大きな石で塞ぎました

 母神を愛していた父神は母神の一番近くにいれるように大地の一部へとなってしまいました

 死墜つ神の巡らせる力は地の深くに沈み、父神の大地があることで何十年に1度に巡る様になりました

 ですが残された4柱の兄弟神は、親神が居なくなった事に深く悲しみ、居なくなった親神の代わりになれるように様々な神を創り、地を治めることにしました

 こうして我々が住むこの地が創られたのです

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 少女が話し終えると、子どもたちは未だ有り余る好奇心の体重を少女への質問に一斉にかけた

「おねーさんどこでそのはなしきいたの?」

「神様に聞いたのよ」

「かみさまってどんなひと?」

「皆様性格は違うけれど、お優しい方でした」

「しおつかみも?」

次々に子どもたちの質問に答えていた少女はその質問を聞いて微笑みを少し固くする

「うぅん...そうですね...死墜つ神は...傲慢な方だったと聞きましたね」

「えぇ~!かみさまなのに?!」

神様は優しいものばかり、と考えていた子どもたちは大きな目をまん丸に開いておどろく

「えぇ、だから貴方達も死墜つ神には名前を言ってはだめよ」

 少女は口に人差し指をあてて子どもたちに怪談話をするように声を低くして話す

「なんで?」

「死墜つ神は愛がこもったものがお好きだから...名前は一番に奪いに来られるわ」

「なまえをうばわれるとどうなるの?」

子どもたちは不安げに首を傾げる

「さぁ...皆に忘れられてしまうのかも、しれないわね」

やだー!と叫ぶ子どもたちに親御さんには秘密よ、と悪戯に笑う少女の静かな笑い声は、大通りの喧騒と晴天の青空に消えていく

 遅い春を待つように、青空を薄雲が寒い空気を連れて通っていった

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